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2015年3月 アーカイブ

2015年3月11日

「Webコミュニティのサポート機能」

 インターネット上では単にコミュニケーションをとるだけでなく、同じような悩みを抱えた人が集い、そこにコミュニティ(同じ目的や価値観を持った人々の集まり)ができるという現象が見られています。
 コミュニティの中では、ある参加者が相談したことに他者がアドバイスをしたり、誰にも言えない悩みを打ち明けてそれを受け止めてもらったりということが日常的に行われています。
 このページでは、このような、人をサポートする機能を持つインターネット上のコミュニティ(以下、Webコミュニティ)について扱います。

Webコミュニティで得られるサポート

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Webコミュニティで得られるサポートには、いくつかの種類があります。

情報的サポート

 まずは、情報を得られるというものです。これは「情報的サポート」と呼ばれ、何かわからないことがあった時に、既に経験している人が情報を提供してくれるというものです。

情緒的サポート

 次に、辛い経験をしたときなどに、励ましてくれたり慰めてくれたりするサポートもあります。これは「情緒的サポート」といわれます。

自分だけではないと思える

 病気など必ずしもみんなが経験するわけではないことを経験すると、なぜ自分だけがこんな目に合わなければいけないのか、なぜ自分だけつらい思いをしなくてはいけないのかと思います。それでも、同じような経験をしている人がいると、自分だけではない、自分は特殊な人ではない、同じ経験をすれば誰もがそう思うのだと、安心する気持ちを持てるようになります。

自分自身についての振り返り

 さらに、他の人が書き込んでいる内容を読んで、自分自身の行動や思いについて振り返ったり、見つめ直したりできるという機能もあります。

他の人をモデルにする

 他にも、他の人がどうしているかを知ることで、その人を自分自身の生き方や生活の仕方のモデルにする(モデリング、観察学習などといいます)といった場合もあります。例えば、同じ病気を抱えた人が集うWebコミュニティでは、医師への質問の仕方や、ふだんの気持ちの持ち方など、当事者ならではの体験知がその場で共有されています。医師との関係がうまくいかないことに悩んでいた人がコミュニティを訪れて、他の人が医師にどのように自分の思いを伝えていたかを知り、その伝え方や準備の仕方を真似してみることで、自分と医師の関係もうまくいくようになるということがあります。同じ体験を持つ人が集うWebコミュニティでは、このようにロールモデル(お手本となる人物)を探すことが可能です。

人の役に立つことで癒される

また、興味深いことに、Webコミュニティ上で誰かの質問に回答してあげたり、誰かを励ましたりして自分が他の人の役に立つことが、自分の癒しにつながること(ヘルパーセラピー効果といいます)があります。これもWebコミュニティで見られるサポートのひとつです。

 これらのさまざまなサポートは、インターネットが普及してから新しく出てきたサポートではありません。これまで顔と顔を合わせた患者会などの対面のコミュニティでも、同じようなサポートが見られると報告されてきました。
 もちろんそれも貴重なのです。ただ、対面のコミュニティは特定の時間にそこにいなくてはいけないという物理的な制約があります。また、素顔を出して話をしなくてはいけないため、心理的な負担もあるでしょう。
 Webコミュニティでは、匿名でもいいですし、24時間いつでも使えるため、そのような負担が少ないというメリットがあります。その一方で、匿名だと、やり取りしている相手が誰だかわからないことによる信頼性の低さということが、デメリットとして挙げられるかもしれません。

 どんなものにもメリット、デメリットがあるのは当然です。

 Webコミュニティは、選択肢の一つではありますが、オールマイティではありません。
 体験者から話を聞きたいと思った時、自分にとってのメリット・デメリットをよく考えて、対面コミュニティとWebコミュニティをうまく使い分けられれば良いと思われます。

