毎日新聞コラム「健康を決める力」

第6回 信頼できる情報、どこに

毎日新聞コラム「健康を決める力」

毎日新聞 2017年10月15日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 子どもが幼い頃、腕から床に落ちて、肘が曲げられなくなることがありました。これは以前、仲のいい先輩の子どもがなって驚いたという肘内障(ちゅうないしょう)かも、と思いました。肘が抜けたような状態で、先輩からは「『子ども 腕 だらり』で検索するとわかるんだよ」と聞いていました。

 それでも医者に診せた方がいいと思って、もう夜でしたが、何とか病院を見つけて受診しました。ところが専門外の医者でレントゲンでもわからず、帰ってきてしまいました。このままにはできないと思い、ネットで見つけた図やビデオを見比べて試したところ、元に戻すことができました。危なっかしい話ですが、感動して、その後も何度か治した記憶があります。これも、たまたま聞いていたから探せたわけで、そうでなければ、かわいそうに、小児科を受診するまでそのままにせざるを得なかったでしょう。

 やはり健康情報というのは今すぐに欲しいものです。すぐに受診できなかったり、受診しても解決しなかったりする場合は特に、インターネットが役に立つことが望まれます。しかしどうも、日本では、健康情報を見つけるのが難しいようです。私たちの調査では、気になる病気の症状や治療、心の健康問題に関する情報を見つけるのが「難しい」と答えた割合は、5割前後でした(表)。病気の予防に関する情報や生活習慣の改善の情報でも3~4割です。健康情報を入手し、理解し、評価して、適切に決められる力であるヘルスリテラシーが欧州8カ国の調査で最も高かったオランダでは「難しい」は1割前後しかなく、大きな差がありました。オランダでは多くの人が英語を使えて、米国立医学図書館のメドラインプラスへのアクセスが多いというデータもあります。

 見つけるのが難しい中で、多くの人がネットで検索していて大丈夫なのでしょうか。以前、ネットで健康情報を調べたことで問題が発生したと思われる事例がないかと、Q&Aサイトに寄せられた質問を検索しました。最も多かったのは、ネットで調べるほどわからなくなったり、不安が増したりするといった「新たな情報でかえって混乱する」という事例でした。その次は「見つけても理解できない」「探しても見つからない」でした。  この状況では、英語を勉強するか、ネットの翻訳機能を活用するのが早いでしょうか。ちなみに肘内障は英語でnursemaid's elbow(子守の肘)と言います。子どもの腕を強く引くとなるからのようです。わかりやすく混乱しない健康情報へとやさしく腕を引いてもらいたいものです。

次回は11月19日掲載


健康情報を見つけるのが「難しい」と回答した割合の比較

●気になる病気の治療に関する情報を見つけるのは
日本:53.3% オランダ:12.3%

●ストレスや抑うつなどの心の健康問題への対処方法に関する情報を見つけるのは
日本:52.9% オランダ:22.0%

●気になる病気の症状に関する情報を見つけるのは
日本:46.1% オランダ:7.5%

●受けなくてはならない予防接種や検診に関する情報を見つけるのは
日本:40.1% オランダ:11.6%

●太りすぎ、高血圧、高コレステロールなどの予防法や対処法に関する情報を見つけるのは
日本:34.7% オランダ:6.3%

●喫煙、運動不足、お酒の飲み過ぎなど不健康な生活習慣を改善する方法に関する情報を見つけるのは
日本:28.3% オランダ:2.8%

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