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2008年4月 アーカイブ

2008年4月 4日

【資料編】インターネットが優れている点とは?


インターネットとは

1)インターネットで世界中のコンピュータがつながる

 インターネットとは、全世界にあるコンピュータのネットワークを共通のルールを使うことで、お互いをつなげたネットワークのネットワークのことです。形からよくクモの巣に例えられます。現代社会はこのおかげで世界中のコンピュータが分け隔てなくつながっている状態になってきました。

 この、インターネットにつながってるコンピュータを使って、いわゆるホームページやそこでのリンクなどで情報を公開したり共有したりできるしくみが、ワールドワイドウェブ(World-Wide Web)です。これは、Web などと略されますが、この意味は英語でクモの巣です。このしくみがあるために、私たちは自分のコンピュータから世界中の他のコンピュータ上にある情報へアクセスすることが可能になっています。

2)インターネットがほかのメディアと比べて優れている点

 このインターネットが広く普及したわけですが、それには理由があります。それが従来のメディアに比べていくつか優れた点をみてみましょう。
(1) 24時間いつでも最新の情報を得やすい
 まず、情報の即時性についてです。これは2つの意味が考えられますが、1つ目として、インターネットは欲しい時に欲しい情報がすぐに得られる情報源であるということです。私たちは、インターネットに接続すれば24時間いつでも情報を得ることができます。予期せぬ事態に遭遇し、今すぐ情報が欲しいと思った時に、新聞やテレビではすぐに得たい情報は得られないでしょう。

 また、もう1つの意味合いとして、インターネットを利用すると最新の情報が得られやすいというメリットもあります。インターネット上の情報は、公開の状態にありながら常に更新することができます。新聞やテレビは情報が発信された後に更新されることはありませんが、インターネットでは絶えず情報が更新されているので、利用者は新しいものが入手できるのです。もっとも、インターネット上には古い情報がそのまま放置されていることもありますので、使う側が、その情報がいつ更新されたものなのかを意識して使う必要があります。

(2) 欲しい情報を検索することができる
 次に、検索機能が発達していることです。インターネット上では、キーワードで検索するとそれに関連した情報を簡単に閲覧することができます。過去の新聞の山をひっくり返して情報を探すということをせずに済み、自分が欲しい情報を得ることができるでしょう。代表的な検索サイトであるグーグル(Google)やヤフー(Yahoo!)は、キーワードを入れると、該当するページの一覧が並び、そこから情報にアクセスすることができます。グーグルで何か調べる行為のことを「ググる」と言ったりしますが、辞書の代わりのように、分からないことはすぐにインターネットで検索して情報を得るということが一般的になりつつあります。
(3) リンク先に飛ぶことで、情報が芋づる式につながる
 加えて、インターネット上の情報の強みとして、"リンク先"を持っているということがあります。このリンク機能のおかげで、ひとつの情報は複数の情報源と繋がっており、芋づる式にそれをたどっていくことができます。そうすることで、思っていなかったところで欲しかった情報が見つかったり、さらにより詳しい情報を得られたり、情報を比較検討してより適当な情報を選択することができるでしょう。

3)インターネットの情報にだまされないために

 しかし、優れたインターネットとはいえ、そこにはウソの情報、デマ、フェイクニュースもたくさんあります。検索して見つけた情報や流れてきた情報を、そのまま鵜呑みにすると危険なことがあります。情報にだまされないためには5つのポイントがあります。下の動画を見て、自分がいくつあてはまるか確認してみましょう。また、このサイトの中のインターネット上の保健医療情報の見方も参考にしてください。




(瀬戸山陽子、中山和弘) 更新日 2023年7月20日



2008年4月 9日

【資料編】エビデンスの見方

1. 代表的なバイアス

 代表的なバイアスは、選択バイアス、情報バイアス、交絡バイアスの3つです。それぞれ、例と共にそれへの対処も含めて解説します。

1)選択(セレクション)バイアス

 研究対象者の選び方で生じるバイアスのことです。研究対象にしたい人たちのなかから、選ぶ前や選んだ後に研究対象から落ちてしまったり、ある特徴を持った偏った対象が選ばれてしまったことによって生じます。

 例えば、重度のがんに効くとされる抗がん剤の効果を実験するために、がんの患者さんの中から参加者を募り、実験を行った結果、効果が上がったとします。しかし、その実験は長期間かかる実験で、最後まで参加したという人は体力がある方ばかりであったとします。このようなときに、選択バイアスが生じているといいます。がんをはねのけるくらい体力があった人だけの結果であるかもしれないからです。

 また、職場で働く人を対象に健康調査をする場合、その時に健康を害して退職したり休職していて選ばれないことで、結果は健康な労働者だけになってしまって、本当に知りたい人が選ばれないことになります。これを「健康労働者(ヘルシーワーカー)効果」といいます。高齢者でも、老人クラブに集まっている人を調査をすれば、元気な人ばかりが対象になる可能性があります。

 これらの対処法として、研究者は、対象者の選び方によって選ばれやすい人や選ばれにくい人が出ないようにします。そのため事前には対象者が偏らないような環境や条件を整えることや、研究が始まった後は研究そのものが負担にならないように考慮することが必要です。

2)情報バイアス

 観察方法や測定方法で生じるバイアスです。対象者によって回答が変化しやすい方法や、対象者によって違う測定方法で行ったりすることで生じます。

 例えば、昔のことを思い出してください、という質問では、忘れてしまっているかおぼろげだったりして、本当の状況を正確に思い出せないことがあります。ところが長く病気だった人は、それに関する過去の記憶が明確だったりして、結果がゆがんでしまう可能性があります。この場合はとくに、「思い出しバイアス」と呼ばれることもあります。この対処法として、研究参加者本人の「振り返り」はできるだけ避けることが挙げられます。

 また、肥満の人と肥満でない人の心疾患発生の関係について、時間を追って検討しようとしているとき、肥満の人の方が、心疾患が起こりやすいと思い込んでいるため何度も心臓検査を受けているかもしれません。検査をたくさん受けると、疾患が見つかる頻度が高くなりますから、いくら肥満の人が心疾患を発生しているという結果が出されたとしても、それは検査回数による影響を受けているとも考えられます。この対処法としては、研究参加者の心臓疾患の検査回数を統一させることが挙げられます。

3)交絡(こうらく)バイアス

 単に「交絡」とも呼ばれることもあります。 交絡とは、もとは英語のConfoundingで、混乱させるとか混同させるという意味です。研究では、たいていは原因と予想されるものと結果の間に因果関係があるのかを明らかにしようとします。特に病気の原因を探り、その因果関係を明らかにするのが疫学研究です。そのとき原因でも結果でもない研究しようとしていない第3の要因によって、検討している因果関係が影響を受けることを指します。その第3の要因を 交絡因子や交絡変数と呼びます。

 例えば、飲酒が下咽頭(かいんとう)がんの要因なっている、という報告があったとします。しかし、実は喫煙そのものが下咽頭がんの発ガンに影響していて、 喫煙によって飲酒量が増えていたことから、飲酒量が多いと発ガンに関係しているように見えてしまったという「見せかけ」の関係性であったと考えられます。

 この場合、「飲酒→下咽頭がん」ではなくて、「飲酒⇔喫煙→下咽頭がん」で、飲酒が交絡因子となって見かけ上そのように見えたということです。これは、喫煙者が多く飲酒しているという情報がない場合はうっかり信じられてしまう危険性があるということです。この場合、飲酒をやめたり減らしてもタバコをやめなければ効果はないわけです。したがって、交絡バイアスは結論を間違う大きなミスにつながりますので、とても注意しなくてはならないものです。

4)交絡バイアスへの対処方法

 交絡バイアスを生じさせる要因はたくさん考えられます。気がつかないものもあり得ますが、実験や調査を行う前から、交絡因子となりやすいものは事前に対処するようにします。その代表は、薬など治療の効果を明らかにする実験研究でのプラセボ効果です。それ以外で不可欠なものは、性別と年齢です。順番に見ていきます。  
(1)プラセボ効果とマスキング(盲検/ ブラインド)
 プラセボとはいわゆる「偽薬」のことです。みなさんは薬を飲む時に「この薬は効く」と思って飲みませんか? この「効く」という気持ちだけで本当に治ってしまうこともあります。これを「プラセボ効果」といいます。薬というのは化学的作用の他に、心理的な効果もとても大きいのです。これは効果を期待することやパブロフの犬で知られる条件反射で、脳が薬を飲んだ時のように働くことで起こると考えられています。さらに、これは薬を与える医師の態度によって大きくなることもあると指摘されています。一所懸命にこの薬は効くんですと言われれば、効果がある気が高まります。

 したがって、新しい薬や治療法の有効性を調べる時にはこの薬(もしくは治療法)の効果なのか、「プラセボ効果」なのかを考えなくてはいけません。そのため、実験群(本当の薬・治療法を受けている)とプラセボ群(研究者が薬を与えるふり・治療をするふりをしている)にわけ、その効果を確かめています。
実験の中にはプラセボ群を作っていない実験もあり、その場合その研究で効果があるといわれているものは科学的に効果があるのかを考える必要があります。

 このような、実験により参加者や実験者がうける心理的要因による影響であるプラセボ効果を取り除くための対処法としてマスキング(盲検/ブラインド)が挙げられます。

 例えば、ある新薬Aの効果を確かめる実験で、新薬Aと外見がそっくりな偽薬(プラセボ) を用いることで、参加者にはどちらが新薬Aでどちらがプラセボか知らせないで医者が渡し、使用する場合、単盲検(シングル・マスキング)といいます。

 さらに医者とは別のこの実験の企画、実行している研究者が、担当の医師にもどちらが本物でどちらが偽物かを隠して患者に渡す場合、二重盲検(ダブル・マスキング)といい、よく行われています。なぜなら、渡す人がどちらがどちらかを知っていると、態度や言葉に知らないうちに出る可能性があるからです。それはプラセボ効果の大きさに影響するかもしれません。

 二重盲検に加え、薬を渡す医師だけでなく、データを分析する人にもどちらの人が新薬を飲んだ人なのかを隠して結果を出す場合、三重盲検(トリプル・マスキング)といいます。データを分析する人が結果を出したいあまりに、万が一ねつ造したり、分析方法を結果が出やすいものにしたりすることを防ぐことになります。

(2)マッチングと無作為(ランダム)化
 交絡要因として性別や年齢があるのは、それが健康状態と強く関連していることからわかると思います。これらは、実験や調査の前からわかることが多いので、例えば実験で治療を行う群と行わない群を比較するときは、交絡要因でそろえるようにします。2つの群を、男女の割合や、年齢の構成割合をそろえて参加者をあつめることで、性別や年齢による結果への影響を除くことができます。このように交絡要因をそろえることをマッチングといいます。2つの群の構成メンバーをマッチさせるということです。

 また、2つの群を作るときに、コインの表裏やくじ引きなどによって分けることで、理論的には似たような特徴を持つ群に分けられることになります。それでも結果的には偶然どちらかに何かの特徴で偏ってしまうこともあります。しかし、少なくとも分けるときに研究者の意図(たいていはいい結果を出したいという思い)が入っていないということが大切なのです。このような方法で交絡要因をそろえることを無作為(ランダム)化といいます。

(3)そのほかの方法
 特別な統計解析方法である、多変量解析という手法によって交絡要因の影響を取り除くことができます。くわしい説明は省略しますが、統計的な方法によって、第3の変数の影響を取り除いて、原因と結果の直接の関係をみることができます。この手法は現在の研究の世界では不可欠なものとなっています。

2. 代表的な研究方法とエビデンスレベル

 ここではエビデンスを作るために行われる代表的な実験や調査の方法を、エビデンスレベルの低いといわれるものから順番で紹介します。ただし、順番といってもそれほど厳密なものではなく、研究の細かな進め方でバイアスをどれだけ考慮したかによって、レベルが入れ換わることもありえます。

1)記述的研究

 「この患者さんにこのような治療を行ったら回復した」というような、1人から数人の病気を持った人や対象者のデータを詳細に記述する方法を記述的研究といいます。症例報告と呼ばれることもあります。数が少なすぎるため、その対象者だけに起こったことかもしれないという疑問が必ず残ります。このような研究は原因を明らかにする目的で行われた研究とはいえません。エビデンスとしては十分ではありませんが、これらの研究の結果から多くの問題提起、仮説の提示などがなされ、その後の研究の基礎になります。

2)前後比較試験(非比較試験)

 症例報告よりはもう少し数を集めたものです。例えば、ある診療所に通う風邪の人たち全員に薬Aを2週間飲んでもらいました。2週間後にほぼ全員の風邪が治っていました。したがって、薬Aは風邪の治療に効果的だということがわかった、という情報は、前後比較試験という実験方法で明らかになったエビデンスと言えます。
 使用前、使用後、という身体写真が出されている食品や運動器具なども良く見かけますが、それは前後比較による実験結果です。

 この実験方法は一見すると効果があったように見えますが、ひょっとすると薬Aを使わなくても風邪は治っていたのではないのかという疑問には答えることができません。というのも、この実験では薬Aを飲まなかった人と比較できないからです。やはりものごとの因果関係を明らかにするには、原因と考えられるものがあった人となかった人で、結果が起こったか起こらなかったかを比較するという方法が必要です。このため、エビデンスレベルとしては低いものになります。

3)症例対照研究

 原因の有無で結果の有無を検討できるものです。なかでも比較的容易に効率の良いエビデンスある情報を出すことができる疫学調査として、症例対照研究が知られています。基本的には現在病気の人(症例)と病気でない人(対照群)を比較して過去の生活でどんな出来事の違いがあったのかを比較して原因を探ろうというものです。

 例えば、ある地域に住んでいる70歳の男性のなかで、身体機能が年齢以上に衰えている100名(症例群)と身体機能が維持されている100名(対照群)を比較します。二つの群で、過去にその地域で行なっていた健康教室に通っていた人の割合を比較します。すると、身体機能が維持されていた人100人のうち健康教室に通っていた人の割合が、身体機能が衰えている人100人の2倍くらいだったということがわかるとします。この結果かたは、その地域では健康教室に通わないと身体機能を維持することが難しくなっているという、エビデンスとなる情報が出されます。

 この症例対照研究で気をつけなければならないのは、対照群として選び出す人の特徴です。症例群の人たちと、なるべく性別や年齢、住所などが似ている、人を選び出すことが必要です。しかし、これがなかなか難しいのが欠点で、どうしても選択バイアスが生じやすくなっています。また、一番の欠点としては、過去のことが全員記録されていることは滅多になく、記憶がたよりになるので、「思い出しバイアス」が生じやすいものです。

4)コホート研究

 コホートとはもともと古代ローマの軍隊の一単位で、300から600人からなる歩兵隊のことですが、コホート研究という場合は、多くはある一定の地域に住んでいる集団のことです。ある集団をずっと長い間追跡して調べていきます。その人々の間で起こっている健康に関連がありそうな出来事(喫煙、運動習慣、食生活、ストレス、職業生活、人間関係など)がどのように異なるのかを調べておいて、その違いでその後の経過がどうなっていくかを見ていく方法です。

 例えば、1997年に40歳になった全国のいくつかの都道府県に住む10,000人の男性を10年間追跡します。彼らの中で、定期的に運動習慣をおこなっている人が2,000人いたとして、そうでない8,000人と10年後の状況を比較していきます。運動習慣のある2,000人の中で心筋梗塞を発症した人の割合に比べて、運動習慣がない8,000人の中での心筋梗塞を発症した人の割合がどのくらい違うのかを比べます。例えば、4倍違ったとわかることで、心筋梗塞の発症にはそういった健康習慣がよろしくない、という結果、つまり、エビデンスがある情報がだされます。

 とくに世界的に知られているコホート研究は、1948年にアメリカのボストンに近いフラミンガムでスタートしたフラミンガム心臓研究です。5209人を対象に追跡が始まりました。そして、この研究から喫煙、年齢、高コレステロール、高血圧などの危険因子が明らかになったのです。疾患の原因として「危険因子(リスクファクター)」という用語を最初に用いたのもこの研究です。その成果によって、アメリカではその後30年間で発症率を半減させることに成功しています。 現在も続々と次の世代が引き継いで継続されていて、疫学研究の重要さを伝えつつ世界中に大きな影響を与えています。詳しいことは循環器疫学サイトをご覧ください。このサイトにはほかにも日本で行われているコホート研究が紹介されています。

 この方法は、症例対照研究のように、選択バイアスや記憶に頼るバイアスなどが少なく、病気の発生率や時期などもわかりエビデンスとして情報が多く得られるものです。何より原因と結果の順序が合っているので因果関係として説得力があります。しかし、どうしても欠点があります。長く追跡していきますので、途中で脱落したり、時代によって生活や価値観、医療水準や診断方法などが変化する影響が避けられません。これらを見落とさないためにも、大人数からいつも情報を得ようとすれば、膨大な人件費や事務費など多額の費用がかかります。したがって、実際には国などの公的な研究機関が中心となって行われることが多いものです。