サポートが得られるWebコミュニティの種類

 Webコミュニティには様々な種類がありますが、現在はソーシャルメディアを活用したコミュニティが中心となっています。

 ソーシャルメディアには、インターネット上で社会関係を築くメディアで、従来から使われてきた掲示板をはじめとして、FacebookなどのSocial Networking Service(SNS)や、Twitterなどのマイクロブログ、個人のブログ、動画投稿サイト、Q&Aサイト、口コミサイトなど、多様な形があります。基本的にどの種類のWebコミュニティでも、その中で人と人との対話があり社会関係が築かれるので、その中でのサポートのやりとりが生じます。

 しかし、そのサポートがソーシャルメディアの種類を超えて同じかというと、そうではなさそうです。

 例えばTwitterなどは匿名性が高く、勝手に相手をフォローすることができますが、Facebookなどは実名で、友達になって相手の投稿を見るには通常お互いの承認が必要になります。匿名性の高いTwitterでは、自分の素性を明かさずに話ができるという気軽さがある一方で、相手の素性もわからないので、情報の信頼性を確かめることも難しくなるかもしれません。
 他方で、Facebookは原則的に実名登録で、もともと対面で知り合いの人がつながる場合が多いので、どこの誰さんが何を言っているということが分かり、情報の信頼性は上がるかもしれません。しかし、例えば自分の病気のことを周囲に打ち明けていない場合は、Facebookには書き込みをしづらいという状況も考えられます。

コミュニティをうまく使いこなすために

コミュニティ

 このようにWebコミュニティには様々な種類があり、それぞれに特徴があります。また対面のコミュニティとWebコミュニティでもそれぞれにメリット・デメリットがありそうです。

 では、これらをうまく使いこなすにはどうしたらいいでしょうか。

 それには、まず体験者の人に何を期待しているのか、何を求めてコミュニティを利用しようとしているのかを明らかにしておくといいと思います。使い始めてから分かることももちろんあります。
 しかし、コミュニティの中には非常に多様な人が人間関係を築いて対話を行っているため、それに飲み込まれたり、多くの情報を取捨選択できずに翻弄されてしまうと、自分の目的が果たせなかったりする危険性もあるでしょう。

 また、これはWebコミュニティについてですが、やはり対面のコミュニティに比べると手軽であるために、ここでは膨大な量の情報が飛び交います。それらは、正しいという保証がないものもありますし、自分の場合に当てはまらないこともあります。匿名性の高いコミュニティでは、医療者を名乗っていても、本当は医療者ではないという場合も、もしかしたらあるかもしれません。

 そのような大量の情報が飛び交う中、情報を見極めて、うまくWebコミュニティを使いこなすには、やはり情報にアクセスして、理解し、それを活用する能力であるヘルスリテラシーが求められます。自分がその情報の真偽を確かめるのはもちろんですが、わからなければ他の情報源のものと見比べたり、主治医や信頼できる周りの人に尋ねたりするのもいいでしょう。

 Webコミュニティは、多様なサポートが得られて気軽に使える資源と言えるので、それを上手に使いこなすために、ヘルスリテラシーを意識しながら使えるとよいと思います。

(瀬戸山陽子、中山和弘)

文献
[1]Setoyama, Y., Yamazaki, Y., & Nakayama, K. (2011). Comparing support to breast cancer patients from online communities and face-to-face support groups. Patient Educ Counseling, 85(2), e95-100.

からだのことを子どものころから知ろう

患者や市民が医療者が話すとき、その内容の多くは、私たちのからだについてのことだと思います。 しかしそもそも、私たちは自分のからだについてどのくらいのことを知っているでしょうか。

 世界における「からだの教育」

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 世界のいくつかの国では、子どもの頃からからだや健康についての教育がなされています。

 例えばアメリカには、国の疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)が1995年に定めた保健教育の学習目標である全国保健教育基準(National Health Education Standard)があります。
 この基準の対象は、幼稚園から12年生(日本では高校3年生)までの子どもです。つぎの、8つの領域において、発達段階ごとに具体的な目標が定められています[1]。

