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2018年11月27日

第17回 精神疾患が教科書に

毎日新聞 2018年11月14日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 先日、2022年度から高校の保健体育の教科書に精神疾患の記述が40年ぶりに復活するというニュースが目を引きました。新学習指導要領には「精神疾患の予防と回復には、運動、食事、休養及び睡眠の調和のとれた生活を実践するとともに、心身の不調に気付くことが重要であること。また、疾病の早期発見及び社会的な対策が必要であること」と盛り込まれました。これらは、海外ではメンタルヘルスリテラシーと呼ばれ、学校教育にも取り入れられています。

 精神疾患は、がん、脳卒中、急性心筋梗塞(こうそく)、糖尿病と並ぶ5大疾病の一つです。中でも患者数は300万人以上と最多で、生涯で5人に1人が経験します。自殺者の9割がかかっているという報告もあり、自殺は15~34歳の死因の1位を占めます。これは主要先進7カ国では日本のみです。2分の1が10代半ば、4分の3が20代半ばまでに発症するといわれ、知識がないと早期発見につながらず、偏見や差別、いじめにつながります。

 先月、日本精神科診断学会でヘルスリテラシーのシンポジウムがあり、日本人が苦手な健康に関する意思決定の支援方法について話しました。その他の演題で興味深かったのが、精神疾患に関するネット検索の研究です。メンタルヘルスリテラシー不足の多くの若者は、精神的な不調を感じた場合、ネット検索に向かいます。そこで「うつ 診断」などと検索すると、セルフチェックのサイトが現れ、回答すると「病気の疑いがある」といった受診を勧める結果が出るそうです。早期発見につながる可能性はありますが、十分な科学的根拠があるとは言えません。発表者は、本質的な問題から目をそらさせたり、病気と思い込んで苦しんだりするリスクがあると指摘していました。他方、英語で検索すると、病気の説明が中心で、セルフチェックは見当たらないそうです。これは日本人が自分で意思決定することを避けて、誰かに決めてもらおうとする傾向が強いためではないかという議論がありました。

 新学習指導要領の保健の分野全体では、小中高を通じ、心身の健康には不可欠な「課題を見付け、その解決に向けて思考し判断する」という問題解決力や、意思決定力といった健康を決める力に関する項目が新設されました。中高では「健康に関する情報から課題を発見し」という文言も加わりました。先生や生徒・児童を応援するためにも、問題解決の選択肢とその長所・短所をよく知り、自分の価値観に合った意思決定をすることの大切さを伝えていきたいです。

次回は12月19日掲載



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新学習指導要領の保健で新設された項目(一部抜粋)
【高校】
  • 生涯を通じる健康に関する情報から課題を発見し、健康に関する原則や概念に着目して解決の方法を思考し判断するとともに、それらを表現する
  • 健康を支える環境づくりに関する情報から課題を発見し、健康に関する原則や概念に着目して解決の方法を思考し判断するとともに、それらを表現する
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