5)非ランダム化比較試験(NRCT)

 ここからは、治療やケアなどを行った人とそうでない人を比較するための実験を行う研究で、エビデンスレベルの高いものです。実験なので、介入を行うグループと行わないグループは、それの有無以外は同じ条件に設定できればバイアスが少ない研究になります。  例えば、薬Aを飲まなかった人と飲んだ人とで、その後どのように胃痛が治っていくのかを比較する実験です。例えばある診療所の午前中に胃痛の診察に来た患者には薬Aを1週間飲んでもらい、午後の診察に来た患者には薬Aは飲まないようにします。その1週間後に薬Aを飲んでいた人はほぼ全員胃痛が治っていたにもかかわらず、飲まなかった人の約半数は治っていなかったということがわかったとします。したがって薬Aは胃痛の治療に効果的だ、という情報は非ランダム化比較試験(NRCT)という実験方法に基づくエビデンスといえます。介入をしているかしていないかを比べた比較試験ではあるのですが、非ランダム化とつくのは、そのグループの分け方の問題です。このグループ分けすることを「割り付け」といいますが、それがランダムでないからです。

 例えば、午前中に診療に来られるような生活に余裕があるから治って、午後にしか診療に来られない、余裕がない人だからなかなか治らなかったのではないのか、という理屈で疑いをもたれることも考えられます。では逆に設定した場合はどうかということになりますが、結局は午前と午後にまつわる理由は払拭できないでしょう。したがって今回の午前診察、午後診察という、新薬Aをどの患者に内服してもらうかという方法では、疑いを晴らすことはできません。これは、グループに何らかの違いが生じている可能性があるということで、それをなくすためにとられる方法が次のランダム化した割り付けによる比較試験です。

6)ランダム化比較試験

 ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial、RCTと略します)とは、そのような疑いをもたれないように、介入するグループとしないグループを決めて実験を行う方法です。具体的には、すでにどちらのグループに入るかが書かれた封筒を人数分用意し、診療に来た人順に、それを開けていって割り振るとか、コンピュータで乱数を発生させて偶数奇数で判断するとか、その数字を頼りに決めるものです。

しかし、封筒を使う方法は、信頼が低く使われないようになってきています。なぜでしょうか。例えば、重症と思われる患者さんが来たときに、封筒を開けて治療しないほうに当たった場合、気の毒に思って変更してしまうということがあり得る(実際にそのように思える研究が見られた)という話です。したがって、人の手を通さずにコンピュータで機械的に分けるという、なるべく人の意図が入らない方法が用いられます。ランダムというのは、無作為という意味、すなわち人の意図が入らないということで、できる限りバイアスがないことを実現しようという努力なのです。

 ランダムに決めることで割り付けにまつわる疑いを晴らすことができ、RCTによる実験結果は信憑性の高い、エビデンスのある情報といえます。

 さらに言えば、さらに上の最高のエビデンスは、このRCTを複数行った結果を、一つにまとめた結果も効果が認めれるものです。このまとめる方法をメタアナリシスといいます。高次の分析、分析の分析といえるもので、考えられた技術を使って最終結論を導こうとするものです。公開されている各種ガイドラインコクランライブラリーなどは、これらの方法を使った高いエビデンスが結集されたものになります。

エビデンスレベルをまとめると次のようになります。 患者データに基づかない専門家・委員会の報告や意見が最も低いものとなっていることにも注目してください。研究対象として人のデータに基づいていないものは、検証されていない専門家の考えでしかないということです。データを示さずに話をする専門家、1回の研究だけでものを言う専門家を批判的に見ることが大切です。 エビデンスレベル
↑高いレベル
(1) ひとつ以上のランダム化比較試験
(2) ひとつ以上の非ランダム化比較試験(NRCT)
(3) ひとつ以上の分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究
(4) 症例報告などの記述的研究
(5) 患者データに基づかない専門家・委員会の報告や意見
↓低いレベル

3.結果の偶然性と対象者数

 インターネット上や本、雑誌にあるエビデンスに関する情報を見るときに、よく出てくる、とても重要で知っておきたいものとして、アルファベット1文字であらわされる「p」と「n」があります。ここでは簡単にこれらについて説明します。

1)「p」・・・偶然なのか必然なのか~治療の効果の有無の指標のひとつ

 A大学のB教授がある臨床試験をしました。そこでは、ある治療法によってある検査値(たとえば血圧や肝機能に関する指標)の改善という効果があったのかみきわめるとき、ある治療法は大半の人には効き目がなかったはずなのに、偶然にその人には効いてしまった、改善してしまった、という解釈も考えておかなければなりません。こうした事態を引き起こしてしまう「確率」を、統計学の手法を用いることで計算することができます。この確率を英語のprobability(確率)の頭文字をとってp値(ぴーち)といって数字で表すことができます。この確率が小さいほど、偶然に効いてしまったのではなくて、必然的に効いたと言うことができます。一般的にp値は5%(0.05)未満であれば、「統計学的に有意(ゆうい)」と言って、統計学的にも偶然に効いたのではないという事を示すことができます。

 p値は効果があったのかなかったのか(ある検査値や寿命などに差が生じたのかなかったのか)という観点からの治療効果の「有無」の表示ですが、効果の「大きさ」を表示する方法も大切です。たとえば、ある治療によって、治療しなかった人よりも2倍苦痛が緩和できた、というように何倍というような「比」や、血圧の平均値が10下がったというような平均値の「差」などが代表的です。こういった数字もひとつの効果の「大きさ」の表示方法です。こういった数字は「効果サイズ」と呼ばれています。この効果のサイズは、その実験の対象者のデータから計算することができます。

 しかし、その結果ははたして今回、実験の対象者にならなかった人たちにおいてもあてはまる数字なのでしょうか?言い換えれば、その効果のサイズは一般的といえるのでしょうか?こうした疑問に答えてくれるのが「95%信頼区間」です。これは95%の確率で、本当の一般的な効果のサイズを「含まれる間隔」という形で示すものです。100回この実験を行ったとき95回はこの範囲の中に効果のサイズはおさまりますよ、という示し方です。統計学的な方法を使って一回の実験結果からこの範囲を求めることができます。

例えば、2.0(1.2-3.2)と後ろにカッコで示されていれば、効果サイズは2.0倍で、その信頼区間は最小で1.2、最大で3.2の幅に入るということです。この間隔が狭いほど、その実験で得られた効果のサイズをより信用できることになります。この例の場合は、最小で1.2なので、ここが1.8になっている実験のほうが2.0倍という数値が信頼できることになります。

2)「n」・・・エビデンスの元となる実験に参加した人の数

 エビデンスの元となる研究論文を見る際に、「n=100」といった「n=」という言葉が良く出てきます。また、医師や研究者は「n数が100人で」というような言葉を用いる場合もあるかもしれません。この「n」とは、number(数)の頭文字で、その研究の対象者の数のことを指します。たとえば、ある治療法が1人に行われた結果1人に効果があったというデータよりも、100人に行われた結果100人に効果があったというデータのほうがより信用できそうですし、1万人に行われた結果1万人に効果があったというほど、より信用できそうです。なぜならば、私たちはその結果がより一般的に、誰にでもあてはまる、そして自分やある患者さんにもあてはまる、という結果を求めているからです。1人中1人に効果があったというデータは、偶然だったのではないかと疑います。

 研究論文にあるエビデンスはこのように、その介入の結果が偶然だったのか、必然だったのか、ということをみきわめる作業をしています。その作業において、n数は大きな役割を果たしています。

3) nとpの関係

 「n」と「p」あるいは「信頼区間」は実は深い関係にあります。nが大きくなるとpは小さくなります。nが大きくなると「信頼区間」は狭くなります。

 p値を計算する方法は、差をみたい、たとえば検査指標や比率など、その数値の性質によって異なります。しかし、それぞれの計算方法はでは、いろんな形でn数を使用します。そしてn数が大きくなるほどp値が小さくなりやすいという結果になります。たとえば、以下の例のような結果があったとします。

表1

 

改善

改善せず

治療したグループ

7

5

12

治療していないグループ

3

10

13

10

15

25


 表1のとき、治療したグループであるほど改善しているといった効果のp値(カイ2乗検定)を計算するとp=0.3527という値になります。0.05より大きいので改善しているとは言えません。

 次に以下の例を見てみましょう。

表2

 

改善

改善せず

治療したグループ

21

15

36

治療していないグループ

9

30

39

30

45

75


 表2の数字は、表1の数字をそれぞれ単純に3倍した数字になります。この場合改善している効果のp値は、p=0.02134となって0.05より小さいので統計学的に改善していると言えます。
このように同じ人数割合であっても実数が増えることによって、結果が変わってきてしまいます。

4)nと信頼区間の関係

 95%信頼区間とはある実験で得られた数値をもとに、世の中一般にあてはまる数値の範囲を示したものです。正確には同じ実験を100回繰り返した時に、95回の結果が含まれる範囲と言えます。この範囲はn数によって左右されます。n数が大きくなるほどその幅が狭くなります。先ほどの表1、表2の例を見てみましょう。

 計算すると、治療したグループの改善度は、治療していないグループの改善度の2.53倍であることが分かります。人数割合が一緒なので、表1も表2も同じ2.53倍です。

 しかし、表1のデータの場合、95%信頼区間を計算すると、0.84~7.61になりますが、表2のデータの場合は1.34~4.77と幅が狭まります。さらに表1のデータのn数を100倍した時のデータを以下に示します。

表3

 

改善

改善せず

治療したグループ

700

500

1200

治療していないグループ

300

1000

1300

1000

1500

2500


 改善度の比は同じく2.53倍ですが、信頼区間を計算すると、2.26~2.82と一層狭まります。これは信頼区間の計算でn数が大きく関与してくるためなのですが、要はn数が多い結果であるほど、その結果の確からしさが高まる、逆に少ないn数のデータからは確実なことが言いにくい、ということになります。

5)nが多いとそれでよいのか

 nが多いほどp値も低くなり、信頼区間も狭まり、確かなことが言える、ということを述べてきました。では、とにかくn数が多ければ多いほど良いということなのでしょうか。しかし、本来効果がないはずなのに、n数が多いためにp値が小さくなってしまって「統計学的に有意」という結果として示されることも考えられます。そこで、少なからず多からず適切なn数のもとでの実験が望まれます。こうした適切なn数については研究によって異なりますが、ある方法を使用すると計算することができます。

 つまり、参考にしようとしているエビデンスが信頼のおけるものかどうかを把握するためには、載っている研究論文ではきちんとしたn数のもとで行っているのか、つまり、そのエビデンスは適切なn数のもとで打ち出されているのかをチェックすることが大事です。

 このような統計学の考え方や方法は、とても大切なもので、エビデンスを生み出したり評価する時に統計学は不可欠です。しかし、統計学は、偶然ではないかとか、誤差はどれほどかを教えてくれますが、効果の大きさの意味については教えてくれません。したがって、例えば、2.53倍といっても、その数値もつ意味について考えてみることが大事です。表3の場合、その治療では2.53倍良い結果が出ているのですが、治療していなくても300名が改善していますし、治療しても500名が改善していません。この結果をどのようにとらえるのかは一概にはこたえることができません。この治療にまつわる、たとえばコストや副作用など、さまざまな観点から、みなさんが総合して考え、捉えないといけないわけです。

 そのとき、効果と言っても、何を効果と考えているのかも大切です。たとえば、がんに対する薬の効果と言うと、がんが消えて無くなることをイメージするかもしれません。しかし、がんが大きくならないことを効果と考えることも可能ですし、痛みを緩和する効果かもしれません。ダイエット効果という場合も、体重が減少したとしても、水分も筋肉も脂肪も減少しているのか、脂肪だけ減少しているのかでは大きな違いです。その確認も忘れてはいけません。

4.母集団とサンプルの代表性

 たとえばA病院に通院する患者さんを対象として病院の満足度調査を行ったとします。その結果、「満足」もしくは「やや満足」と回答した患者さんは、回答者全体の80%であったとします。この80%はA病院の患者さんの満足度、といえるのでしょうか。

 これを考えるとき、まず、この満足度調査に誰が参加したのかを知る必要があります。A病院に通院する全員が参加していたら、それでよいかもしれません。しかし、たとえば、A病院の内科に通院する患者さんばかりが参加していたら、A病院全体でなくて、A病院の内科の満足度でしかないかもしれません。

 A病院に年間通院する患者さんは全部で1万人くらいいる大きな病院であったとしたら、1万人全員に聞くのは大変なことです。そこで、この1万人のリストから、たとえば1000人の代表者を選んでこの代表者の意見を聞きます。この代表者の意見を全体の意見というような形で理解します。この代表者のことを研究の世界では「標本(サンプル)」といい、1000人の代表者の集まりを「標本集団」といいます。代表者の選び方を「標本抽出法(サンプリング法)」といいます。そしてA病院に通院している患者さん1万人全体のことを母なる集団「母集団(ぼしゅうだん)」といいます。「母集団」とは、その結果(エビデンス)がまんべんなく通用すると考えられる範囲の人たちのことを言います。

 この代表者の選び方が重要で、内科に偏りすぎず、外科にも眼科にもまんべんなく参加してもらわなければいけません。そのようなとき、乱数という規則性がない数字を用いて、1万人のリストの中から誰もが等しい確率で参加するという前提のもとで選び出します。この方法を無作為抽出法といいます。この方法をとらない限り、選択バイアスが生じる可能性があるわけです。この方法を行っても、実際には調査を依頼しても断られるなどで、対象になれなかった人が生じます。そのときは、どのような人が断ったのか理由は何かなどもどのようなバイアスが生じているのかを知る上で貴重な情報になります。

 では、ある肺がんの治療法を行ったところ効果があった、というランダム化比較試験の結果(エビデンス)があったとします。この結果をよくみたところ、B病院の呼吸器外科に通院する50歳から60歳までの女性70名でかつステージⅡ(がんの進行と広がりの度合い)の人が参加した研究の報告でした。この報告の母集団はどのあたりと考えればよいのでしょうか。正確にはB病院に通院する患者のうち、呼吸器外科に通院し、50歳から60歳までの女性で肺がんのステージⅡという集団、ということが言えます。

 では、B病院ではなく他の病院でもこのエビデンスは通用するのでしょうか。必ずしもそうは言うことができません。このような場合は、ほかの報告にあたってみることが大事です。同じ治療法を別の病院で同じような人たちに試していて、それでも効果が見られた、という報告が複数見られていたら、B病院や検討された病院以外でも通用する可能性が高まります。 しかし、そうでなく、逆に効果が見られなかった、という報告があるかもしれません。そういう場合はその治療法については慎重に考えていく必要があります。

 このように、そのエビデンスはどの母集団を念頭に打ち出されているものなのか、というところを読みとっていくことが大事です。

(戸ヶ里泰典、中山和弘)

[参考文献・ウェブサイト]
高木廣文, 林邦彦:エビデンスのための看護研究の読み方・進めかた. 中山書店. 2006.
大木秀一:基本からわかる看護疫学入門. 医歯薬出版. 2007.
斉藤武郎EBNが分からなかったあなたへ(オンライン)http://homepage3.nifty.com/saio/EBN-THCQ3.pdf , (参照2008年4月2日)
宮口萌:EBMによる患者中心の医療(オンライン)http://www.kango-net.jp/nursing/03/index.html , (参照2008年4月2日)

2008年4月10日

インターネットを使って健康になれる?


 ここでは、まず、インターネットを使っている人のほうが健康になっているという研究結果を紹介します。そして、それがどうしてなのかということについて、最近のインターネットの動向から、考えてみます。また、みなさんがインターネットをよりよく活用するためにはどうしたらいいかについて、考えていきたいと思います。

1. インターネットを使っている人のほうが健康になる?

 信頼できるエビデンスナラティブについての情報がインターネットに多くあります。あるからといって、それを利用すれば、健康になるのでしょうか。

1)インターネットの利用と健康の関係に関する研究

 ヨーロッパで行われた1万人以上の大規模なデータの分析では、、個人的な目的でインターネットをよく利用している人のほうが、「自分が健康である」という意識が高かったと報告されています[1]。また、この研究では、インターネットをよく利用している人は、人からサポートされることが多かったともいっています。その内容は、より多くの友人、家族、同僚と会ったり、何でも相談できたり、ほかの人より人づきあいなどのコミュニケーションが多いというものです。そして、そのような付き合いの多い人は自分が健康であると思っていたのです。

では、病気を持つ患者についてはどうでしょう。アイゼンバックという研究者は、医療情報サイトからの情報や、メールやネット上のコミュニティでのコミュニケーションが、がん患者の健康状態に影響すると述べています[2]。これらによって情報や知識が増えるので、自信が持てるようになり、医師に適切な質問ができるといいます。医師とメールができれば、さらに医師とのコミュニケーションが増えます。そして、医師とともに情報に基づいた意思決定が行えて、納得した形で療養生活が送れます。また、コミュニティからのサポートは、孤独感を解消し、ストレス軽減などの様々な心理的効果が得られます。こうして、結果的に健康状態に良い影響を与えるとしています 。

 いくつかの研究でも、特定の病気を持った患者さんが集うネットのコミュニティで、参加者が書き込みをし合うことを通じて、サポートのやり取りをしていることが示されています [3,4]。そのサポートのやり取りにはどんな意義があるかというと、参加者の間に厚い信頼が芽生えていること[5]や、参加者が様々な力を得ている[4]ことが明らかになっています。

 このような健康と関連しているような人間関係におけるサポートをソーシャルサポートと呼びます。つらい出来事があっても、ストレスと感じにくくしたり、ストレスを感じた時でもそれに対処しやすくして、健康を守るといわれています。そして、ここで紹介した研究からは、ネット利用→情報→よりよい意思決定→健康という流れがあるだけでなく、ネット利用→ソーシャルサポート→健康というもう一つの流れあることを示しているわけです。  

2. インターネットを使っている人のほうが健康になる理由は?