  1.  1.より良い健康のためのヘルスプロモーションと疾病予防に関する考え方を理解する
  2.  2.健康行動に影響を与える家族や仲間、文化、メディア、技術の影響について分析する
  3.  3.より良い健康のための情報や商品、サービスにアクセスする
  4.  4.より良い健康のために健康リスクを避けたり減らしたりする対人コミュニケーションスキルを使う
  5.  5.より良い健康のために意思決定のスキルを使う
  6.  6.より良い健康のために目標設定のスキルを使う
  7.  7.より良い健康のための行動を実践し、健康リスクを避けて減らす
  8.  8.自分や家族、コミュニティの健康を擁護(advocate)する

 小さい頃から意思決定のスキルを身に付けることが1つの柱になっています。  アメリカは州によって義務教育の体制が異なりますが、全米の6割以上がこの目標に沿った保健教育を行っていると報告されています。

 また、イギリスでも、1999年に「保健」が加わった「人格、社会性、保健の教育(Personal, Social Health & Economic Education)」や体育の科目において、健康やからだに関する教育が行われています。  イギリスでは、義務教育期間を4つのキーステージに分けており、「人格、社会性、保健の教育」の科目においても、キーステージごとに学ぶべき内容が定められています。例えば、キーステージ1である5~7歳では、「健康で安全な生活習慣を高める」という目標のもと、学ぶべき内容として、「健康で健全な生活を送るためのシンプルな選択の方法」や「個人衛生の維持」「からだの主な部分の名前」などが含まれています[3]。

 さらに、台湾では、保健教育は小学校1年生から各学年において、系統的に実施するように教育課程の中に組み込まれています。
 具体的な教科としては「健康と体育」と呼ばれますが、この科目は小学校1年生から中学校3年生まで必修です。内容は、「発育と発達」「人間と食物」「運動機能」「運動参与」「安全な生活」「健全な精神」「集団の健康」の7項目にわたり、小学校1年生から中学校3年生を3段階に分けて、その段階ごとに、学習目標が定められています[3]。

 日本における「からだの教育」

 このように、他国では子どもの頃からからだや健康に関して様々な取り組みがなされています。

 では日本はどうでしょうか。

 残念なことに、今の日本では、からだについて系統的に学ぶ機会が整えられていません。
小中学校や高校の「保健」の授業で性教育がなされたり、「理科」の授業で人間と魚の心臓の形の違いやメンデルの遺伝の法則を学んだりすることはあります。
 しかし例えば、消化器系や循環器系、泌尿器系など、体の基本的な知識や機能について学ぶ機会は整えられておりません。 また、健康に影響を与える環境とは何か、健康的で安全な食とは何かといったことに関しても、学校の場で系統的に学習する機会が整えられていないのです。

 NPO法人「からだフシギ」の取り組み

 通常私たちは、ある日突然病気になり医療者と話をしなくてはいけないという状況に直面します。
 しかし、効果的な質問の仕方を学んだとしても、そもそも自分のからだが健康な時にどのような形態や機能を持つものなのかを知らなければ、病気になった時の治療や療養生活について理解して良い意思決定をするのは難しいでしょう。

 そんな問題意識のもと、「すべての人が当たり前にからだの知識を持つ社会」を目指して活動している団体があります。NPO法人「からだフシギ」です。この団体は2005年から、5歳児を対象にして、からだのお話会を行う活動を行ってきました。

 お話会で扱う内容は、「消化器系」「呼吸器系」「循環器系」「筋・骨格系」「泌尿器系」「生殖器系」「脳・神経系」と多岐にわたります。毎回、「からだの絵本」や臓器の大きさと位置が立体的にわかる「臓器Tシャツ」、豆腐を脳に見立てた「模型」などを使うことで、子どもが実際には見たことがない自分のからだの中を想像しやすいような工夫を行っています。
 また、子どもたちがリラックスして素直に学べるように、図書館など子供たちにとってなじみ深い場所に出向いて行うというスタイルをとっています。お話の内容は一見難しそうですが、5歳児なりに自分のからだのことを理解しているようです。

 お話会では毎回、一緒に来ている5歳児の親御さんからも「自分も知らないことがあった」「からだのしくみを知るのが面白かった」という感想を頂きます。
 やはり大人でも、実は四六時中一緒にいる自分のからだのことを知らないということが多いようです。お話会や教材の詳しい内容は、ホームページをご覧ください。

