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2.「信頼できる情報」とは何か アーカイブ

2008年4月 9日

【資料編】エビデンスの見方

1. 代表的なバイアス

 代表的なバイアスは、選択バイアス、情報バイアス、交絡バイアスの3つです。それぞれ、例と共にそれへの対処も含めて解説します。

1)選択(セレクション)バイアス

 研究対象者の選び方で生じるバイアスのことです。研究対象にしたい人たちのなかから、選ぶ前や選んだ後に研究対象から落ちてしまったり、ある特徴を持った偏った対象が選ばれてしまったことによって生じます。

 例えば、重度のがんに効くとされる抗がん剤の効果を実験するために、がんの患者さんの中から参加者を募り、実験を行った結果、効果が上がったとします。しかし、その実験は長期間かかる実験で、最後まで参加したという人は体力がある方ばかりであったとします。このようなときに、選択バイアスが生じているといいます。がんをはねのけるくらい体力があった人だけの結果であるかもしれないからです。

 また、職場で働く人を対象に健康調査をする場合、その時に健康を害して退職したり休職していて選ばれないことで、結果は健康な労働者だけになってしまって、本当に知りたい人が選ばれないことになります。これを「健康労働者(ヘルシーワーカー)効果」といいます。高齢者でも、老人クラブに集まっている人を調査をすれば、元気な人ばかりが対象になる可能性があります。

 これらの対処法として、研究者は、対象者の選び方によって選ばれやすい人や選ばれにくい人が出ないようにします。そのため事前には対象者が偏らないような環境や条件を整えることや、研究が始まった後は研究そのものが負担にならないように考慮することが必要です。

2)情報バイアス

 観察方法や測定方法で生じるバイアスです。対象者によって回答が変化しやすい方法や、対象者によって違う測定方法で行ったりすることで生じます。

 例えば、昔のことを思い出してください、という質問では、忘れてしまっているかおぼろげだったりして、本当の状況を正確に思い出せないことがあります。ところが長く病気だった人は、それに関する過去の記憶が明確だったりして、結果がゆがんでしまう可能性があります。この場合はとくに、「思い出しバイアス」と呼ばれることもあります。この対処法として、研究参加者本人の「振り返り」はできるだけ避けることが挙げられます。

 また、肥満の人と肥満でない人の心疾患発生の関係について、時間を追って検討しようとしているとき、肥満の人の方が、心疾患が起こりやすいと思い込んでいるため何度も心臓検査を受けているかもしれません。検査をたくさん受けると、疾患が見つかる頻度が高くなりますから、いくら肥満の人が心疾患を発生しているという結果が出されたとしても、それは検査回数による影響を受けているとも考えられます。この対処法としては、研究参加者の心臓疾患の検査回数を統一させることが挙げられます。

3)交絡(こうらく)バイアス

 単に「交絡」とも呼ばれることもあります。 交絡とは、もとは英語のConfoundingで、混乱させるとか混同させるという意味です。研究では、たいていは原因と予想されるものと結果の間に因果関係があるのかを明らかにしようとします。特に病気の原因を探り、その因果関係を明らかにするのが疫学研究です。そのとき原因でも結果でもない研究しようとしていない第3の要因によって、検討している因果関係が影響を受けることを指します。その第3の要因を 交絡因子や交絡変数と呼びます。

 例えば、飲酒が下咽頭(かいんとう)がんの要因なっている、という報告があったとします。しかし、実は喫煙そのものが下咽頭がんの発ガンに影響していて、 喫煙によって飲酒量が増えていたことから、飲酒量が多いと発ガンに関係しているように見えてしまったという「見せかけ」の関係性であったと考えられます。

 この場合、「飲酒→下咽頭がん」ではなくて、「飲酒⇔喫煙→下咽頭がん」で、飲酒が交絡因子となって見かけ上そのように見えたということです。これは、喫煙者が多く飲酒しているという情報がない場合はうっかり信じられてしまう危険性があるということです。この場合、飲酒をやめたり減らしてもタバコをやめなければ効果はないわけです。したがって、交絡バイアスは結論を間違う大きなミスにつながりますので、とても注意しなくてはならないものです。