 つぎに、インターネットの利用がソーシャルサポートを増加させているということに関連して、ソーシャルメディアによるインターネット上の進化について述べていきたいと思います。

1)誰もが参加できるソーシャルメディア

 従来、Webにおいては情報の流れは一方向的でした。ホームページを作って情報を流すのは、大きな組織かWebに詳しい個人が中心でした。発信者は情報を発信したまま、受け手である多くの人は必要な情報を受身的に探すだけで、情報の送り手と受け手が固定されている状態でした。

 それに対して、2000年ごろから、インターネット上に、誰でも簡単に情報を発信することができるようなしくみが出てきました。この時期に使われ始めたものとしては、ブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス、現在ではFacebook、Twitter、LINEなど)、Q&Aサイト(Yahoo!知恵袋、OKWaveなど)、評価サイト(価格コムなど)などがあります。これらは、誰もがコメントを書き込める機能があります。従来情報の受け手であった人々が、発信者から出された情報に対してコメントを付けたり、発信者がそのコメントに対してさらに答えたりと、情報の「やり取り」が行われるようになったという点です。つまり、インターネット上で相互作用が行われるようになったのです。これらは、現在、ソーシャルメディアと呼ばれます。

 今やブログやSNSを用いれば、誰でも見栄えのいい自分のページをインターネット上に持つことができ、手軽に情報発信を行えます。そして、それを見た人が、発信されたものに対して直接書き込みを行うことも簡単です。また、他の人の書き込みにさらにコメントをつけたり、複数の人たちのやり取りを参考にしたりすることもできるようになりました。このように、ソーシャルメディアでは、情報の利用者が、発信された情報に対して直接的に意見を述べることができ、その場に参加することができるという意味で、「利用者(ユーザー)参加型」[6]メディアと言われています。

2)ソーシャルメディアが普及したのは、ナラティブな情報が欲しいから?

 ソーシャルメディアが広く普及したのはなぜでしょうか。情報発信したい、自分の情報を残しておきたいという思いがある人は、誰でも参加可能というのもあります。しかし、それだけでは一方向になってしまいます。自分が得た情報を発信し、それに対する自分の評価や受け止めに対して、ほかの人からの評価やコメントがもらえればという思いがそこにはあります。

 例えば、ある商品を買う際、その商品の評価サイトがよく利用されるようになりました。そこには、その商品の価格や機能という固定された情報が掲載されていると同時に、その商品を実際買った人の評価が星印で載せられていたり、コメントが寄せられていたりします。この商品を買おうか迷っている人にとって、実際に使ってみた人の意見や感想は大いに参考になるのではないでしょうか。これはその人が過去の経験を通して新しいものについてどのように語るのかであり、ナラティブな情報といえるでしょう。

 これは、情報を手に入れても、自分だけですぐにうまく利用できるわけではないということを表していると思います。自分が得た情報は、様々な価値観を持つ人に解釈され、語られることによって、自分にとっての価値がより明確になります。そして、その価値に基づいて意思決定に使えるようになるのではないでしょうか。

3)保健医療の分野でのソーシャルメディアのナラティブ情報

 ソーシャルメディアの使い方は、保健医療分野においても広く普及しています。例としては、同じ病気を抱えた人が集う患者コミュニティや、Q&Aサイトでの病気や健康に関する質問と回答、自分の闘病記をブログで綴ること、病院を評価するサイトなどがあります。これらは誰もが参加できるソーシャルメディアということができます。患者コミュニティなどソーシャルメディアに書き込みを行えば、経験者やその家族などが、自分の経験を教えてくれたり、家族としてのアドバイスをくれるでしょう。また、医療者が閲覧しているサイトでは、書きこまれた内容について医療者としてどう思うか、どうしたほうがいいと思うか、コメントをくれる場合もあります。

 今、主治医から、ある治療法と治療成績に関する過去のデータを提示されたとします。この情報はエビデンスに基づいた情報です。これだけで意思決定できればいいのですが、それはなかなか難しいことです。重大な選択であれば、家族はどれがいいと思うのか、他の人が治療法をどのような価値で選んでいるのか、治療を受けた人はどのような状態になってどう思っているのかを知りたくなるでしょう。「エビデンス」情報に対して、個人の経験はどうであったか、何を感じたかという生の声、「ナラティブ」情報が追加されます。つまりインターネット上で、エビデンス情報とナラティブ情報のやり取りが行われているのです。

4)インターネット上でコミュニティを作るのは私たち

 日本では欧米と比較すると、インターネットに対する信頼度が低いと言われています。いまだに、誰でも書き込めるインターネット上の掲示板などのコミュニティは、誹謗中傷やウソの情報ばかりが横行している良くないものだと思っている人がいるかもしれません。確かに、嘘のエビデンスや、商品を売るための偽物の経験談としてのナラティブもあるかもしれません。

 しかし、SNSでも、様々な健康・医療関係のコミュニティが作られ、その中で情報やサポートのやり取りがなされていることが、実際に閲覧してみると分かります。また、健康関連の質問も多いQ&AサイトのOKWaveやYahoo!知恵袋では、治療法選択で迷っている人からの書き込みに対して、様々な立場からコメントがされていて、サポートのやり取りが行われている様子が見て取れるでしょう。

 今やソーシャルメディアの時代になって、その世界をどのようにするのかは、ますますその利用者にかかっています。嘘や偽物を見抜く目を持ったり、確かな目を持つ人を見つけたり、みんなで助け合えるのがコミュニティで、インターネットはコミュニティそのものです。

3. インターネットと情報格差、健康格差

1)情報活用ができれば健康になれるなら、できないと健康になれない

 インターネットが活用できることは、健康になることにとって重要な要素であると言えそうです。 しかしこれは逆に言うと、活用ができないと、健康になれないということではないでしょうか。

 情報が得られる人と得られない人がいるとすれば、それは情報格差です。そして、情報格差は健康格差を生みだす可能性があります。健康格差の要因には、国の間であれば一人当たりのGDPなど、よく経済格差があげられます。しかし、経済格差は情報格差を通して、健康格差につながるという現象は、無視できない社会問題になりつつあります。WHO(世界保健機関)も国や地域の健康格差は情報格差で起こっていることを指摘し、それを埋めるべく情報通信技術(ICT)の活用を訴えています。

 では、どのようにしたら、情報格差は解消することができるのでしょうか。

2)インターネットへの接続だけでは不十分

 総務省の「平成27年通信利用動向調査」 によると、インターネットの利用者は1 億 46 万人で、普及率83%です。年齢別の利用率では、中学生から40代までは95%以上で、50代で91%、60代で4人に3人、70代で2人に1人となっています。60代以上で利用率が低くなっていますが、とくに60代、70代で増加してきている状況です。

 この結果からは、とくに世代差が大きいと見ることができます。これも、将来的には普及率は95%以上になるでしょうが、現状では何が課題でしょうか。確かに、パソコンや携帯を高齢になってから使うことにチャレンジしている人もためらう人もいるでしょう。確かに、自分で接続することも便利なことです。しかし、健康情報を得るためには、接続している人でしかもそこから情報を探して活用できる人、すなわちヘルスリテラシーを身に付けた人でなくてはなりません。接続していてもそうでない人はいます。したがって、問題はそのような人になるか、そうでなければそのような人が身近にいていつでも聞けるかです。

 現在、高齢者は一人暮らし世帯や夫婦世帯が増加しています。そういう意味でも、ネットワークが重要な意味を持ってきています。ヘルスリテラシーのある人が増えて、その人と結びついていくことが必要です。情報格差の解消にとっては結局は人と人との結びつきが大切と言えそうです。

 誰でもインターネットを使える社会という方向もありますが、誰でもヘルスリテラシーのある人と結びついている社会を作り上げることが求められます。

3)高齢者や障がい者のバリアを取り除く

 また、インターネットに接続できても、それがいくらヘルスリテラシーの高い人であっても、サイトに壁があれば話は別です。年をとってきて、小さい文字が見づらい時に、画面の文字が小さ過ぎて、大きくしようにもそうできない場合はどうでしょう。また、視覚に障がいのある人は、多くの人は画面の文字を順番に音声で読み上げてくれるソフトを使います。もしくは、自動的に点字に変換されて出力されるソフトを用いることもできます。しかし、文章がなくて写真や図の説明しかない場合はどうしようもありません。視覚的にわかりやすくと思ったはずですが、文字の情報も同時に必要なのです。同じく、色覚異常の人も色だけで区別して説明してあっても困ります。また、聴覚に障がいのある人の場合は、音声だけとか、ビデオでも画像と音声だけ文字がない場合は、内容を知ることができません。

 情報がそもそも手に入るのか、アクセスできるのか、門前払いになっていないか、という問題です。このように、高齢者でも障がい者でも、誰でも情報を入手できるような状態になっていることを、「アクセシビリティ」と言います。このアクセシビリティを整えることは、情報発信側が必ず配慮すべき事柄です。とくに身近な地域の情報を発信する行政では、情報格差が生じないようによく気をつけておくべきことでしょう。

4)誰もが情報を見つけやすいサイト

 さらに、利用する人がより「使いやすい」ようになっていることを「ユーザビリティ」と言います。これは例えば、サイト全体でどこに何があるのかがわかりやすくなっている、更新された新しい情報がすぐにわかる、検索用の入力欄が目立つ場所にある、リンクが見やすい、リンク切れがない、誰が作成しているサイトかすぐわかることなどがあります。

 これらのアクセシビリティとユーザビリティはあまり厳密に区別されているものではなく、基本的には誰にも使いやすいことを示しているといえます。詳しくは、世界共通のガイドラインも発行されているます。W3C「ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン」や、eふぉーらむ「ウェブ・ユーザビリティ・ガイドライン」などをご覧ください。

 

5)信頼できるサイトに出会えること

 インターネットは賢く使わないと、かえって混乱したり不安になったりする健康被害をもたらす可能性があるものです。ただ使えると言うのでは不十分で、その特徴を知って、信頼できる情報の探し方について理解して使うことが求められるメディアです。自分でハンドルを握っているドライバーと同じだというはなしもあります。交通ルールやマナーを守るように、インターネットでのエチケットをネチケットといいますが、それを守ることも必要です。ただ、安全運転でも目的地がきちんとないとさまようばかりです。

 そもそもたどり着くべき信頼できるサイトがなくてはなりません。そのようなサイトを見極める方法については、いろいろな指針や手引きがでています。わかりやすく簡単なものとしては、インターネット上の保健医療情報の見方を見てみてください。最後のリンクも参考になります。

 みなさんは健康情報を探すときにどのような方法を使いますか。病名や症状をキーワードとして、GoogleやYahoo!などで検索することが多いかと思います。検索してヒットしたものを1ページ目から見ていくと思います。2ページ、3ページぐらいまででしょうか。しかし、この出てくる順番は何によって決まっているのでしょうか。信頼できる順ならよいのですが、必ずしもそうでないのが現状です。検索サイトによっては、お金を払っている額がものをいう場合も考えられます。また、検索サイトで上位に出るようにしてくれる会社はたくさんあって、そこにお金を使っているかでも違います。そうして上位に出るようになると、多く見られることになるので、またさらに上位になるというしくみです。

 実際に、キーワード検索では、商業目的のサイトが出やすいのが現状です。信頼できる情報を出しているところがあっても、後ろのほうにしか出ない場合があります。その点、英語で検索すると、アメリカの厚生省や関連の研究所、国立医学図書館などが上位にあがります。市民向けの情報もたくさんあって、信頼できる情報をわかりやすく使えるための研究に基づいたサイトもあります。

 したがって、英語がわかる人であればよいですが、そういう人が身近にいると心強い味方になります。日本のサイトでは、やはり国公立のサイトや大学のサイトが信頼ができると考えて、あまり表示順を気にしないほうがいいと思います。また、そのようなところでリンクしてあるところも信頼性が高いと考えられます。

 手掛かりとして、次のリンクを紹介しておきます。ご参考までに。

5)信頼できる人に出会えること

 また、信頼できる人、ヘルスリテラシーの高い人が運営しているサイトや、ブログやSNS、twitterなどはどのように探したらよいでしょう。ここでも、インターネット上の保健医療情報の見方と共通する点が多くあります。ブログなどは、ソーシャルメディア時代の道具ですから、その人が他の人とどのようなやり取りをしているかも判断材料です。また、こちらから何でも書きこめます。質問や意見などをすることで、コミュニケーションをとるのも一つです。場合によっては、実際に会ってみることもいいかもしれません。問題はやはり、商品を売ろうとする人、お金もうけのために書いている人には基本的に注意が必要でしょう。

(瀬戸山陽子、中山和弘、宇城 令) 更新日2017年1月19日


文献
[1] Wangberg S.C. et al, Relations between Internet use, socio-economic status (SES), social support and subjective health. Health Promotion International, 23(1), 70-77, 2007

[2] Eysenbach G:The Impact of the Internet on Cancer Outcome. A Cancer Journal for Clinicians. 53. 356-371. 2003
[3]Coulson, N. S., Buchanan, H., & Aubeeluck, A. (2007). Social support in cyberspace: A content analysis of communication within a huntington's disease online support group. Patient Education and Counseling, 68(2), 173-178.

[4]Coulson, N. S. (2005). Receiving social support online: An analysis of a computer-mediated support group for individuals living with irritable bowel syndrome. Cyberpsychology & Behavior, 8(6), 580-584.

[5]Radin, P. (2006). "To me, it's my life": Medical communication, trust, and activism in cyberspace. Social Science & Medicine, 62(3), 591-601.

[6]Sharf, B. F. (1997). Communicating breast cancer on-line: Support and empowerment on the internet. Women & Health, 26(1), 65-84.