NPO法人からだフシギ 

 病気にならないため、また病気になった時に医療者と効果的に話せるために、からだのことを知るのはもちろん大切です。
 しかし、私たちのからだは非常に精巧でよくできているので、まずはその巧みさや面白さを感じながら、からだに関する基本的知識を身に着けることが大事ではないでしょうか。

 NPOからだフシギが現在活動の対象にしているのは年長児のみですが、将来的に自分の意思で健康的な生活を目指して意思決定ができるように、すべての人が当たり前にからだに関する基本的な知識を持つような子どもの頃から学びの機会を整えられればと思って活動を行っています。
 また、今後は大人向けのからだのお話会なども企画できればと思っていますので、ぜひ定期的にホームページを覗きに来てください。 腸の長さは身長の3倍! お母さんの心臓の音、聴こえるかな?

写真:NPO法人「からだフシギ」のお話会の様子
(左:「腸の長さは身長の3倍!」 右:「お母さんの心臓の音、聴こえるかな?」)

ヘルスプロモーションスクール

 また、子どもへの健康教育の重要性が注目される中、それを体現させるものとして、ヘルスプロモーティングスクールという考え方もあります。これはWHOが提唱したもので、児童生徒だけでなく、教職員や家族、地域住民も一緒になり、学校を健康的な場にすることにたゆまぬ努力をしようという取り組みです。健康的な環境を整えることや健康教育を行うこと、さらに学校における健康サービスの提供が特徴として挙げられています[4]。

 アジア諸国では1996年以降中国、香港特別行政区、台湾が国家的な事業として開始し、特に台湾では、2002年に10校が指定されてから2006年では600校、現在では全土で取り入れられています[5]。
 日本でも千葉大学教育学部が導入し始め、「健康的な学校づくり」が勧められています [6]。

 大人のヘルスリテラシーを向上させるために、すべての人が受ける義務教育の段階から、系統的な健康に関する学習機会が整えられることが強く望まれます。

(瀬戸山陽子、中山和弘)

[1] Center for Disease Control and Prevention (1995) National Health Education Standard. from http://www.cdc.gov/Healthyyouth/SHER/standards/index.ht, アクセス日2014年11月18日
[2] Personal, Social Health and Economic Education Association (1998) Personal, Social Health and Economic Education. https://www.pshe-association.org.uk/, アクセス日2014年11月18日
[3] 国立教育政策研究所、保健のカリキュラムの改善に関する研究―諸外国の動向―、2004
[4] WHO, "What is a health promoting school", アクセス日2014年11月22日, http://www.who.int/school_youth_health/gshi/hps/en/
[5]岡田加奈子、【第2回APHPE大会:アジアに焦点を当てたヘルスプロモーション・健康教育の最新動向2012】アジアにおけるヘルス・プロモーティング・スクールの動向、日本健康教育学会誌、20(3)、254-256.
[6]千葉大学、ヘルス・プロモーティングスクール・プロジェクト アクセス日 2014年11月22日http://chiba-hps.org/

米国CDCによる公衆衛生専門職向けのヘルスリテラシー向上プログラム

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 米国で市民のヘルスリテラシー向上を目指して行われている取り組みの一つに、米国疾患予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)が開発したe-learningプログラムがあります
 これは、公衆衛生の専門職が市民のヘルスリテラシーに関して正しい知識を持ち、専門職自ら市民のヘルスリテラシーを向上させるような適切な行動がとれることを目指した学習プログラムです。
 このプログラムは、2004年にインターネット上に公表されており、24時間誰でも無料で利用できます。

プログラムの概要:レッスン1

プログラムの内容を簡単にご紹介します。

 プログラムは3つのパートに分かれており、まずレッスン1では、ヘルスリテラシーの概要についてです。(この「健康を決める力」ではすでに扱っている内容ばかりですが、)例えば、ヘルスリテラシーの定義やヘルスリテラシーに影響する要因、ヘルスリテラシーが低い集団の特徴などが具体的な場面と共に紹介されています。