4)交絡バイアスへの対処方法

 交絡バイアスを生じさせる要因はたくさん考えられます。気がつかないものもあり得ますが、実験や調査を行う前から、交絡因子となりやすいものは事前に対処するようにします。その代表は、薬など治療の効果を明らかにする実験研究でのプラセボ効果です。それ以外で不可欠なものは、性別と年齢です。順番に見ていきます。  
(1)プラセボ効果とマスキング(盲検/ ブラインド)
 プラセボとはいわゆる「偽薬」のことです。みなさんは薬を飲む時に「この薬は効く」と思って飲みませんか? この「効く」という気持ちだけで本当に治ってしまうこともあります。これを「プラセボ効果」といいます。薬というのは化学的作用の他に、心理的な効果もとても大きいのです。これは効果を期待することやパブロフの犬で知られる条件反射で、脳が薬を飲んだ時のように働くことで起こると考えられています。さらに、これは薬を与える医師の態度によって大きくなることもあると指摘されています。一所懸命にこの薬は効くんですと言われれば、効果がある気が高まります。

 したがって、新しい薬や治療法の有効性を調べる時にはこの薬(もしくは治療法)の効果なのか、「プラセボ効果」なのかを考えなくてはいけません。そのため、実験群(本当の薬・治療法を受けている)とプラセボ群(研究者が薬を与えるふり・治療をするふりをしている)にわけ、その効果を確かめています。
実験の中にはプラセボ群を作っていない実験もあり、その場合その研究で効果があるといわれているものは科学的に効果があるのかを考える必要があります。

 このような、実験により参加者や実験者がうける心理的要因による影響であるプラセボ効果を取り除くための対処法としてマスキング(盲検/ブラインド)が挙げられます。

 例えば、ある新薬Aの効果を確かめる実験で、新薬Aと外見がそっくりな偽薬(プラセボ) を用いることで、参加者にはどちらが新薬Aでどちらがプラセボか知らせないで医者が渡し、使用する場合、単盲検(シングル・マスキング)といいます。

 さらに医者とは別のこの実験の企画、実行している研究者が、担当の医師にもどちらが本物でどちらが偽物かを隠して患者に渡す場合、二重盲検(ダブル・マスキング)といい、よく行われています。なぜなら、渡す人がどちらがどちらかを知っていると、態度や言葉に知らないうちに出る可能性があるからです。それはプラセボ効果の大きさに影響するかもしれません。

 二重盲検に加え、薬を渡す医師だけでなく、データを分析する人にもどちらの人が新薬を飲んだ人なのかを隠して結果を出す場合、三重盲検(トリプル・マスキング)といいます。データを分析する人が結果を出したいあまりに、万が一ねつ造したり、分析方法を結果が出やすいものにしたりすることを防ぐことになります。

(2)マッチングと無作為(ランダム)化
 交絡要因として性別や年齢があるのは、それが健康状態と強く関連していることからわかると思います。これらは、実験や調査の前からわかることが多いので、例えば実験で治療を行う群と行わない群を比較するときは、交絡要因でそろえるようにします。2つの群を、男女の割合や、年齢の構成割合をそろえて参加者をあつめることで、性別や年齢による結果への影響を除くことができます。このように交絡要因をそろえることをマッチングといいます。2つの群の構成メンバーをマッチさせるということです。

 また、2つの群を作るときに、コインの表裏やくじ引きなどによって分けることで、理論的には似たような特徴を持つ群に分けられることになります。それでも結果的には偶然どちらかに何かの特徴で偏ってしまうこともあります。しかし、少なくとも分けるときに研究者の意図(たいていはいい結果を出したいという思い)が入っていないということが大切なのです。このような方法で交絡要因をそろえることを無作為(ランダム)化といいます。

(3)そのほかの方法
 特別な統計解析方法である、多変量解析という手法によって交絡要因の影響を取り除くことができます。くわしい説明は省略しますが、統計的な方法によって、第3の変数の影響を取り除いて、原因と結果の直接の関係をみることができます。この手法は現在の研究の世界では不可欠なものとなっています。

2. 代表的な研究方法とエビデンスレベル

 ここではエビデンスを作るために行われる代表的な実験や調査の方法を、エビデンスレベルの低いといわれるものから順番で紹介します。ただし、順番といってもそれほど厳密なものではなく、研究の細かな進め方でバイアスをどれだけ考慮したかによって、レベルが入れ換わることもありえます。

1)記述的研究

 「この患者さんにこのような治療を行ったら回復した」というような、1人から数人の病気を持った人や対象者のデータを詳細に記述する方法を記述的研究といいます。症例報告と呼ばれることもあります。数が少なすぎるため、その対象者だけに起こったことかもしれないという疑問が必ず残ります。このような研究は原因を明らかにする目的で行われた研究とはいえません。エビデンスとしては十分ではありませんが、これらの研究の結果から多くの問題提起、仮説の提示などがなされ、その後の研究の基礎になります。