エビデンスとナラティブを生かす健康資源


 エビデンスナラティブに基づいて健康を実現するための資源についてみてみます。まずは、症状があらわれたり、健診で指摘されたりして受診する病院について、実際にどこにかかればいいと決めるかについて考えてみます。

また、それ以外にも、病気になる前に、病気の予防や健診の受け方について知りたいとき相談に乗ってもらえるところはどこでしょうか。出産や子育て、高齢者や障害者の介護、病気の人のお世話などについての相談はどこでできるでしょうか。健康教室や運動教室、料理教室などはあるでしょうか。気軽に血圧や骨密度などの健康チェックをしてもらえるでしょうか。主に住んでいる地域の保健福祉のサービスにどのようなものがあるかについてみてみようと思います。

1. 病院を選ぶ

 まず、病院からです(診療所を含みます)。
人は病気になった時や、具合が悪くなった時、誰しも、よい病院でよい治療を受けたいと思うでしょう。それでは病院を選ぶ視点にはどのようなものがあるのでしょうか。大きく分けて2つの視点があると思います。

 1つ目は、病院評価の専門機関などの第3者機関や病院自身が提供する評価結果からみる視点です。このときの評価とは、よい結果を生み出す根拠としてのエビデンスに基づく医療(EBM)を行っているかというものです。より客観的なエビデンスからみた視点です。

 2つ目は、病院の利用者すなわち患者や家族の実際の経験に基づいた評価からみる視点です。これは、その病院の状況をどう受け止めたかというナラティブな評価とも言えます。それぞれの視点から見た情報についてみていきましょう。

1)エビデンスの評価からみる視点

(1) 病院の評価の情報公開
 近年、病院の評価に関する情報の公開が行われるようになりました。その背景には、様々なメディアをにぎわしてきた事件などによって、医療現場における倫理的な問題や安全に対する社会からの要請もあると考えられます。1995年には日本医療機能評価機構ができて、各病院の審査、評価を行い、それを公開するようになりました。また、次第に各病院は、その特徴や治療や看護、可能な検査などを自ら公開する努力を行ってきています(例:聖路加国際病院国立がんセンター中央病院)。

 もともとは、患者等の利用者を保護する観点から、医療法その他の規定により病院の情報を公開することは制限されてきました。しかし、(1) 患者等が自分の病状等に合った適切な医療機関を選択することが可能となるように、そして (2) 患者等に対して必要な情報が正確に提供され、その選択を支援するという観点から、平成19(2007)年4月1日から医療法において病院などの広告が緩和され、医療広告ガイドラインができました。このように自分の病院によって広告できる内容が広がったことも自ら情報を公開することを後押ししたとも考えられます。

 このような試みは、病院が競争をするようになって、いわゆる「ランキング本」に掲載されたりして、患者数を増やすためだけに行われているのではありません。それぞれの病院が、自らの特徴と課題を知り、継続して改善し、今後の目標を定めるために行っているのです。このような1つひとつの病院の取り組みが広がることで、日本の医療全体の改善につながると考えられています。

 そして、2007年からは、医療機能情報提供制度ができました。各病院は都道府県に医療機能情報を報告することが義務化されています。都道府県はその情報をインターネットでわかりやすく住民や患者に提供しなくてはなりません。都道府県ごとにサイトは出来上がっていて、内容も方法も統一はされていませんが、みなさんの住んでいるところで探すことができます。

 では、医療機能情報とは何でしょうか。それには、診療科目に何があるかなどの基本的な情報だけでなく「医療の質」を左右する内容が含まれている必要があるでしょう。これらの取り組みは、まさに「医療の質」を把握してその向上を目指すものにならなくてはなりません。

(2)医療の質とは
 その「医療の質」とはどのようなものなのでしょう。1980年にアメリカのアベティス・ドナベディアンが「質の高い医療とは、治療の全過程で期待しうる効果と、予期しうる損失とのバランス上でもたらされる患者の福祉(Patients Welfare)を最大限できる医療である」と定義しています[1,2]。

 そしてその質の評価は「構造(structure)」「過程(process)」「結果(outcome)」という3つの側面から評価することが示されました。それぞれについてみていきたいと思います。

◆構造(structure)
 構造とは、その病院がもつ施設や設備と医療スタッフの量や質やその種類、教育や研修の実施があります。モノや人などの物的、人的資源といってもよいでしょう。

 施設や設備では、患者の安全、権利やプライバシーが守られているかなどが評価されます。また、セカンドオピニオンについての情報提供なども含まれます。医療スタッフについては、医師では専門分野、認定医や専門医がいるかどうか(例えば外科専門医の定義と基準は日本外科学会定款を参照)、認定看護師や専門看護師がいるかどうか(詳しくは日本看護協会の資格認定制度を参照)、医師や看護師の人員配置基準(患者数に対する医師や看護師数)などがあります。

 なお、医師や看護師の数は、医療法によって病床ごとにその最低基準が定められています。例えば、一般病床では医師は患者16名に対して1名、看護職員は患者3名に対して1名となっています。ただし、これは世界的に見て、先進国の中でも少ないほうです。しかし、この表記は、所属数を定めているにすぎず、実際に働いている人数を示しているわけではありません。このような誤解を無くすために現在病院では、1日のうち患者数に対してどのくらい看護師が実際に働いているのかを示す表記がなされるようになりました。病院で「7対1」や「10対1」という数字を見かけることがあると思います。これらの意味は1日のうち平均して、「7対1」であれば、患者7名に対して看護師が1名担当していることを意味しています。

◆過程(process)
 過程とは実際に行われた治療や看護、リハビリ、栄養管理、在宅復帰や在宅療養の支援、心理的支援や社会復帰の支援や患者・家族の相談や苦情の受け入れや意見の尊重などです。言い換えると医療者の態度や行動です。診療のガイドラインや治療内容や今後のスケジュールがわかるようにしているクリニカルパスの実施、看護師による看護の目標と実施の計である看護計画の立案、疼痛(痛み)管理、退院計画、安全に関するルールの遵守、カルテ開示の実施の有無、外来機能(通院回数、通院期間)、救急患者対応時間などがあります。

◆結果(outcome)
 最後に結果についてです。結果とは、受けた治療や看護の結果としての患者の健康状態のことです。主な結果に関する指標は、再入院率、平均在院日数、感染症率、合併症率、術後合併症率、死亡率、褥創発生率、転倒・転落率、糖尿病患者の血糖コントロールの状態、患者満足度や医療者の満足度などです。

 このような3つで医療の質を考えることができますが、さらに、その医療の質に関する情報を把握したり、分析したり、報告・発信しているかも大切な要素です。患者満足度調査を行い評価、分析して、公開してまた意見を募集するという改善のしくみがあることです。日本医療機能評価機構の評価項目にはこれらも含まれています。

 つぎに実際に、日本医療機能評価機構から順番に医療の質を評価するための機関を紹介していきましょう。

(3)専門機関が公開している情報
 日本医療機能評価機構(JCQHC)は、医療システムを量的・質的に整備し、国民に対して医療提供状況に関する正しい情報を提供していくこと、そして、良質な医療提供を推進し確保していくために、医療機関に対して第三者評価を行い、医療機関が質の高い医療サービスを提供していくための支援を行うことの2つを目的として設立されました。

 評価項目が公開されていますので、内容を確認できます。認定病院の検索と評価結果も見ることができます。ただし、課題も残されていて、一部の病院は公開をしていませんし、構造と過程の評価が中心で、実際の結果の評価について十分でないことが指摘されています。

 国際標準化機構(ISO)は、1947年に電気分野を除くあらゆる分野において、国際的に通用させる規格や標準類を制定するための国際機関として発足しました。医療機関においては、環境に対するマネジメント規格(ISO14000シリーズ)や品質マネジメントシステム規格(ISO9000シリーズ)などの認定を受けている病院があり、その基準において一定の評価を得ているということになります。これは、組織経営の結果を重視し、病院に限らず、その改善を顧客(患者)の満足度から行うしくみを求めているといった特徴があります。

 また、すでに述べたように、医療機能情報提供制度によって、都道府県のサイトから病院の情報を探すこともできるようになっています。基本的な情報のみならず、病院によっては、治療結果などを公表している場合もあります。

(4)各病院の公開情報
 各病院が都道府県への報告を含めて、自ら公開している情報の中からも、その病院についておおよその機能を推測することは可能です。例えば、医療スタッフの質を評価する基準として、医師には、専門医や認定医などの有無とその区別があります。この専門医や認定医にはそれぞれ基準があり、一定基準を満たすと判断された場合(多くは各学会が判断している)、その資格が得られます。また看護師の場合も認定看護師や専門看護師(詳しくは日本看護協会の資格認定制度こちらを参照)という資格があります。

 また、医師や看護師の量的な充実度から病院を選ぶということも可能です。もともと医師や看護師の人員配置基準(患者数に対する医師や看護師数)は、医療法によってその最低基準が定められています。医師や看護師の人員配置基準がどうであるかも病院を選ぶ指標の1つにはなるでしょう。

 さらに、病院が独自に、術後5年生存率や術後合併症率など診療成績を公開しているところもあります。ただ、病院は、医療法によって一般病院、地域医療支援病院、特定機能病院の3つに大きく分けられています。地域医療支援病院は、地域の中小の病院や診療所を後方から支援し、救急医療も可能な、地域での中核的な病院です。特定機能病院は、高度な先端医療を行う病院で、ほとんどが全国の大学病院です。最初に受診するというよりは、より高度な医療を受けるために紹介状をもらって行くというところになっています。紹介状がないと高い初診料がとられることになっています。一般病院とは、これら2つ以外ということです。

 つまり、病院の機能によって通院・入院している患者さんの重症度や治療の目的が異なるわけですから、治療成績そのものが異なる条件下の数値であることに配慮が必要です。比較するならば、同じ特定機能病院であるとか、一般病院であるというようにみていく必要性があるでしょう。そもそも、重症あるいは難しい病態である場合、同じ治療をしても結果が異なることは十分にあるのです。

(5)看護に関する情報
 他方、少し異なる視点から、よりよい病院を選ぶポイントを紹介している大学があります。今までは、病院全体のことや自分の疾患を治療するにはどの病院がよりよいのかという視点でした。ここで紹介する聖路加看護大学の市民と看護職を結ぶコミュニティサイトの看護ネットでは、いい看護を受けるための豆知識と題して情報提供しています。ここでは「看護師」の役割や機能を視点として、よりよい病院の情報を提供しています。いろいろ病院を選ぶ基準がありますが、看護師そのものに着目しているという点が特徴です。

2)利用者の経験からみた評価からみる視点

 次に、利用者の経験からみた評価、ナラティブな評価について見てみます。いわゆる口コミといってもよいでしょう。口コミ(英語ではword of mouth)は国の内外を問わず、信頼を寄せる人が多いとされている情報です。ここでは、おもにインターネット上での情報提供・収集の場を紹介します。
(1)実際に入院や外来通院を経験した患者・家族からの情報
 今まで紹介してきた病院を評価する取り組みは、あくまでも一方向的な情報提供となっていますが、口コミつまり患者・家族の声をフィードバックする双方向性の情報収集と発信を試みるものもあります。

 例えば、QLifeは口コミ病院検索機能を有しているサイトの1つです。

 また、闘病記を集めたサイトTOBYOでは、特定の病院を選ぶというよりは、病院の選び方を学ぶことができたり、自分が求めている病院はどのようなところなのかを考える材料になると思います。Yahoo!知恵袋OkwaveなどのQ&Aサイトもそうです。

 以上、私たちが病院を選ぶ際に、どのような手立てがあるのかという視点を述べてきました。自分にとって何が必要であるのか、どういう病院で医療を受けたいのかは私たち自身が決めることです。病院の機能や役割も考慮して、より自分にあった医療が受けられるように自分自身で判断することが望まれます。

3)アメリカにおける病院や医師を選ぶ先進的な事例

 最後に、医療の質の測定や公開では、先進的な取り組みをしているアメリカの例をみながら、今後日本でどのようになっていけばいいか考える材料にしてみましょう。皆さんもどんな情報があればいいか考えてみてください。

(1)専門機関等が公開している情報
 アメリカでは、Joint Commission International(JCI)の厳格な基準による評価・認定が、全米の病院の質を担保していると言えます。日本医療機能評価機構がそのモデルとした組織です。通っている病院がJCIによる認定を得られていない場合、加入している保険会社から医療費が支払われないため、日本医療機能評価機構とはその影響力は大きく異なります。日本でもJCIを取得する病院が増えてきていて、こちらで見ることができます(英語です)。

(2)患者中心の医療に向けた患者による評価の重視
 また、アメリカでは、1980年代後半から患者の視点に立った医療すなわち「患者中心の医療」の評価が提唱されています。1993年にできたピッカー研究所の「患者経験調査」は、患者の主観的な評価を客観的に測定するものです。これらは、上のJCIにも取り入れられてきているものです。日本の医療機能評価機構も次第に患者中心の医療の評価が提唱されてきています。そこでの大事な指標は、さまざまな病院の設備やケアに対する患者満足度で、次にあげる7つです。

  • 1.患者の価値観・意向・ニーズの尊重
  • 2.ケアの連携と統合
  • 3.情報、コミュニケーション、患者教育
  • 4.身体の苦痛の解消
  • 5.心理的な支援と、恐怖、不安の緩和
  • 6.家族と友人の関与
  • 7.転院、退院とケアの継続性
 例えば「医師はどれくらいあなたの話を聴いてくれましたか」という質問をするもので、その頻度を得点にしていきます。これらは、患者が求めるものを具体化したもので、重要な評価だと思います。

(3)専門医や看護師による評価
 また、専門家による専門的な評価を重視するものも進んできています。週刊の時事解説誌である「U.S. News & WORLD REPORT」が毎年公表するAMERICA'S BEST HOSPITALSが有名です。がん、心疾患、消化器系疾患など16の指標で全米の主要病院を評価、疾患ごとにランキングしています。評価指標は、全米への専門医への調査を基にした評判、患者の死亡率、患者1人あたりの看護師数、退院患者数、特定専門技術の導入などとなっています。全米のトップの病院を決めようというもので、受診することもあるでしょうが、それよりは目標となる病院を明らかにしようという意味が大きいとも言えます。

 ベストドクターズ社は、Best Doctors, Inc. 1989年ハーバード大学医学部所属の著名な医師2名により、通常では得られにくい医療情報を提供することを目的に設立されました。専門医同士の相互評価で上位のポイントを得ている「名医」を案内するサイトとなっています。会員になると、自分に最も合った専門家が薦める一番の医者を紹介してくれるわけです。

 選出方法は専門分野で対象医師を分類して、「もし、あなたやあなたのご家族が、あなたの専門分野の病気にかかった場合、どの医師に治療をお願いしますか」と問い、評価上位者を名医と認定しています。現在では米国ボストンを拠点に日本を含めて世界70カ国においてサービスを提供しています。




(宇城 令、中山 和弘)(更新日2023年6月28日)

文献
[1]岩崎榮:医を測る 医療サービスの品質管理とは何か、厚生科学研究所、東京2001.
[2]飯田修平:病院早わかり読本第3版、医学書院、東京2007.



ナラティブ(物語、語り)

1. ナラティブが注目されている

語り
 これまで医療の世界では、患者や家族がその経験について語ること(ナラティブ)は、そのように扱われてきたでしょうか。それは、変わりやすくもあり、場合によっては治療を混乱させる可能性があるもの、という考え方がありました。ところが、最近になって、ナラティブに関する関心は非常に高くなってきました。それはなぜでしょうか。

 科学的根拠(エビデンス)に基づく医療・医学は1990年ごろから提唱されるようになりました。これらは迷信や科学的根拠のない医療行為をできるかぎり少なくし、より合理的で科学的な、多くの人にとって役に立つ医療を目指す目的をもっていました。このような考えのもと、医療者は自分の専門性を基盤として、聞くべきことを自分の枠組みで聞き、診断をし、最善の方法を考えて治療していました。しかし、良かれと思う治療であっても患者の満足度が低く、コミュニケーションがスムーズに行われないことがあります。ナラティブはそうした状況を改善するカギになる可能性があって、注目されはじめました。

2. ナラティブに基づいた医療とは

 ナラティブに基づいた医療NBM(Narrative Based Medicine)とは次のようなものをさします。つまり、医療機関を受診する患者は、痛みなど具体的な症状のほかに、受診したほうが良いと考えるにいたった気持ちや、治療への期待といったものがあるはずです。こうした気持ちや期待は、患者自身の、これまでの人生や考え方、信条が関係しています。検査データや診察結果だけでなく、こういった患者の心の奥深くからの語りを医療者側は真剣に受け止め、対話をして、それを深めることによって問題の解決を図ろうとする医療、これがNBMです。

3. NBMはどうして大事なのか

 NBMがどうして重要といわれているのか、いくつか理由があるといわれています。

 ひとつには、NBMを行うことによって、患者の思い、考え方、物語を理解しようとした結果、劇的にコミュニケーションが改善されて、信頼・満足・質の高い医療に結びついているということが報告されています。人には個別の歴史があり、価値観があります。医師は個別の人生を尊重して治療の枠組みを考え、患者は語りに耳を傾けてもらうことで医療者に信頼を寄せる。結果として、より良い医療につながります。

 ふたつめは、患者は「語り」を聞き届けてくれる相手を得て、その人に語ることによって、その経験に新たな意味づけをし、価値を見出すことができるということです。こうした結果は医療者と患者の共同作業によって起こることになります。

 病むということは、「世界の崩壊」に等しい経験であるとも言われています。しかしながら、人生の基盤を揺るがす「病む」という経験を、自分にとって必要で、有意義な経験であると位置づけることもできます。たとえば、病いを得たからこそ、知り合えた人がいるかもしれませんし、残された時間の価値を知ることができるかもしれません。また、改めて周囲の人々の愛を知ることになるかもしれません。このように、NBMによって、病いの経験を受け止めて、自分の人生に明確に位置付けられることで、治療、療養を生活の中に組み込んで前向きに生きることができます。

 三つ目には、医療者と患者の関係性についてです。医療者も患者も、たとえば診察室での関係だけでなく、それぞれがもっと広い世界を生きています。しかし、医療者の世界と、患者の日常生活の世界は別々で、同じ時間に同じ場で共に語り合うことはまずありませんでした。その両者が共に関わることができる「ことば」が今求められています。ナラティブは、その役割を果たす可能性があります。

4. ナラティブのありか

 他の患者や家族がどのような状況になっているのか、つまり他の人のナラティブを知ることもできます。そして、それが少しでも自分が陥っている状況に近ければ参考にすることもできます。こうしたことからナラティブの蓄積が期待されています。

 ナラティブは最近になって注目され始めたことですので、十分ではありませんが、一部で患者のナラティブを少しずつデータベース化しようとする動きも見られています。英国のヘルストークオンライン(Health talk online)というサイトでは、2000人近くの患者や介護者、スクリーニング検査体験者たちの語りが、映像あるいは音声、テキストの形式で公開されています。

 また、その日本版として、ディペックス・ジャパンという団体がデータベース化に取り組んでおり、インターネット上でこうした患者のナラティブに関する情報をいつでも見ることができるようにしています。感心がある方はご覧になるとよいでしょう。(ディペックス・ジャパン(DIPEx-Japan)「がん患者の語り」データベース作成プロジェクト

 こうしたナラティブは、実際には、古くから「闘病記」という形で出版されてきています。オンライン古書店パラメディカでは闘病記を収集して販売しています。また、公共の図書館に闘病記を集めて、ネットで探せるようにしようという試みが闘病記ライブラリーです。そこで見られる本は、聖路加国際大学(旧聖路加看護大学)の市民向け健康情報サービス「聖路加健康ナビスポット(るかなび)」の図書室にある「闘病記文庫」(1400冊以上)と連動しています。こうした闘病記を見ることで、病いを抱え、受容し、克服していった人たちのナラティブを知ることもできます。

 また、闘病している人のブログや個人サイトも数多く見られるようになってきました。今や誰でも簡単にブログを書くことができます。いろいろなリンク集もありますが、闘病体験情報を共有するサイトTOBYOでは、2万以上の闘病サイトが集められています。ここでは、闘病図書館に入り闘病記を探したり、闘病情報を調べたりすることなどができます。患者や家族のナラティブの宝庫と言えるでしょう。

 さらに、ネット上には、患者や家族が集まる患者会のコミュニティサイトや、健康や病気のことが相談できるサイトも多くあります。患者会のサイトでは、掲示板が用意されていることが多く、そこで多くの患者さんの語りを読むことができます。患者会を探すサイトがいくつかありますが、楽患ネットがその一つです。また、Q&Aサイトでの健康や病気の質問と回答のやりとりからも、貴重な情報が得られます。OKWave教えて!gooMSN相談箱と同内容)では、30万件以上の質問が検索して見られます。このような相談や回答の内容から、相談者のニーズが明らかになるプロセスを見ることができて、自分が知りたいことに気づいたり回答を得ることができるかもしれません。また、身の回りの困っている人をどのように助けてあげたらよいのかのヒントも得られると思います。

(大宮朋子、瀬戸山陽子、中山和弘)

文献

江口 重幸; 野村 直樹; 斎藤 清二:ナラティブと医療.金剛出版.2006 .