プログラムの概要:レッスン2

 次のレッスン2は、ヘルスリテラシーが低いことが公衆衛生上なぜ問題になるのかという問いから始まります。例えばヘルスリテラシーの低い集団は検診の受験率が低いなど、健康において高リスクの行動をとる傾向がある、といったことです。

 またここでは、公衆衛生にまつわる様々な関係機関が、市民のヘルスリテラシーにどのように影響するかについても説明されています。

 これまで見てきて分かるように、市民のヘルスリテラシーを左右するのは、医療者や医療機関だけではありません。
 例えば学校での教育のあり方や学習環境、地域の環境、また法律や制度、マスコミからの情報発信の在り方なども、市民のヘルスリテラシーに影響する要因となり得るのです。

 これらヘルスリテラシーに関連する機関は、まとめて「ステークホルダー」と呼ばれます。

プログラムの概要:レッスン3

 最後のレッスン3は、専門職が市民のヘルスリテラシー向上を目指して行う活動における、課題と原則についてです。
ここでは、「専門用語が使われていること」「情報伝達の媒体をプリントに頼りがちであること」「伝達する情報の内容が、市民の行動ではなく、知識に偏りがちであること」「情報伝達の際に、市民の文化的な背景が考慮されていないこと」の4点が、市民が健康情報を理解する時に壁となる4要素であると言っています。

 公衆衛生の専門職は、日常的に市民に対して健康教育を行ったり、検診受診を呼び掛けたりします。
 これらはすべて、市民に対する健康医療の情報提供で、その全ての取り組みにおいて、対象となる市民集団のヘルスリテラシーを考慮した分かりやすい情報の内容や表現になっているか、集団にあった方法で情報提供がなされているか、関係機関への働きかけは十分かなどを見直す必要があります。

 このe-learningプログラムは、市民のヘルスリテラシーに関する原理原則を学ぶのに、非常に効率的なツールだと言えるでしょう。

 実はこのe-learningプログラムの受講は、米国の医療専門職の資格更新の単位として、国から正式に認められています。このような仕組みからは、米国が市民のヘルスリテラシー向上のために、いかに国として政策的に取り組んでいるかが感じられます。
 日本でも市民のヘルスリテラシー向上のために、まず専門職が市民のヘルスリテラシーに注意を向けるような仕組みづくりや啓蒙活動を、計画的に行う必要があると思われます。

 このCDCのe-learningプログラムについては、実際のものを誰でも受講することができます。
 また、内容について日本語で書かれたもの[1]もあるので、詳しく知りたい方はそちらをご参照ください。

(瀬戸山陽子)

[1]瀬戸山陽子,中山和弘:米国CDCによるヘルスリテラシー向上プログラムの紹介,保健の科学,55(7),p491-496, 2013

自分に合った治療を選ぶためにできること

自分の体について調べるための検査、病気の治療の選択肢を知ることがなぜ大切なのでしょう?

 病気の時、自分の体について調べる検査の時、心配事を抱えて受診するのがストレスになる人もいます。あなたは、医師の説明することを黙って聞くことで「良い」患者になろうとしていませんか?

 黙ったままでいることが本当に「良い」のでしょうか?
質問をしたり、治療の選択肢を理解したりすることができれば、あなたは、医師と決定を共有することができ自分にとって納得のいく医療が受けられます。

 治療や検査の選択肢を網羅するためには、「病気について主治医に質問すること」、「考えられる治療の選択肢についてしっかり話し合うこと」が大切です。

治療や検査の選択肢の中から1つを選ぶ時、生活の中で大事にしたいことを伝える方法

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 医療はとても複雑です。自力で選択肢を網羅することのできる人もいるかもしれませんが、専門家(医師、看護師、他の医療者)とコミュニケーションを取ることで、一番良い方法を見失わずに済むでしょう。
 治療や検査において、選択肢にメリットやデメリットがあり決めるのが難しいと感じる場合、副作用の少なさ、費用、あなたの生活(食べる、眠る、仕事、子育て、趣味など)への影響度なども含めて検討することでよりよい決定が可能になります。

 生活の中で大事にしたいことを整理できれば、選択肢のいずれかを選んだ結果、あなたが大事にしたいことにどれほど影響があるのかについて、専門家に質問することで、大事にしたいことが損なわれない選択肢はどれなのか専門家もすすめ易くなり、一緒に相談して決めることができます。

生活や人生において重要なこと、自分の価値観の確認の仕方

 生活や人生において重要なこと、自分の価値観は、どのように確認したらよいでしょう?