2)前後比較試験(非比較試験)

 症例報告よりはもう少し数を集めたものです。例えば、ある診療所に通う風邪の人たち全員に薬Aを2週間飲んでもらいました。2週間後にほぼ全員の風邪が治っていました。したがって、薬Aは風邪の治療に効果的だということがわかった、という情報は、前後比較試験という実験方法で明らかになったエビデンスと言えます。
 使用前、使用後、という身体写真が出されている食品や運動器具なども良く見かけますが、それは前後比較による実験結果です。

 この実験方法は一見すると効果があったように見えますが、ひょっとすると薬Aを使わなくても風邪は治っていたのではないのかという疑問には答えることができません。というのも、この実験では薬Aを飲まなかった人と比較できないからです。やはりものごとの因果関係を明らかにするには、原因と考えられるものがあった人となかった人で、結果が起こったか起こらなかったかを比較するという方法が必要です。このため、エビデンスレベルとしては低いものになります。

3)症例対照研究

 原因の有無で結果の有無を検討できるものです。なかでも比較的容易に効率の良いエビデンスある情報を出すことができる疫学調査として、症例対照研究が知られています。基本的には現在病気の人(症例)と病気でない人(対照群)を比較して過去の生活でどんな出来事の違いがあったのかを比較して原因を探ろうというものです。

 例えば、ある地域に住んでいる70歳の男性のなかで、身体機能が年齢以上に衰えている100名(症例群)と身体機能が維持されている100名(対照群)を比較します。二つの群で、過去にその地域で行なっていた健康教室に通っていた人の割合を比較します。すると、身体機能が維持されていた人100人のうち健康教室に通っていた人の割合が、身体機能が衰えている人100人の2倍くらいだったということがわかるとします。この結果かたは、その地域では健康教室に通わないと身体機能を維持することが難しくなっているという、エビデンスとなる情報が出されます。

 この症例対照研究で気をつけなければならないのは、対照群として選び出す人の特徴です。症例群の人たちと、なるべく性別や年齢、住所などが似ている、人を選び出すことが必要です。しかし、これがなかなか難しいのが欠点で、どうしても選択バイアスが生じやすくなっています。また、一番の欠点としては、過去のことが全員記録されていることは滅多になく、記憶がたよりになるので、「思い出しバイアス」が生じやすいものです。

4)コホート研究

 コホートとはもともと古代ローマの軍隊の一単位で、300から600人からなる歩兵隊のことですが、コホート研究という場合は、多くはある一定の地域に住んでいる集団のことです。ある集団をずっと長い間追跡して調べていきます。その人々の間で起こっている健康に関連がありそうな出来事(喫煙、運動習慣、食生活、ストレス、職業生活、人間関係など)がどのように異なるのかを調べておいて、その違いでその後の経過がどうなっていくかを見ていく方法です。

 例えば、1997年に40歳になった全国のいくつかの都道府県に住む10,000人の男性を10年間追跡します。彼らの中で、定期的に運動習慣をおこなっている人が2,000人いたとして、そうでない8,000人と10年後の状況を比較していきます。運動習慣のある2,000人の中で心筋梗塞を発症した人の割合に比べて、運動習慣がない8,000人の中での心筋梗塞を発症した人の割合がどのくらい違うのかを比べます。例えば、4倍違ったとわかることで、心筋梗塞の発症にはそういった健康習慣がよろしくない、という結果、つまり、エビデンスがある情報がだされます。

 とくに世界的に知られているコホート研究は、1948年にアメリカのボストンに近いフラミンガムでスタートしたフラミンガム心臓研究です。5209人を対象に追跡が始まりました。そして、この研究から喫煙、年齢、高コレステロール、高血圧などの危険因子が明らかになったのです。疾患の原因として「危険因子(リスクファクター)」という用語を最初に用いたのもこの研究です。その成果によって、アメリカではその後30年間で発症率を半減させることに成功しています。 現在も続々と次の世代が引き継いで継続されていて、疫学研究の重要さを伝えつつ世界中に大きな影響を与えています。詳しいことは循環器疫学サイトをご覧ください。このサイトにはほかにも日本で行われているコホート研究が紹介されています。