武藤正樹.活動報告 寄稿 明るいところでしか鍵を探さない愚.医療と法律研究協会.(オンライン,http://www.m-l.or.jp/report/contribution.htm,(参照2008年3月11日)

芳賀浩昭:ナラティブに基づいたデンタルコミュニケーション.クインテッセンス出版.2006.

蘭由岐子:「病いの経験」を聞き取る.皓星社.2004.

アーサークラインマン(江口重幸・五木田紳・上野豪志訳):病いの語りー慢性の病いをめぐる臨床人類学.誠信書房.1996.

2008年4月11日

エビデンス:根拠に基づいた保健医療

1. エビデンスとはなにか

健康情報はエビデンスを確認
 「エビデンス」は日本語にすると「証拠」「根拠」という意味になります。保健医療で用いる場合には、よく「根拠」という言葉が使われます。それは、科学的根拠、つまり実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」があることを指します。
「できるだけ健康に良いことをしたい」「効果のある治療や投薬を受けたい」という思いは、多くの人々に共通の願いだと思います。その願いに応えるために、多くの研究による検証が行なわれ、その結果に基づいて、多くの健康法や薬が開発され、病院で治療が行われています。

 近年では、市民の健康意識が高まっています。みなさんはテレビや本、インターネットなどで、健康・医療に関する数多くの情報を入手することができます。しかし、必ずしも全ての情報が、「正しい」「効果がある」と言い切れないのも事実です。例えば、TV番組で紹介された健康法に十分な「エビデンス」がなかったり、「減量できる」「ガンに効く」といって売られていた商品に十分な「エビデンス」がなかったりということは、少なくありません。「エビデンス」を伴わない不確実な情報にもかかわらず、誇大に宣伝されることで消費者である市民が殺到し、混乱することも近年よくマスコミを騒がせている現象のひとつになっています。

 だれかに薦められたり、大きく宣伝されたりしているというだけで、健康法や薬や治療法を選ぶのは危険です。その方法が「エビデンス」に裏付けられたものであることを知った上で選ぶことの大切さは、それがその人の生命にかかわる問題である以上、いくら強調しても、強調しすぎることはありません。健康・医療情報の選択をするときには、インターネットをはじめとしたさまざまな情報源から得られる健康情報の背後にある「エビデンス」を知り、健康・医療情報の正しさについて判断することが、これから大切になってくると思われます。

 エビデンスに基づいた治療・ケア・健康教育といった保健医療活動は、EBM(Evidence Based Medicine;エビデンスに基づいた医療)、EBN(Evidence Based Nursing; エビデンスに基づいた看護)、EBHC(Evidence Based Health Care; エビデンスに基づいた保健活動)といった略語で呼ばれます。歴史的には医師や看護師などの保健や医療に携わる専門家は、ある一定のエビデンスを除いては、それまで伝えられてきた伝統や習慣、それぞれの個人的な経験と勘に頼った治療やケアを行っていました。しかし、患者からは、そうした経験や勘だけではなく、より確実なエビデンスに基づいた治療、ケアが行なわれ、効果のある治療を期待する声が広まってきました。

 こうした「エビデンス」は科学的根拠というその名の通り、科学的に作られるものです。科学的というのは、基本的には客観的であるという意味であり、これは誰の目で見ても明らかということです。そうして今、このエビデンスは治療を受ける患者も知ることができるようになってきました。では、そのエビデンスというものはどこで見ることができるのでしょうか。

2. エビデンスのありか

 一般的に、エビデンスは研究者の手による研究論文という形にまとめられ、学会が刊行している学術雑誌に投稿されます。学会がその論文を掲載するかどうかを判断し、定期的に出版されるものが学術雑誌です。つまり、エビデンスは学術雑誌にまとめて掲載されていることになります。

 これらの学術雑誌に載っている論文は、その雑誌を購読すると読めます。しかし、雑誌の数は膨大で、日本の医学系の雑誌は、医学中央雑誌(医中誌Web)という論文の情報を集めたデータベースにあるものだけで6000誌以上あります。したがって、多くの人は、このデータベースで探したいキーワードで検索をして論文を探しています。病気の名前などで検索することができます。個人で使う場合は残念ながら有料になりますが、医中誌Webを使える公共図書館や患者図書室などがあります。また、CiNii(サイニィ)という国立情報学研究所の論文、図書・雑誌や博士論文などの学術情報で検索できるデータベースがあり、この中には医中誌Webのデータも入っていて検索が可能です。ただし、検索するときに医中誌Webのように類義語を探してくれないので、可能性のあるキーワードをいくつか入れたほうがよいです。例えば、「認知症」について調べたい時は、他にも「認知障害」や「認知機能障害」が使われている論文もあるので、その言葉で探す必要があります。
 また、海外のさらに膨大な医学系の雑誌では、アメリカ国立医学図書館の論文データベースPubMedがよく使われています。これもキーワードで検索できますが、英語が基本です。

 これらのデータベースで探した雑誌や論文は、大学の医学部や薬学部、看護学部、歯学部等に併設されている図書館やその他の国公立の図書館などで閲覧することができます。ただし、利用資格は図書館によって異なりますのでホームページなどで調べてから行く必要があります。図書館でお目当ての論文が載った雑誌を探すには、所蔵している文献の情報(書誌情報)がたいていは電子化されていますので、検索用の端末に自分でキーワードを入れるとその内容を扱っている雑誌記事を検索することができます。その図書館では所蔵されていない雑誌の場合は、窓口で相談すれば他の図書館の紹介や取り寄せる方法などを教えてくれるでしょう。

 実際、発行される論文の数は実に膨大で、医師でも最新知識を保つのには1日に19本の論文を読む必要があると言われます[1]。それは医師でも不可能です。しかし、患者なら多くは1つの病気についてだけなので可能で、これがEBM時代の患者像なのかも知れません。しかし、必ずしも論文を一本一本読まなくても、あるテーマにそって論文をまとめたものが存在します。専門家が集まって作成する一般的な治療の基準を示した指針である「診療ガイドライン」が1つです。それらを集めた医療情報サービスMinds東邦大学医学メディアセンター診療ガイドライン情報などがあります。海外では、アメリカのNational Guideline Clearinghouse (NGC)があります。

 また、同じように世界中の論文を要約した、いわば世界のエビデンスを集積したデータベースとして、コクランライブラリーがあります。国の医療政策の決定や実際の医療現場での治療指針をつくるために、これまでの研究成果をまとめて、全体として1つの結論を得ようとするものです。本当に有用な治療効果や予防効果などがあるのかどうかを判断しています。詳細は契約が必要ですが、要約は無料で読めます。英語が基本ですが、日本語版で翻訳が進められていて一部が検索可能になっています。

 たとえば、英語版では、トップページで「lung cancer」(肺がん)と入力して検索すると、予防効果のある薬品、緑茶の予防効果など結果の一覧が出てきて、前者を選んでさらにPlain language summary(わかりやすい言葉での要約)をクリックすると、一言「健康な人に肺がんの予防のためにビタミンを処方するべきではない」と書かれています。最初から無料の要約目当ての場合はこちらからアクセスすると早いです。このように、ほぼ最新の世界の研究の結果のまとめを(英語を中心に)読めるようになっています。

 学術雑誌やその要約以外のエビデンスについては、文部科学省や厚生労働省が研究助成金で行われた成果の報告書やその概要を公開しています。日本の多くの研究がこのような公的な助成金を中心に、その他民間の助成金などで実施されています。文部科学省については、科学研究費補助金データベース、厚生労働省については、厚生労働科学研究成果データベースで検索することができます。

 そのほか、市民のみなさんがわかりやすいように、専門家がエビデンスをかみくだいて説明した本やインターネットのサイトもあります。ただし、こうしたものの中で紹介されている情報は、大変に優れたものもある一方で、エビデンスに基づいているものなのか不明瞭なものも見受けられます。手元にある情報が信頼できるものなのかどうかを見極めるときに役に立つのが、どの程度のエビデンスなのか、言いかえるとエビデンスのレベルと呼ばれる目安です。このエビデンスのレベルがどのようなものかを確認すると、その情報の信頼性がみえてきます。

3. エビデンスの信頼性を左右するバイアスの種類

バイアスを排除
 エビデンスのレベルは何によって決まるのでしょうか。エビデンスを作るための実験や調査では、「誤ったエビデンスを導きやすい要素」をできるだけ排除する方法を採るように工夫していますが、100%排除しきれないのが現状です。こうした、誤ったエビデンスを導きやすい要素のことを「バイアス」と呼びます。

 バイアスとは、本来測れるはずだった正しい「真の値」から、ある方向へずれさせてしまう要因があって、それによって全体の結果に「ずれ」が生じることを指します。言いかえれば、ある一定の方向への「偏り」があるということです。実験や調査は世間の全ての人を対象に行っているわけではなく、そこから必要な人数を選んで行われていますので、偏りが全くない研究というものは存在しません。もちろん、研究を行う際には、必ず、この偏りが少ないように研究方法を工夫しなければならないのは言うまでもありません。したがって、エビデンスを利用する際には、バイアスをきちんと排除できているかをチェックすることが大事になってきます。

 そのカギとなるのが、バイアスの種類についての知識です。バイアスには、研究対象者を選ぶときに生じる「選択バイアス」、測定方法などによって観測値に生じる「情報バイアス」、本当は関係がないのにそう見えてしまう見せかけの関係が生じる「交絡バイアス」と、主に3種類があります。そして、それぞれの予防策や対処方法があります。その研究ではどんなバイアスの種類があるのかを見きわめると、どのように対処すべきなのかがおのずと見えてきます。代表的なバイアスについては、エビデンスの見方【資料編】に示しましたので参考にしてください。

4. エビデンスの「レベル」とは

 本や雑誌、インターネットなどで専門家が示している情報がどの程度信頼できるものなのかをチェックするときには、その情報のエビデンスの「レベル」をみるとよいことが多くあります。このエビデンスの「レベル」は、できる限りバイアスを排除する努力の程度ともいえるでしょう。つまり、バイアスの排除の仕方、言い換えれば、エビデンスの「作られ方」によって決まってきます。

 エビデンスは主に「実験」と呼ばれる研究方法で作られます。実験というと、理科を思い出す人も多いかと思いますが、健康に関連した科学の分野では「物質」ではなくて「ヒト」を対象とした実験が行なわれます。「ヒトを対象に」といっても、人権を尊重し、研究参加者と研究者との厳密な契約のもとで行われています(日本医師会:ヘルシンキ宣言日本語版】参照)。

 こうした、新しい健康法や治療法、新薬の開発などを目的として「ヒト」にたいして行われる実験のことを、「臨床試験」あるいは「治験」とも呼ばれています。

 また、エビデンスを求める手法として実験以外の方法もあり、重要な役割を担っています。薬や健康法、治療方法といった新たな方法の効果を見るためには、実験が欠かせません。しかし、ある病気(例えば、心筋梗塞など)の発生につながりそうな「生活習慣」や「生活状況」を突き止めるときには、実験ではなく、多くの患者のデータを集める「調査」を行います。この実験と調査の違いは、対象者に何らかの介入があるかどうか、例えば薬や食品を食べてもらったり運動してもらうなど、何かをしてもらうかどうかです。実験は介入研究とも呼ばれ、調査は介入はしないで観察しているだけなので観察研究とも呼ばれます。

 こうした調査には、主に2種類の調査があります。1つはコホート研究で、もう1つが症例対照研究です。コホート研究は、まず対象者に調査をして現在の健康や生活の状況(例えば喫煙など)を調べて、その後、健康状態を観察し続けて、どのような人に健康の変化(例えば、がんの発見)があったかを明らかにします。時間的に見ると前向きな研究ともいわれます。症例対照研究は、その逆ともいえます。現在、健康状態の違う2つのグループ、例えばある高血圧の人とそうでない人を比較して、過去にどのような生活をしていたか振り返って聞くものです。後ろ向き研究といわれます。これらのどちらにも3種類のバイアスの入り込む可能性があります。

 一般に、エビデンスのレベルでは、このような調査よりも、実験のほうが高いとされます。実験のほうが、バイアスを排除するように計画して研究ができるからです。観察する場合、コホート研究では、どうしても途中で何かが変化してしまったり(例えば喫煙者が一時期禁煙してしまうとか)、症例対照研究では、どうしても過去のことは記憶が確かでないなどのバイアスが入ります。実験であれば、対象者に確実にある状況の違いをつくり出すことができる点で優れています。

 ただし、実験研究の場合も、対象者の研究協力への同意をとって、いつやめても問題ないようにすることが大前提ですが、研究に参加しなければ起こらないことをするわけです。どんな予想もしない影響が出ないとも限らず、リスクはまったく0だとは言い切れません。したがって、すでに先に行われた観察研究などで、十分に効果が期待できるものでないと実験することは望ましくありません。実験にいたる手前の調査もレベルが低いからといって意味がないわけではなく、対象者になるべく負担をかけない範囲で一定のレベルのエビデンスをつくる上では大切なものです。

 また、研究結果が偶然である確率は対象者が少ないとかなり高くなります。例えば、日本人女性から無作為に選んで5人ずつの2つのグループをつくります。この2グループの平均体重で、偶然に差が起こる確率をおおよそで計算してみると、4kg以上の差が出る確率は2分の1近くあります。これが20人ずつなら、4kg以上の差は4分の1ぐらいの確率に減りますが、2kgの差の確率は2分の1近くあります。偶然で4kgの差が出る確率を考えるとかなり人数が必要なことがわかります。

 このようにして、偶然の結果ではないと判断できるために必要な対象者数は、事前にある程度予想することができます。したがって、研究において一定数の対象人数は重要です。数名程度での実験などはあまり意味をなさないことがわかるでしょう。

また、少ない人数では、偶然を否定できないだけでなく、それらの人が、誰を代表していると言えるかが問題です。人類の代表と言えるでしょうか。日本人の代表、少なくともその性別のその年代の日本人を代表していると言えるかが問題になります。例えば、テレビや雑誌での実験に出てくるタレントや、応募で参加しているアルバイトの若者などは、誰を代表しているのでしょうか。

 このように、エビデンスや研究を見る目ができてくると、論文もさることながら、テレビや雑誌で行われている簡単な実験の持つ意味について考えられるようになってきます。ものごとの因果関係を証明することの難しさと同時にその大切さもわかってくると思います。日常生活でも、何かすすめられた食品などで自分や家族・友人に効果があったという場合にも、どのようなバイアスなどがあるか考えてみるといいかもしれません。

 これらのエビデンスの見方については、エビデンスの見方【資料編】で、より詳細な内容についてまとめました。代表的なバイアスに加えて、代表的な研究方法とエビデンスレベル結果の偶然と対象者数母集団とサンプルの代表性の解説がありますのでご覧ください。

(戸ヶ里泰典、中山和弘)2018年5月11日更新


文献
[1]J.A.ミュア・グレイ:患者は何でも知っている-EBM時代の医師と患者.中山書店、2004

2008年4月12日

信頼できる情報とは

1. 科学的根拠に基づいた情報「エビデンス」

エビデンス
 健康を維持するために、あるいは、より良い医療を受けていくためには多くの情報を収集し、それに基づいて意思決定をすることが大切であることがわかりました。よりよい意思決定のためには、信頼できる情報が欠かせません。では、「信頼できる情報」とは、一体どのようなものでしょうか。健康や医療に関係する場面で人が満足度の高いよりよい意思決定をするために必要な信頼できる情報とは何かについて考えて行きます。