 ここでは、アメリカの厚生省の機関であるAgency for Health Care Research and Quality; AHRQで紹介されているYour Health Priorities Tool(健康での優先順位を決めるツール)の内容を紹介します。

健康での優先順位を決めるツール

(1)職場や家庭での活動
以下のそれぞれのことを職場や家庭で行うことは、あなたにとってどのぐらい大切なことですか?評価してみましょう。それぞれを「とても重要である」、「重要である」、「どちらかといえば重要である」、「あまり重要ではない」、「まったく重要ではない」の5段階で評価します。
  • 車などを運転すること
  • 集中力
  • 記憶力
  • 家の中を歩き回るより、遠い距離を歩くこと
  • 食器を洗う時間より長く立っていられること
  • メモを取る、PCなどに文字を入力すること
  • 軽い家事(食器洗い、食事の用意、ベッドメイキング)
  • 家事(重労働)(洗濯、庭仕事、風呂洗い)
  • 読むこと(本、論文、記事など)
  • 子どもや親などの家族の世話をすること

(2)避けたい副作用
 治療の中には、あなたが避けたいと思う副作用を生じるかもしれません。以下にあげた一般的に起こりうる副作用を避けることは、あなたにとってどのぐらい大切ですか?それぞれを「とても重要である」、「重要である」、「どちらかといえば重要である」、「あまり重要ではない」、「まったく重要ではない」の5段階で評価します。
  • 気分の落ち込み
  • 体重増加または体重減少
  • 吐き気
  • 頭痛
  • 頭痛以外の痛みや苦痛
  • よく眠れないこと
  • 性的な問題
  • 疲れやすいと感じること
  • 排尿の問題(失禁、頻尿)
  • 排便の問題(下痢、便秘)
 このサイトでは挙げられていませんが、この他にも、治療内容によりある特殊な副作用が生じる場合があります。例えば、以下のようなことが起こる可能性があります。
  • おいしく食べられないこと
  • 自分の外観が変わること(髪の毛、皮膚や爪、体の一部)
自分がこれから受けるかどうか考えている(またはどの治療または検査を受けるか考えている)場合、治療や検査に伴う副作用にはどのようなものがあるのかを列挙して、評価してもよいでしょう。

(3)時間、労力、費用
 治療によって、かかる時間、労力、費用が違います。あなたにとって以下のことはどのぐらい関心がありますか?それぞれを「とても重要である」、「重要である」、「どちらかといえば重要である」、「あまり重要ではない」、「まったく重要ではない」の5段階で評価します。
  • 費用
  • 治療に必要な時間(1回の治療あたり)
  • 治療の技術的な難しさ
  • 治療に必要な日数・期間(開始から終了まで)
  • 治療を始める時や支払の返還に必要な事務処理や書類

(4)友達や家族の助け
  治療中、友達や家族からどんな助けが得られそうですか?(あてはまるものすべてにチェックしましょう。)
  • 友達や家族は、受診の行き返りを助けてくれる。
  • 友達や家族は、私の薬を把握するのを助けてくれる。
  • 友達や家族は、治療中私の心の支えになってくれる。
  • 自分ですべてできると思う。

(1)~(4)の1つ1つを評価することで、生活や人生において重要なこと、自分の価値観の確認しやすくなります。もしここに掲載されている以外に考えたいことがあれば、それも合わせて考えてみましょう。

(大坂和可子、中山和弘)

文献
AHRQ EXPRORE YOUR TREATMENT OPTIONS  It's Your Health http://effectivehealthcare.ahrq.gov/index.cfm/options/

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