 この方法は、症例対照研究のように、選択バイアスや記憶に頼るバイアスなどが少なく、病気の発生率や時期などもわかりエビデンスとして情報が多く得られるものです。何より原因と結果の順序が合っているので因果関係として説得力があります。しかし、どうしても欠点があります。長く追跡していきますので、途中で脱落したり、時代によって生活や価値観、医療水準や診断方法などが変化する影響が避けられません。これらを見落とさないためにも、大人数からいつも情報を得ようとすれば、膨大な人件費や事務費など多額の費用がかかります。したがって、実際には国などの公的な研究機関が中心となって行われることが多いものです。

5)非ランダム化比較試験(NRCT)

 ここからは、治療やケアなどを行った人とそうでない人を比較するための実験を行う研究で、エビデンスレベルの高いものです。実験なので、介入を行うグループと行わないグループは、それの有無以外は同じ条件に設定できればバイアスが少ない研究になります。  例えば、薬Aを飲まなかった人と飲んだ人とで、その後どのように胃痛が治っていくのかを比較する実験です。例えばある診療所の午前中に胃痛の診察に来た患者には薬Aを1週間飲んでもらい、午後の診察に来た患者には薬Aは飲まないようにします。その1週間後に薬Aを飲んでいた人はほぼ全員胃痛が治っていたにもかかわらず、飲まなかった人の約半数は治っていなかったということがわかったとします。したがって薬Aは胃痛の治療に効果的だ、という情報は非ランダム化比較試験(NRCT)という実験方法に基づくエビデンスといえます。介入をしているかしていないかを比べた比較試験ではあるのですが、非ランダム化とつくのは、そのグループの分け方の問題です。このグループ分けすることを「割り付け」といいますが、それがランダムでないからです。

 例えば、午前中に診療に来られるような生活に余裕があるから治って、午後にしか診療に来られない、余裕がない人だからなかなか治らなかったのではないのか、という理屈で疑いをもたれることも考えられます。では逆に設定した場合はどうかということになりますが、結局は午前と午後にまつわる理由は払拭できないでしょう。したがって今回の午前診察、午後診察という、新薬Aをどの患者に内服してもらうかという方法では、疑いを晴らすことはできません。これは、グループに何らかの違いが生じている可能性があるということで、それをなくすためにとられる方法が次のランダム化した割り付けによる比較試験です。

6)ランダム化比較試験

 ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial、RCTと略します)とは、そのような疑いをもたれないように、介入するグループとしないグループを決めて実験を行う方法です。具体的には、すでにどちらのグループに入るかが書かれた封筒を人数分用意し、診療に来た人順に、それを開けていって割り振るとか、コンピュータで乱数を発生させて偶数奇数で判断するとか、その数字を頼りに決めるものです。

しかし、封筒を使う方法は、信頼が低く使われないようになってきています。なぜでしょうか。例えば、重症と思われる患者さんが来たときに、封筒を開けて治療しないほうに当たった場合、気の毒に思って変更してしまうということがあり得る(実際にそのように思える研究が見られた)という話です。したがって、人の手を通さずにコンピュータで機械的に分けるという、なるべく人の意図が入らない方法が用いられます。ランダムというのは、無作為という意味、すなわち人の意図が入らないということで、できる限りバイアスがないことを実現しようという努力なのです。

 ランダムに決めることで割り付けにまつわる疑いを晴らすことができ、RCTによる実験結果は信憑性の高い、エビデンスのある情報といえます。

 さらに言えば、さらに上の最高のエビデンスは、このRCTを複数行った結果を、一つにまとめた結果も効果が認めれるものです。このまとめる方法をメタアナリシスといいます。高次の分析、分析の分析といえるもので、考えられた技術を使って最終結論を導こうとするものです。公開されている各種ガイドラインコクランライブラリーなどは、これらの方法を使った高いエビデンスが結集されたものになります。

エビデンスレベルをまとめると次のようになります。 患者データに基づかない専門家・委員会の報告や意見が最も低いものとなっていることにも注目してください。研究対象として人のデータに基づいていないものは、検証されていない専門家の考えでしかないということです。データを示さずに話をする専門家、1回の研究だけでものを言う専門家を批判的に見ることが大切です。 エビデンスレベル
↑高いレベル
(1) ひとつ以上のランダム化比較試験
(2) ひとつ以上の非ランダム化比較試験(NRCT)
(3) ひとつ以上の分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究
(4) 症例報告などの記述的研究
(5) 患者データに基づかない専門家・委員会の報告や意見
↓低いレベル