 現在、人々が入手できる健康に関する情報は、実にさまざまで、その信頼性についても同様です。特にインターネットでは、誰でも簡単に情報を発信できるようになっていますので、「好きなだけ食べて痩せる」「がんが治る」といった怪しげな商業目的の情報や悪意が感じられる情報も混在しています。 こうした玉石混交の情報が、信頼のおけるものなのか、情報の発信者だけではなく、誰にでも当てはまる情報なのかを判断するには、その情報が、科学的根拠、つまり「科学により実証されている根拠」、に基づいた情報であるかという観点から捉える必要があります。例えば、ある健康法や治療法について、100人の人が同じ状況にあった時に、何人の人に当てはまる情報なのかということです。

 健康や医療において信頼できる情報として、このような科学的根拠のある情報を「エビデンス」と呼ぶようになっています。もとは証拠という意味の英語ですが、それが科学的根拠という意味で使われています。

2.経験に基づく人生における物語 「ナラティブ」

 とはいうものの、信頼できると判断する情報は、必ずしも、科学的根拠に基づいた情報ではない場合もあります。例えば、ほかの患者の病気の体験談があります。これらは必ずしも科学的根拠に基づいた情報だけではありません。しかし、それを見た患者は同じ体験を共有できて、孤独感が解消できたりして、その情報に信頼を寄せるのです。

 患者やその家族を対象とした調査では、インターネットの情報を信頼できると回答した人1,000名に、どのようなウェブサイトが提供する情報が信頼できるかと上位5つをあげてもらったところ、「大学病院、国立病院」45.2%、「公的な研究機関」42.4%に次いで「患者(個人または団体)」36.6 %が挙げられていました[1]。患者の提供する情報は実際の体験者として信頼を集めていますが、これはなぜでしょうか。エビデンスの多くは、ある方法に何らかの効果があるかどうかの情報であるのに対して、患者の情報は、それらについてどのように考えたり感じたりしたのかという情報です。そして、実際に行ってみて起こったことと、それについてまたどのように思ったり対処したりしたのかです。まさに起こった出来事をどのように受け止めていくかの、患者の体験記であり、いわばそのストーリー、物語です。

 このような、個人の「物語」「体験談」や「語り」を表す「ナラティブ(narrative)」という言葉が医療の世界でも注目されるようになってきました。意味としてはナレーション(narration)という「語ること」に対して、「語ったもの」であり物語となるわけです。それは、その人のそれまでの人生の歴史を背景にして、その新しい経験を過去の自分と照らしてどのように受け止めていくかという方法でもあります。実際に、例えば、タバコを吸うとがんになりやすいと、エビデンスだけを紹介されても、吸っている人はまだたくさんいます。手術をしたほうがよいと勧められても、生活や生きがいを優先してしないという人もいます。人それぞれの受け止め方や価値観がありますから、エビデンスの確率だけが判断材料ではないのです。その時、自分はこうしたい、とくにエビデンス通りにする場合も違うことをする場合も、ほかの人は一体どうしているのかを知りたいものです。このときに、ほかの人の体験談は役にたちます。

 また、体験談をヒントに、自分に何が起こったことがわかることがあります。例えば、いきなりがんと宣告されてどのように受け止めていいのかもわからない、何をすればいいのか何もわからないときにはどうでしょう。治療方法に関するエビデンスが必要でしょうか。そうではありません。必要なのは、いったい何が起こったのかを自分の言葉で表現できることです。医学的にはがんという状況かもしれませんが、それがいったい自分にとって何なのか、それを明らかにするためにも、自分で他者に語ってみるということが大切になってきます。つらいと思った出来事を友人に話しているうちに、思っていたこととは違った実はいい経験だったということに変わってしまったことはありませんか。また、話していくうちに自分ってそんな風に思っていたんだと気がつくこともあります。なかなか言葉にならないときは、体験談が助けてくれるかもしれません。

3. エビデンスとナラティブに基づいた保健医療を実現するには

 したがって、根拠に基づいた保健医療を実際にすすめるには、エビデンスナラティブが必要ということがわかります。イギリスの根拠に基づいた医療の実現に多大な貢献をしたミュア・グレイは「エビデンス」「価値観」「資源とニーズ」の3つの要素が重要だと言っています[2]。

 「価値観」とは、人々が健康や病気に関する問題を解決するための治療方法やケアなどの選択肢の持つ特徴のどれに価値を置くかです。例えば、家族、仕事や職場、長生き、自分の外観、副作用の有無、お金などのいくつもの価値の中で、どれに重きを置くのかです。「価値観」の元の英語は「Values」で、Value(価値)の複数形です。それは1つの価値だけではなくて、いくつもの価値があるときにどれに優先順位をつけるかという意味です。ここでは、自分の価値観を確認して治療を選ぶが参考になるでしょう。

 では、人々の持つ価値観はどうしたらわかるでしょうか。自分の持つ価値観について、それまでの人生や経験をもとに語ること、すなわちナラティブによって表現することです。価値観を確認するには、自分が大切にしたいと思っていること、なかでも何が最も大切なのかを語ることが必要だということです。

 また、「資源とニーズ」での資源とは、いくらよいエビデンスがあっても、それを実行できる施設や人材と技術、お金や時間などの実現のための条件が伴わなければいけないということです。また、エビデンスだけでなく、自分の希望で受けたい治療やケアの方法があっても、資源が整わないと無理だということです。健康のために運動したいと思ってもその場所や施設がないとか、新しい手術や薬を試したいと思っても、日本では難しいというような場合もあります。

 また、ニーズとはその資源が不足していて社会的にそれが必要とされている程度です。例えば、高度な専門病院や医師や看護師をたくさん増やすことが本当に必要とされているのかという問題です。ほかにも高価な先端技術医療やもっと心のケアをする専門家などへのニーズなど社会的に議論しなくてはならない話です。

 この3つで考えますと、エビデンス、ナラティブに続いて、それらに基づいて健康を実現していくための資源についての情報も必要であることがわかります。エビデンスやナラティブを追い求めても、実現しなくては困ります。もちろん専門病院が近くにないなど資源の限られた環境におかれている人にとっては、その範囲のなかでそれらの実現をはかることになります。実際に、がんの患者さんで高い医療費を払える見込みがなくなって、退院を希望する人がいます。しかし、高額でない治療もエビデンスやナラティブをもとに新たに考えることは可能なのです。また、一定額以上は払った治療費が戻ってくる高額医療費の制度もありますので、公的な資源も幅広く知っていたほうがよい情報です。

 このように、これら3つの情報について信頼できるものが求められています。また、これら3つは常にセットで考える必要があるということがわかります。そして、図で示されているように、それぞれはまったく重なり合わないものではないことにも注意が必要です。

4. 情報を収集する行動の動機づけとしての人間関係

 これらの情報があることが望ましいわけですが、実際にそれを収集する人はどのような人でしょうか。自分で主体的に情報を集める人は、保健医療を利用する場合も受け身ではなく、積極的に参加して専門家と一緒に考えたいという人が多いと思います。そして、実際に医療における意思決定に参加する人が増えると、ますます患者のニーズが明らかになって、医療の質を向上させることができるかもしれません。そうすれば患者の満足度はさらに高くなるはずです。

 しかし、少なくとも健康情報を収集しようという動機付けがなくては始まりません。まず、そこで考えられることは、情報を探さなければならない状態にあることです。家族や知人が病気になったり、健康診断で何かを指摘されたり、実際に自覚症状があったり、病院を受診してよくわからない病名を診断されたり、いろいろな機会に情報が欲しくなります。それでも、これらは、実際に何らかの健康に関する問題が生じているという要因であって、それらがないときはどうなのでしょう。また、仮に問題があっても自分では探さずに医師に相談するという人もいるでしょう。自分は健康であると思っているときには、病気の予防はしたいと思っても、ほとんどの人はそのために病院には行かないでしょう。医師に聞かずに自分で情報を収集したいという人はいったいどのような人なのでしょう。

 アメリカのデュッタ・バーグマンという研究者は、そのような医師以外から主体的に健康情報を収集する人の特徴を探しました[3]。特に注目したのは、人々の日々のコミュニケーション活動と、健康への関心の高さです。マスメディアの研究では、人々は様々なメディアに触れることによって、いろいろな事実を知るだけでなく、そこでより多く出ている話題をより重要だと判断することが指摘されています。したがって、どのような人々やメディアと触れているかは個人の判断に影響を与えるということであり、そこで健康の話題が多ければ、ますます健康が重要と考えてそこから情報を収集するようになると考えたわけです。

 結果としては、健康意識を高めることで情報収集行動に結びついていたもので最も重要なものは人対人の直接のコミュニケーションでした。多くの人との交流が、そこで交わされる健康についての会話から健康への関心を高め、情報収集を盛んにしていました。次いで関連が見られたのは、地域活動への参加、新聞を読むこと、雑誌を読むことでした。テレビを見ることはほとんど関連が見られず、インターネットは健康への関心とは関連が見られなかったものの、情報収集行動とは関連していました。テレビは、基本的にエンターテインメントであり、その情報の信頼性の問題(日本でも捏造が問題になりました)や喫煙や飲酒などのシーンに寛容であることなどが背景にあると思われます。この研究では特に、日常的に地域でもどこでも健康に関心のある人がコミュニケーションを活発にとっていて、そこでまた情報を交換することがさらに健康に関心を持って情報を探すことに結びつくという相乗効果が見られるということです。このような人間関係の持つ力をソーシャルキャピタル(社会関係資本)と呼びます。信頼できる人々が集まると、健康をいたわり合うなかで情報が交換され、そこがあたかも健康情報の宝庫となっているということです。

5. 健康を決めているのは自分か自分以外か

 また、ウォールストンらは人の健康にかかわる行動に影響を与えるものとして、「健康や病気の原因をどこに求めるかという考え方」(ヘルス・ローカス・オブ・コントロール)に注目しました。そして、その原因をどこに求めるかについての傾向として、「自分自身」「家族や友人、医療者などの他者」「運や偶然」の3つがあるとしました [4]。

 これらは日本の研究者の調査によると、5つあるとされています。ほとんど同じなのですが、「自分自身」「家族」「医師など医療の専門家」「運や偶然」の4つに加えて「超自然(先祖や神仏など)」があるといわれています [5]。ここで大切なことは、「自分自身」かそうでないかということです。すなわち、自分の健康は自分の行動によって決まるとか、健康のためには自分の心がけが大事であると思っているかどうかです。そうでない場合は、医者など自分以外の人次第ということになります。そもそも自分の行動が大事だと思わなければ情報を収集するでしょうか。

 これらの5つについて、日本における29歳から45歳の女性を対象とした調査があります[6]。これらが新聞、テレビ、雑誌などからの健康情報の収集行動にどう影響するかが報告されています。結果としては、健康や病気の原因が「自分自身」「家族」にあると考える人が多く情報を収集していました。同時に、多く情報を収集している人は、その行動が「自分の健康に関連がある」と考えていました。この調査では対象者が小学生を持つ母親であったこともあって子供の健康を考えると「家族」が重要と考えられ、そのために情報を収集しているというものでした。この研究に限らず、国内外で、「自分自身」と考える人が情報を収集しやすいという結果があります。

 このように一人ひとりが持つ考え方によって、健康・医療情報の捉え方や情報を収集することへの考えが異なる傾向にあります。また、これ以外にも、年齢や社会経済的状態と言ったその人の持つ特性によって、どのように情報収集を行うかは異なると言われています。実際のところ、人々の健康や病気は、自分自身や家族などの周囲の人々、保健医療の専門家のすべてから影響を受けています。そのため、その考え方を問わず信頼できる情報を得て、自分自身のためだったり、家族や友人のためにもよりよい意思決定をしたいものです。運の良し悪しのせいにしたり、神仏の力に頼ることも人間には必要なことです。いくら信頼できる情報をもとに意思決定をしても、そのあとどのような結果になるかは、結局は運にまかせるか神のみぞ知るです。ただ、情報を得ないままに運や神仏だけにたよるのはどうなのでしょうか。人事を尽くして天命を待つという言葉もあります。

6. 健康情報の活用におけるリスクを回避するには

情報の活用におけるリスク
 またたくさんの情報のうち、よりよいものをタイムリーに手に入れて活用できることに越したことがありません。しかし、裏を返せば、そうはいかない状況に陥ることも考えられます。問題がその後の生命や生活の基盤を揺るがす大きな問題における意思決定の場面であれば、「リスク」になることも考えられます。ここには大きくふたつのリスクがありそうです。

 ひとつめのリスクは、必要な時に情報を手に入れることができない、ということです。つまり、情報がどこにあるのか、どうやって探せばよいのかわからないという事態になります。健康のために一つの行動を起こす(例えば、一つの治療法を選ぶ)時、私たちは、医療者や家族、友人・知人、本、インターネットなど様々な情報源から多くの情報を得て、その情報をもとに選択を行なうことになります。しかし、今挙げたいくつもの情報源を完全に活用している人は多くないかもしれません。つまり、こうした情報源への接近のしかたが大事で、接近方法がわからないと、情報を取り出すことができません。

 もうひとつのリスクは、情報を手に入れたとしてもそれが本当に良いものかどうか、信頼できるものなのか、自分にとって必要な情報なのか、よくわからない、あるいは間違って判断してしまう、という事態です。

 各種マスメディアの発達や、携帯電話、インターネットの普及により、情報はあふれかえっています。これらから入手できる健康に関する情報はじつにさまざまで、それらの情報が持つ信頼性についても同様です。なかでも、今や身近な情報検索の道具として広く利用されているインターネットの影響は大きいものです。今は、インターネットを使えばほしいと思った情報を手に入れることができます。特にインターネットでは、誰でも簡単に情報を発信できます。したがって、このような玉石混交ともいえる情報の中から得ようとしている情報が信頼のおけるものなのかについて細心の注意が必要です。

 では、医療専門職者等の健康情報・サービスの提供者が示す情報が、必ずしも科学的根拠に基づいた情報であるかというと、その確証もありません。医師個人の好みや慣習から情報提供がされる場合も考えられるからです。大学や公的機関の情報であれば、大丈夫でしょうか。難しい専門用語があってわからなかったり、自分にあてはまらない部分を誤解して自分のことと受け取ったりすることもありえます。

 また、個人の患者や患者会のつくるサイトや闘病記のなかにも、最新のすぐれたエビデンスの紹介や貴重なナラティブを提供しているものもあります。他方で、商品を売るためだけに、巧妙に利用者の体験談を利用しているものもあります。それらの情報のなかから信頼できる情報を集めていかなくてはならないわけです。

 したがって、その情報が信頼できる情報かどうかを解釈する能力や知識がないと、その情報を理解して自分自身の意思決定のための判断材料に使うのは難しいです。情報を得たことでかえって混乱したり、 誤った解釈をして間違った行動を起こしてしまうこともあるかもしれません。

 エビデンスをチェックする必要がありますし、ナラティブは、体験談として、とても参考になる部分がある一方で、自分も必ずその体験者と同じ体験をするかというと必ずしもそのようなことは言えません。こうしたリスクを最小限に抑えるためには、情報を出す側も、受け取る側も、健康情報を適切に活用して意思決定できる能力である「ヘルスリテラシー」を高めるということが大事になります。つぎから、根拠に基づいたエビデンス、価値観、資源とニーズに合わせて、エビデンスの見かた、価値観としてのナラティブ、保健医療の資源の探し方、そして、ヘルスリテラシーの話にすすみましょう。

文献
[1] 辰巳治之ら:「患者・家族におけるインターネット上の医療(健康)情報の利用状況と意識に関する調査」2001.http://www.jima.or.jp/JISSEKI/kousei2001.html
[2]Muir Gray:Evidence-Based Health Care and Public Health: How to Make Decisions About Health Services and Public Health. Churchill Livingstone, 2008.
[3] Dutta-Bergman, M J., (2005) Developing a Profile of Consumer Intention to Seek Out Additional Information Beyond a Doctor: The Role of Communicative and Motivation Variables., Health Communication, 17 (1), 1-16
[4]Wallston, B, S., Wallston, K.A., Kaplan, G. D., Maides, S.A.: Development and validation of the Health Locus of Control (HLC) Scales. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 44, 580-585.
[5]堀毛裕子:日本版Health Locus of Control Scales尺度の作成.健康心理学研究、4、1-7、1991.
[6]吉田由美、他:健康情報の収集行動とHealth Locus of Controlとの関連.日本公衆衛生雑誌、42(2)、69-77、1995.

