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2019年11月 8日

第27回 意思決定できるスキルを

毎日新聞 2019年11月6日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 ラグビー・ワールドカップが終わりましたが、特に日本代表には力をもらって感謝です。対アイルランド戦の時は、出張先の空港で3点差に迫った前半終了時まで見て搭乗しました。機内ではWi―Fiがなぜかつながらず、着陸後に見た結果は息をのむ逆転勝利でした。予選2位通過が対戦する準々決勝のチケットを(配偶者の分も)手に入れていたので、1位通過はうれしい見込み違いでした。

 奇跡ではないことを示す記事や番組で登場した言葉は、私が最近こだわる「意思決定」や「判断」でした。前大会でのエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は、素早く確実にボールをつなぐという日本に合った戦術を選択し、リスクのある相手の隙(すき)を突くキックや、タックルを受けながらパスをするオフロードパスは原則禁止しました。指揮官が決めた指示を実直に守るのも日本流かもしれません(ちなみに、悪質タックルで揺れた日大アメフット部は、絶対服従から学生自ら考えて判断するように変える難題に挑戦中だそうで、応援したいです)。他方、今大会のジェイミー・ジョセフHCは、自身がプレーしたオールブラックスの最強の戦い方を目指し、一人一人が最適な判断をできる力を植え付けようとしました。予選全勝は、多彩なキックやパスを駆使して自らの判断で意思決定ができるスキルを身に付けた結果でした。

 選択肢が増えると、問題解決や目標達成のチャンスや自由が増えますが、もれなく意思決定の力が求められます。これは、選択肢を並べて、それぞれに必ずある長所(利益)と短所(リスク)をよく知って比較して決める力です。

 それは健康や医療でも同じです。今でもメディアでは、「インチキ医療」「反〇〇」といった、科学的根拠を十分に確認しないで使ったり避けたりする医療の話題にあふれています。目的が何であれ、それを達成するための選択肢を十分に並べず、ある方法の長所だけで勧めたり、ある方法の短所だけで批判したりしているように見えます。

 そのような状況で求められる信頼できる健康・医療情報とは、適切な意思決定に役立つもので、各選択肢の科学的根拠としてのデータ(例えば、100人中何人に効果や副作用があったのかなど)をわかりやすく比較できるものです。みなさんも家電製品やパソコンなどを選ぶ時に性能や価格を比較する一覧表を使っていませんか。健康や医療でも使いたいものです。

次回は12月11日掲載


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うつ病治療の選択肢の例
うつ病治療の選択肢の例 ※https://optiongrid.ebsco.com/より引用

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