毎日新聞コラム「健康を決める力」

第11回 記録文書を残す意義

毎日新聞コラム「健康を決める力」

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毎日新聞 2018年4月22日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 行政の文書のあり方が問題になっています。それで思い出すのは10年ほど前、大学で歴史的な資料や文書について検討する委員会に入った時のことです。日本の大学は、学内の文書をきちんと保管・整理して公開する文書館(英語ではアーカイブと言います)の設置の点で、世界から大きく遅れていることを知りました。

 欧米では、図書館、博物館、文書館の三つがそろっているのが近代大学の証しだと聞きました。実際に大学の文書館に行って1920年代の時間割を見せてほしいと頼むと、専門職員(アーキビストと言います)がすぐに出してくれるそうです。日本の大学で初めて本格的な文書館を設けたのは京都大学で、2000年のことでした。翌年に施行された情報公開法が契機だったそうです。

 日本の国立公文書館の職員数が四十数人なのに対して、米国では数千人規模であることにも驚きました。そして、米国の国立公文書館のサイトを見ると「民主主義はここから始まる(Democracy Starts Here)」という一文が目を引きました。

 同じ頃、乳がん患者への医療やケアで、さまざまな職種の医療者がかかわることの意義を明らかにする研究に加わっていました。「現在、安心して治療を受けていますか」「病気や治療について十分理解できるまで、医療者はあなたに説明していますか」「あなたの意向に沿った医療が行われていると思いますか」などの項目を患者に回答してもらい得点化しました(表)。得点が高い患者ほど患者中心の医療を受けられていると考えられます。その結果、得点が高い患者ほど、医療者同士が自分のことについてよく連絡をとりあっていると思うと回答していました。

 より患者中心だった病院には、どんな特徴があったでしょうか。数多く分析しましたが、関連した要因はわずかでした。それは、多職種の医療者が参加するカンファレンス(会議)が定期的にあり、その記録が各職種の視点を盛り込んだ形式だったことです。さまざまな職種の記録があってこそ、患者は医療者同士が自分のためにコミュニケーションをとっている様子を目に浮かべられるのです。

 そこで学んだことは、人々の対話やコミュニケーションとそれに基づいた意思決定の記録を文書として残す意義です。文書を歴史として蓄積することが、文化や信頼関係を育みます。それは、一人一人がそこで生きた証しにもなります。
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患者から見た患者中心の医療の項目
(Komatsu,et al.,The Open Nursing Journal,2011より)
●現在、安心して治療を受けていますか
●医療者はあなたの意向や問題に迅速に対応していますか
●病気や治療のことについて十分理解できるまで、医療者はあなたに説明していますか
●病状や治療の変化があった時、状況に応じて適切な援助を受けられていますか
●あなたの意向に沿った医療が行われていると思いますか
 回答は「大変そう思う」(5点)から「全くそうは思わない」(1点)までの5段階で合計点を算出
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毎日新聞掲載記事はこちら

次回は5月27日掲載

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