3.結果の偶然性と対象者数

 インターネット上や本、雑誌にあるエビデンスに関する情報を見るときに、よく出てくる、とても重要で知っておきたいものとして、アルファベット1文字であらわされる「p」と「n」があります。ここでは簡単にこれらについて説明します。

1)「p」・・・偶然なのか必然なのか~治療の効果の有無の指標のひとつ

 A大学のB教授がある臨床試験をしました。そこでは、ある治療法によってある検査値(たとえば血圧や肝機能に関する指標)の改善という効果があったのかみきわめるとき、ある治療法は大半の人には効き目がなかったはずなのに、偶然にその人には効いてしまった、改善してしまった、という解釈も考えておかなければなりません。こうした事態を引き起こしてしまう「確率」を、統計学の手法を用いることで計算することができます。この確率を英語のprobability(確率)の頭文字をとってp値(ぴーち)といって数字で表すことができます。この確率が小さいほど、偶然に効いてしまったのではなくて、必然的に効いたと言うことができます。一般的にp値は5%(0.05)未満であれば、「統計学的に有意(ゆうい)」と言って、統計学的にも偶然に効いたのではないという事を示すことができます。

 p値は効果があったのかなかったのか(ある検査値や寿命などに差が生じたのかなかったのか)という観点からの治療効果の「有無」の表示ですが、効果の「大きさ」を表示する方法も大切です。たとえば、ある治療によって、治療しなかった人よりも2倍苦痛が緩和できた、というように何倍というような「比」や、血圧の平均値が10下がったというような平均値の「差」などが代表的です。こういった数字もひとつの効果の「大きさ」の表示方法です。こういった数字は「効果サイズ」と呼ばれています。この効果のサイズは、その実験の対象者のデータから計算することができます。

 しかし、その結果ははたして今回、実験の対象者にならなかった人たちにおいてもあてはまる数字なのでしょうか?言い換えれば、その効果のサイズは一般的といえるのでしょうか?こうした疑問に答えてくれるのが「95%信頼区間」です。これは95%の確率で、本当の一般的な効果のサイズを「含まれる間隔」という形で示すものです。100回この実験を行ったとき95回はこの範囲の中に効果のサイズはおさまりますよ、という示し方です。統計学的な方法を使って一回の実験結果からこの範囲を求めることができます。

例えば、2.0(1.2-3.2)と後ろにカッコで示されていれば、効果サイズは2.0倍で、その信頼区間は最小で1.2、最大で3.2の幅に入るということです。この間隔が狭いほど、その実験で得られた効果のサイズをより信用できることになります。この例の場合は、最小で1.2なので、ここが1.8になっている実験のほうが2.0倍という数値が信頼できることになります。

2)「n」・・・エビデンスの元となる実験に参加した人の数

 エビデンスの元となる研究論文を見る際に、「n=100」といった「n=」という言葉が良く出てきます。また、医師や研究者は「n数が100人で」というような言葉を用いる場合もあるかもしれません。この「n」とは、number(数)の頭文字で、その研究の対象者の数のことを指します。たとえば、ある治療法が1人に行われた結果1人に効果があったというデータよりも、100人に行われた結果100人に効果があったというデータのほうがより信用できそうですし、1万人に行われた結果1万人に効果があったというほど、より信用できそうです。なぜならば、私たちはその結果がより一般的に、誰にでもあてはまる、そして自分やある患者さんにもあてはまる、という結果を求めているからです。1人中1人に効果があったというデータは、偶然だったのではないかと疑います。

 研究論文にあるエビデンスはこのように、その介入の結果が偶然だったのか、必然だったのか、ということをみきわめる作業をしています。その作業において、n数は大きな役割を果たしています。

3) nとpの関係

 「n」と「p」あるいは「信頼区間」は実は深い関係にあります。nが大きくなるとpは小さくなります。nが大きくなると「信頼区間」は狭くなります。

 p値を計算する方法は、差をみたい、たとえば検査指標や比率など、その数値の性質によって異なります。しかし、それぞれの計算方法はでは、いろんな形でn数を使用します。そしてn数が大きくなるほどp値が小さくなりやすいという結果になります。たとえば、以下の例のような結果があったとします。

表1

 

改善

改善せず

治療したグループ

7

5

12

治療していないグループ

3

10

13

10

15

25


 表1のとき、治療したグループであるほど改善しているといった効果のp値(カイ2乗検定)を計算するとp=0.3527という値になります。0.05より大きいので改善しているとは言えません。