(中山、吉川、瀬戸山、戸ヶ里)(更新日2017年2月4日)

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2008年4月 9日

インターネット上の保健医療情報の見方

質の高い情報をさがすポイント:『かちもない』または『いなかもち』

サイトに書かれた内容の質や信頼性については、どのようなポイントに注意すれば良いでしょうか。サイトに限らず、どんなところの情報でも同じだと思います。

5つにポイントを絞って、次のように覚える方法が考えられています。[1]

か:書いたのは誰か、発信しているのは誰か?→信頼できる専門家または組織か、個人なら所属があやしいかも
ち:違う情報と比べたか?→他の多くの情報とは全く違うかも
も:元ネタ(根拠)は何か?→引用文献がなければ勝手に言っているだけかも
な:何のための情報か?→商業目的でしかないかも
い:いつの情報か?→古くて現在では違うかも


『かちもない』は、「情報は5つを確認しないと『価値もない』」と覚えられます。
元々の頭文字は『いなかもち』[2]ですが、「飾らず素材のままで信頼できる『いなかもち』のような情報」でしょうか。『いなかもち』を入れ替えると『かちもない』になると教えていただいて普及に努めています。

『か・ち・も・な・い』の5つのポイント(評価基準)がどこから来ているのかについては、ヘルスリテラシーとCOVID-19への対応に求められる「か・ち・も・な・い」と胸に「お・ち・た・か」のなかの「情報評価『か・ち・も・な・い』の基準について」をご覧ください。

『かちもない』を広く知ってもらうために、わかりやすい動画を作成しています。
ご覧いただき、YouTube内にコメントを書いていただいたり、シェアしていただければ幸いです。

『かちもない』をより詳しくチェックするには

5つのポイントについては、それが確認できるようになっていない時点で信頼できないと判断したほうが安全です。
その確認のために、より詳しくチェックする方法がありますので、紹介します。
これですべてではないですが、他にもわかりやすいチェック方法があるという方はお知らせください。

〇か:書いたのは誰か、発信しているのは誰か

・匿名では、どこの誰かわからない
・氏名と所属は事実か、所属内での検索や名簿で確認できるか
・専門的な資格を持つことが確認できるか
・医師、教授、医学博士といった肩書だけでは判断できない
・最近、専門分野の論文(査読のある学術雑誌に)を書いているか
・書いたものが、複数以上の第3者の目を通して評価されていることが明記されているか
・組織による情報発信の場合は、非営利の公的機関であるか、組織の目的や運営方法は明確か

〇ち:違う情報と比べたか

・他の情報と違う点はないか
・問題解決のための選択肢が十分にそろっているか
・各選択肢に必ずある長所と短所の両方が提示されているか
・同じ情報でも立場や専門の違いによって見方が違っていて、書き方や伝え方が違う

〇も:元ネタ(根拠)は何か

・出典や引用などで、科学的な根拠として専門分野の論文(査読のある学術雑誌)や具体的なデータが示されているか
・ある個人や団体が言いたいことを言うだけのための意見や感想ではないか
・気を引くような見出しだけで、それが事実や結論と見なしてはいけない
・元ネタをわかりやすく紹介するのは他者への基本的な思いやりである

〇な:何のための情報か

・サイトの目的やリンク先、本のまえがきなどから見て、商業目的で商品やサービスを買うことを促すための広告ではないか
・健康や医療の情報は公的機関がわかりやすく発信するべきで、それ以外の場合は多様な目的であり、 誰かが何らかの利益を得ることになっていないか
・よく見ると記事や画像の中に「広告」「PR」「i」という広告の表示がないか
・感情や直感だけに訴えかける表現で誘導しようとしていないか、理性的・論理的な表現がされているか
・誹謗中傷が目的となっていないか
・情報の確認ができるように問い合わせ先が明記されているか(住所、電話番号、メールアドレス、氏名など)

〇い:いつの情報か

・サイトの作成日や更新日、本の出版年など、最新の情報であることを示す日時などの情報があるか
・健康や医学に関する情報は日進月歩なため、古い情報では、現在は否定されていることかもしれない
・更新の履歴が残されているか
・更新の方針や予定について記してあるか
・更新がしばらくされていない場合は、更新して最新の情報を提供しようとする体制ができていない可能性

自分の責任で選択する

 インターネットは世界中の情報を瞬時に手にすることができる点で非常に便利なものですが、それを利用したことで損出を被ったり、被害を受けたとしても、その責任は自分にあるということを忘れないで下さい。インターネットは善意で支えられているネットワークです。情報を提供した人には責任を問わないことを知っておいてください。公開されている健康・疾病に関する情報、そして電子メールや掲示板、メーリングリストのコメントも皆そうです。

 インターネットなどで提供される医療情報の中には、現在の標準的な医療に合わないものや、科学的な根拠のあいまいなものがあったりします。提供された情報を鵜呑みにせず、常にリスクを考え、そして情報利用の結果を冷静に評価して下さい。情報利用に際しては、情報の中身を自ら検証する気持ちをもって、また利用の結果に対しても、冷静かつ公平に評価が下せる余裕が必要です。

トラブルにあったときは

 万が一、医療情報を利用して、健康被害やトラブルを被った時は、医師や看護師、保健師、助産師、薬剤師など医療専門職、国民生活センターや地方公共団体の消費者センターなど公的な相談センター、あるいは中立的な第三者にあたる人または機関に相談してください。くれぐれも、一人で悩んで抱え込まないようにしてください。すみやかな情報の提供が、次なる被害やトラブルの発生も未然に防ぎます。

下記の相談窓口をご利用ください。

参考になるサイト

下記のサイトも健康情報を見るときに役に立つサイトです。見比べてみてください。

(中山和弘、的場智子) 更新日 2023年4月18日

文献 [1]中山和弘『これからのヘルスリテラシー 健康を決める力』(講談社、2022) [2]聖路加国際大学:ヘルスリテラシー学習拠点プロジェクト教材作成

2008年4月 4日

Webコミュニティでサポートしあう

 インターネット上では単にコミュニケーションをとるだけでなく、同じような悩みを抱えた人が集い、そこにコミュニティ(同じ目的や価値観を持った人々の集まり)ができるという現象が見られています。
 コミュニティの中では、ある参加者が相談したことに他者がアドバイスをしたり、誰にも言えない悩みを打ち明けてそれを受け止めてもらったりということが日常的に行われています。
 このページでは、このような、人をサポートする機能を持つインターネット上のコミュニティ(以下、Webコミュニティ)について扱います。

Webコミュニティで得られるサポート

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Webコミュニティで得られるサポートには、いくつかの種類があります。

情報的サポート

 まずは、情報を得られるというものです。これは「情報的サポート」と呼ばれ、何かわからないことがあった時に、既に経験している人が情報を提供してくれるというものです。

情緒的サポート

 次に、辛い経験をしたときなどに、励ましてくれたり慰めてくれたりするサポートもあります。これは「情緒的サポート」といわれます。

自分だけではないと思える

 病気など必ずしもみんなが経験するわけではないことを経験すると、なぜ自分だけがこんな目に合わなければいけないのか、なぜ自分だけつらい思いをしなくてはいけないのかと思います。それでも、同じような経験をしている人がいると、自分だけではない、自分は特殊な人ではない、同じ経験をすれば誰もがそう思うのだと、安心する気持ちを持てるようになります。

自分自身についての振り返り

 さらに、他の人が書き込んでいる内容を読んで、自分自身の行動や思いについて振り返ったり、見つめ直したりできるという機能もあります。

他の人をモデルにする

 他にも、他の人がどうしているかを知ることで、その人を自分自身の生き方や生活の仕方のモデルにする(モデリング、観察学習などといいます)といった場合もあります。例えば、同じ病気を抱えた人が集うWebコミュニティでは、医師への質問の仕方や、ふだんの気持ちの持ち方など、当事者ならではの体験知がその場で共有されています。医師との関係がうまくいかないことに悩んでいた人がコミュニティを訪れて、他の人が医師にどのように自分の思いを伝えていたかを知り、その伝え方や準備の仕方を真似してみることで、自分と医師の関係もうまくいくようになるということがあります。同じ体験を持つ人が集うWebコミュニティでは、このようにロールモデル(お手本となる人物)を探すことが可能です。

人の役に立つことで癒される

また、興味深いことに、Webコミュニティ上で誰かの質問に回答してあげたり、誰かを励ましたりして自分が他の人の役に立つことが、自分の癒しにつながること(ヘルパーセラピー効果といいます)があります。これもWebコミュニティで見られるサポートのひとつです。

 これらのさまざまなサポートは、インターネットが普及してから新しく出てきたサポートではありません。これまで顔と顔を合わせた患者会などの対面のコミュニティでも、同じようなサポートが見られると報告されてきました。
 もちろんそれも貴重なのです。ただ、対面のコミュニティは特定の時間にそこにいなくてはいけないという物理的な制約があります。また、素顔を出して話をしなくてはいけないため、心理的な負担もあるでしょう。
 Webコミュニティでは、匿名でもいいですし、24時間いつでも使えるため、そのような負担が少ないというメリットがあります。その一方で、匿名だと、やり取りしている相手が誰だかわからないことによる信頼性の低さということが、デメリットとして挙げられるかもしれません。

 どんなものにもメリット、デメリットがあるのは当然です。

 Webコミュニティは、選択肢の一つではありますが、オールマイティではありません。
 体験者から話を聞きたいと思った時、自分にとってのメリット・デメリットをよく考えて、対面コミュニティとWebコミュニティをうまく使い分けられれば良いと思われます。

サポートが得られるWebコミュニティの種類

 Webコミュニティには様々な種類がありますが、現在はソーシャルメディアを活用したコミュニティが中心となっています。

 ソーシャルメディアには、インターネット上で社会関係を築くメディアで、従来から使われてきた掲示板をはじめとして、FacebookなどのSocial Networking Service(SNS)や、Twitterなどのマイクロブログ、個人のブログ、動画投稿サイト、Q&Aサイト、口コミサイトなど、多様な形があります。基本的にどの種類のWebコミュニティでも、その中で人と人との対話があり社会関係が築かれるので、その中でのサポートのやりとりが生じます。

 しかし、そのサポートがソーシャルメディアの種類を超えて同じかというと、そうではなさそうです。

 例えばTwitterなどは匿名性が高く、勝手に相手をフォローすることができますが、Facebookなどは実名で、友達になって相手の投稿を見るには通常お互いの承認が必要になります。匿名性の高いTwitterでは、自分の素性を明かさずに話ができるという気軽さがある一方で、相手の素性もわからないので、情報の信頼性を確かめることも難しくなるかもしれません。
 他方で、Facebookは原則的に実名登録で、もともと対面で知り合いの人がつながる場合が多いので、どこの誰さんが何を言っているということが分かり、情報の信頼性は上がるかもしれません。しかし、例えば自分の病気のことを周囲に打ち明けていない場合は、Facebookには書き込みをしづらいという状況も考えられます。

コミュニティをうまく使いこなすために

コミュニティ

 このようにWebコミュニティには様々な種類があり、それぞれに特徴があります。また対面のコミュニティとWebコミュニティでもそれぞれにメリット・デメリットがありそうです。

 では、これらをうまく使いこなすにはどうしたらいいでしょうか。

 それには、まず体験者の人に何を期待しているのか、何を求めてコミュニティを利用しようとしているのかを明らかにしておくといいと思います。使い始めてから分かることももちろんあります。
 しかし、コミュニティの中には非常に多様な人が人間関係を築いて対話を行っているため、それに飲み込まれたり、多くの情報を取捨選択できずに翻弄されてしまうと、自分の目的が果たせなかったりする危険性もあるでしょう。

 また、これはWebコミュニティについてですが、やはり対面のコミュニティに比べると手軽であるために、ここでは膨大な量の情報が飛び交います。それらは、正しいという保証がないものもありますし、自分の場合に当てはまらないこともあります。匿名性の高いコミュニティでは、医療者を名乗っていても、本当は医療者ではないという場合も、もしかしたらあるかもしれません。

 そのような大量の情報が飛び交う中、情報を見極めて、うまくWebコミュニティを使いこなすには、やはり情報にアクセスして、理解し、それを活用する能力であるヘルスリテラシーが求められます。自分がその情報の真偽を確かめるのはもちろんですが、わからなければ他の情報源のものと見比べたり、主治医や信頼できる周りの人に尋ねたりするのもいいでしょう。

 Webコミュニティは、多様なサポートが得られて気軽に使える資源と言えるので、それを上手に使いこなすために、ヘルスリテラシーを意識しながら使えるとよいと思います。

(瀬戸山陽子、中山和弘)

文献
[1]Setoyama, Y., Yamazaki, Y., & Nakayama, K. (2011). Comparing support to breast cancer patients from online communities and face-to-face support groups. Patient Educ Counseling, 85(2), e95-100.

健康情報のためのソーシャルメディアの活用

健康情報のためのソーシャルメディアの活用

ソーシャルメディアとは

 ソーシャルメディアとは、インターネット上のブログやFacebook、Twitter、YouTubeなどで代表されるものです。基本的にオープンで、誰もが参加できて、そこでつながりができていくメディアです。例をあげてみました[1]。

ソーシャルメディアの種類

ブログ

アメーバブログ、ココログ、Blogger

SNS

Facebook、Twitter、Google+、Tumblr、mixi

患者向けSNS

患者SNS、PatientsLikeMe

専門職向けSNS

LinkedIn、ResearchGate、Academia

医師向けSNS

メドピア、地域の医師会等のSNS、Sermo

看護師向けSNS

ナース専科、allnurses

動画・画像共有

YouTube、ニコニコ動画、Instagram、Pinterest、Vine

メッセージングアプリ

LINE、WhatsApp、Facebook Messenger

情報共有サイト

Wikipedia、SlideShare、クックパッド

口コミサイト

価格コム、食べログ

病院口コミサイト

Qlife、病院の通信簿

Q&Aサイト

Yahoo!知恵袋、OKWave(教えて!goo)

医師によるQ&Aサイト

アスクドクターズ

掲示板、フォーラム

看護ネットよろず相談所、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)、textream

 
 保健医療の世界でも、政府や行政機関(厚生労働省など)、病院、大学、研究所、学会や学術雑誌の出版社、大学教員や研究者(私もその一人です)、医師、看護師、薬剤師などの専門家やそれを学ぶ学生がソーシャルメディアを用いるようになりました。アメリカを中心として欧米では、保健医療関係のほとんどといってよいほど組織や団体がソーシャルメディアを活用しています。学会のサイトを見ても海外はほとんどTwitterやFacebookを使っています。日本の学会や組織はソーシャルメディア活用のメリットをまだ認識できていないと思います。
 健康に関する代表的な国際機関であるWHO(世界保健機関)のFacebookでは300万人以上の「いいね!」、Twitter(@WHO)では300万人以上、Google+で100万人以上、Instagramで約30万人のフォローがあります。YouTubeも視聴回数は1000万回を超えています。アメリカの厚生省にあたるHHS(保健福祉省)でもTwitter(@hhsgov)のフォローは60万以上、その所属機関であるNIH(国立衛生研究所, @NIH)、CDC(疾病予防センター, @CDC)は70万以上で、NCI(国立がん研究所, @NCI)などほとんどの機関でソーシャルメディアが使われています。市民向けの健康情報サイトMedlinePlus(@medlineplus)やHealthfinder(@healthfinder)などもそうです。
 また、アメリカの病院でもそうです。国際的に著名で評価の高いアメリカのメイヨークリニック(Mayo clinic)は、コンスタントに健康医療情報を発信していて、Twitter(@MayoClinic)のフォロワーも140万以上です。専門職のための研修プログラムやソーシャルメディアの活用のためのセンターを作り、グローバルなネットワークも作っています。そこにある考えは、一人ひとりは自分の健康をまもる権利と責任を持っているのだから、ソーシャルメディアを使ってベストな情報を得られて、医療者やお互いのつながりをつくることができる手助けをする責任があるというものです[2]。そのため、誰でも登録・参加できてオープンな症状・病気についてのオンラインコミュニティも設置しています。
 日本の厚生労働省のTwitter(@MHLwitter)は40万以上と多いですが、Facebookの「いいね!」はまだ1000件くらいです。附属機関であった国立健康・栄養研究所のTwitterは2000件ほどで、厚生労働省の関連機関ではあまりソーシャルメディアは使われていません。

 世界で、どのように利用されているのかを、まとめたものが次です [3]。

ソーシャルメディアの利用のしかた

  • 幅広い病気や症状に対する健康情報の提供
  • 医学的な質問への回答の提供
  • 患者と患者、患者と医療者との対話の促進
  • 患者の経験や意見に関するデータの収集
  • 健康に関する介入、ヘルスプロモーション、健康教育
  • スティグマの減少
  • オンラインでのコンサルテーションの提供

 専門的な健康情報の提供だけでなく、患者同士や患者と医療者の対話を促進することがあげられています。また、市民や患者が健康や病気についてよく知ることで、健康になる方法を広めると同時に、病気や障害への悪いイメージ(スティグマ)を減らすことも期待されています。
 ソーシャルメディアを利用する長所としては、次のようなことがあげられています[3]