 次に以下の例を見てみましょう。

表2

 

改善

改善せず

治療したグループ

21

15

36

治療していないグループ

9

30

39

30

45

75


 表2の数字は、表1の数字をそれぞれ単純に3倍した数字になります。この場合改善している効果のp値は、p=0.02134となって0.05より小さいので統計学的に改善していると言えます。
このように同じ人数割合であっても実数が増えることによって、結果が変わってきてしまいます。

4)nと信頼区間の関係

 95%信頼区間とはある実験で得られた数値をもとに、世の中一般にあてはまる数値の範囲を示したものです。正確には同じ実験を100回繰り返した時に、95回の結果が含まれる範囲と言えます。この範囲はn数によって左右されます。n数が大きくなるほどその幅が狭くなります。先ほどの表1、表2の例を見てみましょう。

 計算すると、治療したグループの改善度は、治療していないグループの改善度の2.53倍であることが分かります。人数割合が一緒なので、表1も表2も同じ2.53倍です。

 しかし、表1のデータの場合、95%信頼区間を計算すると、0.84~7.61になりますが、表2のデータの場合は1.34~4.77と幅が狭まります。さらに表1のデータのn数を100倍した時のデータを以下に示します。

表3

 

改善

改善せず

治療したグループ

700

500

1200

治療していないグループ

300

1000

1300

1000

1500

2500


 改善度の比は同じく2.53倍ですが、信頼区間を計算すると、2.26~2.82と一層狭まります。これは信頼区間の計算でn数が大きく関与してくるためなのですが、要はn数が多い結果であるほど、その結果の確からしさが高まる、逆に少ないn数のデータからは確実なことが言いにくい、ということになります。

5)nが多いとそれでよいのか

 nが多いほどp値も低くなり、信頼区間も狭まり、確かなことが言える、ということを述べてきました。では、とにかくn数が多ければ多いほど良いということなのでしょうか。しかし、本来効果がないはずなのに、n数が多いためにp値が小さくなってしまって「統計学的に有意」という結果として示されることも考えられます。そこで、少なからず多からず適切なn数のもとでの実験が望まれます。こうした適切なn数については研究によって異なりますが、ある方法を使用すると計算することができます。

 つまり、参考にしようとしているエビデンスが信頼のおけるものかどうかを把握するためには、載っている研究論文ではきちんとしたn数のもとで行っているのか、つまり、そのエビデンスは適切なn数のもとで打ち出されているのかをチェックすることが大事です。

 このような統計学の考え方や方法は、とても大切なもので、エビデンスを生み出したり評価する時に統計学は不可欠です。しかし、統計学は、偶然ではないかとか、誤差はどれほどかを教えてくれますが、効果の大きさの意味については教えてくれません。したがって、例えば、2.53倍といっても、その数値もつ意味について考えてみることが大事です。表3の場合、その治療では2.53倍良い結果が出ているのですが、治療していなくても300名が改善していますし、治療しても500名が改善していません。この結果をどのようにとらえるのかは一概にはこたえることができません。この治療にまつわる、たとえばコストや副作用など、さまざまな観点から、みなさんが総合して考え、捉えないといけないわけです。

 そのとき、効果と言っても、何を効果と考えているのかも大切です。たとえば、がんに対する薬の効果と言うと、がんが消えて無くなることをイメージするかもしれません。しかし、がんが大きくならないことを効果と考えることも可能ですし、痛みを緩和する効果かもしれません。ダイエット効果という場合も、体重が減少したとしても、水分も筋肉も脂肪も減少しているのか、脂肪だけ減少しているのかでは大きな違いです。その確認も忘れてはいけません。

4.母集団とサンプルの代表性

 たとえばA病院に通院する患者さんを対象として病院の満足度調査を行ったとします。その結果、「満足」もしくは「やや満足」と回答した患者さんは、回答者全体の80%であったとします。この80%はA病院の患者さんの満足度、といえるのでしょうか。

 これを考えるとき、まず、この満足度調査に誰が参加したのかを知る必要があります。A病院に通院する全員が参加していたら、それでよいかもしれません。しかし、たとえば、A病院の内科に通院する患者さんばかりが参加していたら、A病院全体でなくて、A病院の内科の満足度でしかないかもしれません。

 A病院に年間通院する患者さんは全部で1万人くらいいる大きな病院であったとしたら、1万人全員に聞くのは大変なことです。そこで、この1万人のリストから、たとえば1000人の代表者を選んでこの代表者の意見を聞きます。この代表者の意見を全体の意見というような形で理解します。この代表者のことを研究の世界では「標本(サンプル)」といい、1000人の代表者の集まりを「標本集団」といいます。代表者の選び方を「標本抽出法(サンプリング法)」といいます。そしてA病院に通院している患者さん1万人全体のことを母なる集団「母集団(ぼしゅうだん)」といいます。「母集団」とは、その結果(エビデンス)がまんべんなく通用すると考えられる範囲の人たちのことを言います。

 この代表者の選び方が重要で、内科に偏りすぎず、外科にも眼科にもまんべんなく参加してもらわなければいけません。そのようなとき、乱数という規則性がない数字を用いて、1万人のリストの中から誰もが等しい確率で参加するという前提のもとで選び出します。この方法を無作為抽出法といいます。この方法をとらない限り、選択バイアスが生じる可能性があるわけです。この方法を行っても、実際には調査を依頼しても断られるなどで、対象になれなかった人が生じます。そのときは、どのような人が断ったのか理由は何かなどもどのようなバイアスが生じているのかを知る上で貴重な情報になります。

 では、ある肺がんの治療法を行ったところ効果があった、というランダム化比較試験の結果(エビデンス)があったとします。この結果をよくみたところ、B病院の呼吸器外科に通院する50歳から60歳までの女性70名でかつステージⅡ(がんの進行と広がりの度合い)の人が参加した研究の報告でした。この報告の母集団はどのあたりと考えればよいのでしょうか。正確にはB病院に通院する患者のうち、呼吸器外科に通院し、50歳から60歳までの女性で肺がんのステージⅡという集団、ということが言えます。

 では、B病院ではなく他の病院でもこのエビデンスは通用するのでしょうか。必ずしもそうは言うことができません。このような場合は、ほかの報告にあたってみることが大事です。同じ治療法を別の病院で同じような人たちに試していて、それでも効果が見られた、という報告が複数見られていたら、B病院や検討された病院以外でも通用する可能性が高まります。 しかし、そうでなく、逆に効果が見られなかった、という報告があるかもしれません。そういう場合はその治療法については慎重に考えていく必要があります。

 このように、そのエビデンスはどの母集団を念頭に打ち出されているものなのか、というところを読みとっていくことが大事です。

(戸ヶ里泰典、中山和弘)

[参考文献・ウェブサイト]
高木廣文, 林邦彦:エビデンスのための看護研究の読み方・進めかた. 中山書店. 2006.
大木秀一:基本からわかる看護疫学入門. 医歯薬出版. 2007.
斉藤武郎EBNが分からなかったあなたへ(オンライン)http://homepage3.nifty.com/saio/EBN-THCQ3.pdf , (参照2008年4月2日)
宮口萌:EBMによる患者中心の医療(オンライン)http://www.kango-net.jp/nursing/03/index.html , (参照2008年4月2日)

2008年4月10日

エビデンスとナラティブを生かす健康資源


 エビデンスナラティブに基づいて健康を実現するための資源についてみてみます。まずは、症状があらわれたり、健診で指摘されたりして受診する病院について、実際にどこにかかればいいと決めるかについて考えてみます。

また、それ以外にも、病気になる前に、病気の予防や健診の受け方について知りたいとき相談に乗ってもらえるところはどこでしょうか。出産や子育て、高齢者や障害者の介護、病気の人のお世話などについての相談はどこでできるでしょうか。健康教室や運動教室、料理教室などはあるでしょうか。気軽に血圧や骨密度などの健康チェックをしてもらえるでしょうか。主に住んでいる地域の保健福祉のサービスにどのようなものがあるかについてみてみようと思います。

1. 病院を選ぶ

 まず、病院からです(診療所を含みます)。
人は病気になった時や、具合が悪くなった時、誰しも、よい病院でよい治療を受けたいと思うでしょう。それでは病院を選ぶ視点にはどのようなものがあるのでしょうか。大きく分けて2つの視点があると思います。

 1つ目は、病院評価の専門機関などの第3者機関や病院自身が提供する評価結果からみる視点です。このときの評価とは、よい結果を生み出す根拠としてのエビデンスに基づく医療(EBM)を行っているかというものです。より客観的なエビデンスからみた視点です。

 2つ目は、病院の利用者すなわち患者や家族の実際の経験に基づいた評価からみる視点です。これは、その病院の状況をどう受け止めたかというナラティブな評価とも言えます。それぞれの視点から見た情報についてみていきましょう。