ソーシャルメディアの長所

  • 他者との交流の増加
  • 手に入りやすく、共用できる、テーラーメードな情報の増加
  • 健康情報へのアクセシビリティとアクセスの拡大
  • ピア(仲間)のサポート、ソーシャルサポート(情緒的なサポート)
  • 人々の健康のサーベイランス(問題発見のための継続的な調査)
  • 健康政策への影響力

 やはり、他者との交流が増加することで、自分に合った情報を見つけられて、サポートしあうことが可能になる点が大きいでしょう。それに加えて、人々の投稿をもとに、新たな健康問題の発生や重大な病気の流行がないか調べることも可能になります。また、健康に関する政策について知ることで、意見交換したり議論したりすることで、政策に影響を与えることも考えられます。
 ただし、良い点ばかりではありません。次のような限界があげられています[3]

ソーシャルメディアの限界

  • 情報の信頼性の欠如
  • 情報の質に関する懸念
  • 情報過多
  • 自分の健康状態についてネットで見つけた情報を正しく活用する方法がわからない
  • 行動変容のためにより効果的なソーシャルメディアの技術がわかっていない
  • 健康への逆効果
  • 良くない保健行動
  • ソーシャルメディアが患者の受療行動を妨げるものになる可能性
  • 守秘義務とプライバシーの欠如
  • 個人情報を公開するリスクに気付かないこと
  • 害のある不正確なアドバイス伴うリスク
  • 医療者が患者とのコミュニケーションにソーシャルメディアを使わない可能性
 情報の信頼性や質に問題があると、健康に良くない行動をとって、むしろ逆効果になってしまう場合もあります。ヘルスリテラシーが低い人の場合は、とくにそうでしょう。専門家なのに不正確な情報を発信したり、患者の情報を漏らしたりプライバシーを侵してしまうリスクもあります。また患者や市民が情報提供やコミュニケーションを望んでも使ってもらえないこともあるでしょう。

(中山和弘)(公開日2017年4月4日、最終更新日2019年3月26日)

文献

[1]中山 和弘:精神科医が注意すべきソーシャルメディアリテラシー.臨床精神医学 45(10), 1259-1267, 2016. ダウンロード
[2] Mayo Clinic Social Media Network. About MCSMN. https://socialmedia.mayoclinic.org/about-mcsmn/
[3] S Anne Moorhead, et al. A New Dimension of Health Care: Systematic Review of the Uses, Benefits, and Limitations of Social Media for Health Communication. JMIR 2013;15(4):e85 https://www.jmir.org/2013/4/e85/

保健医療の専門職のためのソーシャルメディア利用のガイドライン

保健医療の専門職のためのソーシャルメディア利用のガイドライン


 保健医療の専門職として、まず、医師がソーシャルメディアを利用する場合はどうでしょう。どのような点が注目すべき点なのかを知るために、すでに海外で作成されている医師向けのソーシャルメディアのガイドラインを紹介します[1]。医師以外の専門家でも共通して当てはまると思います。

アメリカ医師会のソーシャルメディア利用におけるプロフェッショナリズム

 アメリカ医師会の医療倫理原則のなかには、ソーシャルメディア利用におけるプロフェッショナリズム(専門職意識)というのがあります[2]。それは、次のようなもので、まず先にソーシャルメディアの長所が述べられています。

 インターネットは、医学生と医師がすぐにコミュニケーションをとったり情報を共有したり、何百万もの人々に簡単につながることを可能にした。ネットワークづくり(social networking)への参加や同様のインターネット上での機会は、医師による個人の表現をサポートできて、オンライン上で個人個人の医師が専門的な存在感を持つことを可能とし、職業における同僚意識や仲間意識を育み、社会の健康に関するメッセージや他の健康に関するコミュニケーションを広く普及させる機会を提供する。


 その上で、それは患者-医師関係に新しいチャレンジを生み出したとして、医師と研修医は、利用する場合に多くのことを考慮する倫理的責任を持つとしています。
 倫理的な問題として、まずは患者のプライバシーと守秘義務をあげています。プライバシーについては、いくらその設定をしても結局は限界があり、ネット上に出てしまえば永久にそこに残ると釘を刺しています。患者-医師関係においては、専門職としての境界の維持が強調され、そのためには個人的な内容と専門的な内容を分けることを提案しています。さらに、患者との関係以外には、同僚との関係において、職業倫理上問題のある投稿に対しては、注意を促すなど、互いに監視することを勧めています。


イギリスGMCのソーシャルメディア利用のガイドライン


 イギリスでは、医師の登録を司るGMC (General Medical Council、医事審議会)が医師のソーシャルメディアの利用のガイドラインを作成しています[3]。基本的なところはアメリカと同様ですが、まず、その長所が3つあるとしています。人々を健康関連の政策に巻き込むことをあげているのが特徴的です。

・人々の社会の健康や政策の議論への参加を促進する
・国内外の専門職のネットワークをつくる
・患者の健康とサービスに関する情報へのアクセスを促進する


 また、匿名性について触れられています。誰もがアクセスできるソーシャルメディアにおいて、医師であることを明らかにしているならば、名前も明確にするべきとしています。医師を名乗った人が書いたものは鵜呑みにされやすく、専門家の見解として広く受け入れられる可能性があるためです。


ウェブ上の医師の活動におけるベネフィット、ピットフォール(落とし穴)および安全策

 米国内科学会(ACP)と米国医事審議会連合(FSMB)は,ウェブでの医師の職業意識に関する声明を発表しています[4]。そこでは、ウェブ上の医師の活動におけるベネフィット、ピットフォール(落とし穴)および安全策という一覧表を作成しています。ベネフィットをしっかり意識しながら見られるつくりになっているので紹介します(表)。ネット上での活動内容別に整理されているので理解しやすいです。

表 ネットでの医師のベネフィット、ピットフォール、安全策


活動内容

起こりえるベネフィット

起こりえるピットフォール(落とし穴)

推奨される安全策

eメール、テキスト、インスタントメッセージによる患者とのコミュニケーション

・アクセシビリティの向上
・緊急性が低い問題に対する即時の回答

・守秘義務の問題
・face-to-faceや電話でのやり取りの代替になること
・デジタルによるやりとりの曖昧さや誤解

・デジタルによるコミュニケーションに適した話題についてのガイドラインの作成
・デジタルによるコミュニケーションはface-to-faceでフォローアップを続けられる患者だけにしておく

患者の情報を集めるためにソーシャルメディアを利用

・リスクがある、または不健康な行動をしている患者の観察やカウンセリング
・緊急の場合に介入する

・情報源の感度の高さ(本当に問題なのか)
・医療者-患者関係における信頼を脅かす

・探す目的や見つけたものの使い方をよく考える
・現在行っているケアへの影響をよく考える

ネット上の教材や関連した情報を患者と一緒に利用

・自己学習を通して患者のエンパワメントを促進する
・情報が不足している場合に補足する

・ピアレビューされていない情報によって不正確な情報が提供される
・治療と結果を誤って伝える偽物の患者サイトの存在

・コンテンツの正確性を確保するため情報を厳しく吟味する
・信頼できるサイトや情報源だけを患者に提供する

医師によるブログやマイクロブログの開設と他者によるブログなどへの医師のコメント投稿

・アドボカシー(患者の権利擁護や政策提言)とパブリックヘルス(社会の健康)の向上
・上記活動における医師の「声」を紹介する

・感情のはけ口や暴言を含むネガティブなコンテンツで、患者や同僚の名誉を傷つける

・投稿する前に一呼吸置く
・医師について投稿するような内容は、個人としてのものか医師という専門職を代表してのものかよく考える

一般のソーシャルメディアに医師が自分の個人的な情報を投稿

・ネットワークづくりとコミュニケーション

・専門職と個人の境界があいまいになる
・個人のことや専門職であることを公開することの影響

・ネットで社会的な活動するときは、ネット上の人格と個人と専門職者を区別する
・公開可能なものか精査する

患者のケアについて同僚とコミュニケーションを取る手段にネットを利用

・同僚とのコミュニケーションが容易になる

・守秘義務の問題
・セキュリティの低いネットワークで保護された健康情報にアクセスされる

・メッセージ送信や情報共有の安全性を確保できる健康情報技術を活用する
・保護された健康情報へのリモートアクセスやモバイル端末によるアクセスに関する各施設の方針に従う



以下、活動内容別に見てみましょう。

Eメールを含めたテキストによる患者とのコミュニケーション
 テキストによるコミュニケーションは、対面(face-to-face)でのやり取りにとって代わるものではなくて、両方を継続的に用いることを推奨しています。

患者の情報を集めるためにソーシャルメディアを利用
 患者の情報を集めることを目的にしたソーシャルメディアの活用が示されています。患者を見守り、緊急時には介入するベネフィットが挙げられ、ピットフォール(落とし穴)としては、患者の投稿が正確なのかどうかわからないことと、患者が医療者への信頼を失う可能性が指摘されています。推奨される安全策としては、見つけた患者の情報の利用方法とその影響をよく考えることとされています。

ネット上の教材や関連した情報を患者と一緒に利用
 患者が学習できるためにネットの情報をシェアするというのは、ソーシャルメディアでの活用方法としてはよい方法だと思います。ただし、情報の信頼性には注意が必要で、しっかりと吟味したものをシェアする必要性があげられています。
 しかし、ソーシャルメディアでは、たくさんの情報がやり取りされ、リンクなどからどんな情報にでも接触可能です。すべて吟味したものを提供しても、患者はいつでも検索して別の情報を手に入れることができます。そのため、患者にヘルスリテラシーが求められるところで、医療者はその向上のための支援を行うことも重要です。そこでは、継続的にやりとりできるソーシャルメディアの活用に期待がされます。

ブログやマイクロブログへの投稿
ブログやマイクロブログ(Twitterなど)への投稿ですが、ソーシャルメディア全体への投稿ととらえてよいでしょう。ベネフィットとして、アドボカシー(患者の権利擁護や政策提言)とパブリックヘルス(社会の健康)の向上、医師の「声」を紹介することがあげられています。
投稿では、感情的なもの、ネガティブな発言も可能なので、投稿する前に一呼吸置くという実践的な方法が紹介されています。さらに言えば、翌日まで寝かせておくという方法もあります。そして、すでに上記のガイドラインで紹介されている個人的な発言か、医師としての発言かの境界を明確にすることが提案されています。

一般のソーシャルメディアに医師が自分の個人的な情報を投稿
ソーシャルメディアに個人的な情報を投稿することについては、やはり、個人と専門職の境界の問題が指摘されていて、それを区別することが提案されています。

患者のケアについて同僚とコミュニケーションを取る手段にネットを利用
同僚と患者のことでコミュニケーションをとるというものでは、守秘義務の問題とあとはセキュリティの問題となっています。ソーシャルメディアや情報システムのセキュリティの問題もあるが、端末の管理、すなわちID・パスワードの管理やアクセス権の管理などが重要となってきます。


イギリスの看護・助産審議会のガイドライン

 看護師の場合はどうでしょうか[5]。イギリスのNMC(Nurses and Midwives Council、看護・助産審議会)は、責任を持って適切に用いれば、看護師・助産師・看護学生にとって有益であると書かれています。次のことをすれば、資格停止、学生なら資格が取れなくなると警告しています[6]。

  • 機密性の高い情報を不適切にシェアすること
  • 患者やケアを受ける人々の写真を同意なしに投稿しないこと
  • 患者について不適切なコメントを投稿すること
  • 人々をいじめたり脅したり不当に利用すること
  • 患者やサービスの利用者と関係を築いたり追い求めたりすること
  • 個人情報を盗んだり誰かになりすましたりすること
  • 暴力や自傷を促すこと
  • 憎悪や差別をあおること

 どちらかといえば、ソーシャルメディア上では患者や市民との関係はつくらず、看護職同士の利用においてエビデンスにもとづいた正しい情報を提供することや、同僚と協力的に働くためにコミュニケーションをとる手段として使うことが中心となっています。

アメリカの看護連盟全国協議会のガイドライン

 アメリカでは、NCSBN(National Council of State Boards of Nursing、看護連盟全国協議会)が、ソーシャルメディア利用のガイドラインを出しています[7]。そこでは、ソーシャルメディアの長所として、専門家のつながりを育むこと、患者や家族とのタイムリーなコミュニケーションを促進すること、保健医療の消費者や専門家に教育や情報提供をすることがあげられています。さらに、その利用によって、看護師が自分たちの感情を表現したり、反省するかまたは友人・同僚・仲間やネット上の誰かからのサポートを探すことができるとしています。

 日々記録をすること(Journaling)や反省的実践(Reflective practice)は、看護の実践には効果的なので、ネットでそれができる点にも触れられています。しかし、そのような長所があっても、注意しないと、問題が生じると指摘されています。
注意すべき内容としては、イギリスのものと同様ですが、ソーシャルメディアの迷信と誤解について紹介されていて、そのうち次のものを紹介しておきます。大事なことです。

  • 投稿ややりとりは、プライベートなもので対象とする受信者しかアクセスできない(一度投稿されたものは他人に広めることができることをわかっていないかも)
  • サイトから消したコンテンツはもうアクセスできない(投稿された瞬間からサーバーに残っていて、いつも裁判で発見される)
  • 対象とする受信者にしかアクセスできないやりとりであれば、患者の個人情報を明らかにしても罪はない(これはそれでもやはり守秘義務違反)

医療系学生のソーシャルメディア利用

 次に、学生の利用について考えてみます。2010年に、アメリカの看護大生が、トレーに入った胎盤から出たへその緒をつまみあげ、満面の笑顔で撮った写真をFacebookに投稿し退学になったというニュースが話題になりました[8]。それでも、学生は、写真の投稿は教員に許可を得ていた、匿名のドナーから提供された胎盤を用いた授業でのことで匿名性を侵害してはいない、復学させてほしいと裁判所に訴状を出しました。


 彼女は「私たちは胎盤を観察したあの日は、看護師として重要な瞬間だと思ったのです。なぜなら、この驚くべき臓器は子供に、必要なすべての栄養を9か月間も提供してきたからです。」と述べました。退学処分は無効となり、学生は戻れることになりましたが、賛否両論を巻き起こしました。


 日本でも、似たような事件は起こっていて、不適切な投稿がマスコミに広がり退学になった事例があります。医療者を目指して大切なことを学んだとシェアしたい気持ちにあふれていると見られるか、何の配慮もなしにアップしていると見られるのか、見る人の立場によってどのように違って見えるかの配慮が求められます。学んだ喜びやその努力を表現したり、最新の教育ではどのようなことを学べているのかを紹介することは、市民や患者にとっても、信頼や尊敬を持てるようになることです。そのような活用方法をぜひ身に付けてほしいものです。


おわりに

 ここでは、ソーシャルメディアのガイドラインなどを紹介しましたが、欧米のものに並べて紹介できるような日本のガイドラインは見つけることができませんでした。ここで紹介した内容をうまく整理すれば、日本でのガイドラインのたたき台を作成できると思います。
 日本では、個人的な利用は多いものの、保健医療への活用による長所のところで紹介した利用はまだ途上であるように思います。筆者は、これまでソーシャルメディアを教育研究のためにずっとオープンに活用してきていますが[9]、多くの方々がここで紹介した長所を意識化してつながりがさらに広がることを願っています。

(中山和弘)(公開日2017年4月4日)

文献
[1}中山 和弘:精神科医が注意すべきソーシャルメディアリテラシー.臨床精神医学 45(10):1259-1267, 2016 ダウンロード
[2]American Medical Association. Professionalism in the use of social media. AMA Principles of Medical Ethics, 2016. https://download.ama-assn.org/resources/doc/code-medical-ethics/code-2016-ch2.pdf
[3]General Medical Council. Doctors' use of social media. 2013. http://www.gmc-uk.org/Doctors__use_of_social_media.pdf_51448306.pdf
[4]Farnan JM, Snyder Sulmasy L, Worster BK, Chaudhry HJ, Rhyne JA, Arora VM; American College of Physicians Ethics, Professionalism and Human Rights Committee; American College of Physicians Council of Associates; Federation of State Medical Boards Special Committee on Ethics and Professionalism*. Online medical professionalism: patient and public relationships: policy statement from the American College of Physicians and the Federation of State Medical Boards. Ann Intern Med. 2013 Apr 16;158(8):620-7.
[5] 中山 和弘:基礎教育で教えなければならない情報リテラシー.看護教育, 54(7): 550-559, 2013. ダウンロード
[6]Nurses and midwives Council: Guidance on using social media responsibly
https://www.nmc.org.uk/globalassets/sitedocuments/nmc-publications/social-media-guidance.pdf
[7]NSCBN:A nurse's guide to the use of social media. 2011 https://www.ncsbn.org/NCSBN_SocialMedia.pdf
[8]福元 ゆみ:@wnursing せかいのつぶやき #04「看護学生による胎盤写真投稿事件 日本看護協会出版部 http://jnapcdc.com/archives/2829
[9]中山和弘:ソーシャルメディアがつなぐ/変える研究と健康.看護研究,44(1): 86-93, 2011. ダウンロード

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