1)エビデンスの評価からみる視点

(1) 病院の評価の情報公開
 近年、病院の評価に関する情報の公開が行われるようになりました。その背景には、様々なメディアをにぎわしてきた事件などによって、医療現場における倫理的な問題や安全に対する社会からの要請もあると考えられます。1995年には日本医療機能評価機構ができて、各病院の審査、評価を行い、それを公開するようになりました。また、次第に各病院は、その特徴や治療や看護、可能な検査などを自ら公開する努力を行ってきています(例:聖路加国際病院国立がんセンター中央病院)。

 もともとは、患者等の利用者を保護する観点から、医療法その他の規定により病院の情報を公開することは制限されてきました。しかし、(1) 患者等が自分の病状等に合った適切な医療機関を選択することが可能となるように、そして (2) 患者等に対して必要な情報が正確に提供され、その選択を支援するという観点から、平成19(2007)年4月1日から医療法において病院などの広告が緩和され、医療広告ガイドラインができました。このように自分の病院によって広告できる内容が広がったことも自ら情報を公開することを後押ししたとも考えられます。

 このような試みは、病院が競争をするようになって、いわゆる「ランキング本」に掲載されたりして、患者数を増やすためだけに行われているのではありません。それぞれの病院が、自らの特徴と課題を知り、継続して改善し、今後の目標を定めるために行っているのです。このような1つひとつの病院の取り組みが広がることで、日本の医療全体の改善につながると考えられています。

 そして、2007年からは、医療機能情報提供制度ができました。各病院は都道府県に医療機能情報を報告することが義務化されています。都道府県はその情報をインターネットでわかりやすく住民や患者に提供しなくてはなりません。都道府県ごとにサイトは出来上がっていて、内容も方法も統一はされていませんが、みなさんの住んでいるところで探すことができます。

 では、医療機能情報とは何でしょうか。それには、診療科目に何があるかなどの基本的な情報だけでなく「医療の質」を左右する内容が含まれている必要があるでしょう。これらの取り組みは、まさに「医療の質」を把握してその向上を目指すものにならなくてはなりません。

(2)医療の質とは
 その「医療の質」とはどのようなものなのでしょう。1980年にアメリカのアベティス・ドナベディアンが「質の高い医療とは、治療の全過程で期待しうる効果と、予期しうる損失とのバランス上でもたらされる患者の福祉(Patients Welfare)を最大限できる医療である」と定義しています[1,2]。

 そしてその質の評価は「構造(structure)」「過程(process)」「結果(outcome)」という3つの側面から評価することが示されました。それぞれについてみていきたいと思います。

◆構造(structure)
 構造とは、その病院がもつ施設や設備と医療スタッフの量や質やその種類、教育や研修の実施があります。モノや人などの物的、人的資源といってもよいでしょう。

 施設や設備では、患者の安全、権利やプライバシーが守られているかなどが評価されます。また、セカンドオピニオンについての情報提供なども含まれます。医療スタッフについては、医師では専門分野、認定医や専門医がいるかどうか(例えば外科専門医の定義と基準は日本外科学会定款を参照)、認定看護師や専門看護師がいるかどうか(詳しくは日本看護協会の資格認定制度を参照)、医師や看護師の人員配置基準(患者数に対する医師や看護師数)などがあります。

 なお、医師や看護師の数は、医療法によって病床ごとにその最低基準が定められています。例えば、一般病床では医師は患者16名に対して1名、看護職員は患者3名に対して1名となっています。ただし、これは世界的に見て、先進国の中でも少ないほうです。厚生労働省が提示している医療提供体制の各国比較によりますと、日本は人口千人あたりの医師数は2.0人であり、看護師は7.8人と共に低いことがわかります。他方、人口千人あたりの病床数は14.3と最も高い値であり、そのため病床百床あたりの医師数は13.7名、看護師は54.0と著しく少ないことがわかります。加えて、医師の不足の理由には地域や診療科の偏在等も考えられています。看護師の不足の理由には、9割以上が女性であるという特徴から、結婚や出産、育児等によって就業が継続されないとも考えられています。

 話を戻します。一般病床では、医師や看護師の配置はそれぞれ患者16名に対して医師は1名、看護師は患者3名に対して看護師1名ということが医療法によって定められています。しかし、この表記は、所属数を定めているにすぎず、実際に働いている人数を示しているわけではありません。このような誤解を無くすために現在病院では、1日のうち患者数に対してどのくらい看護師が実際に働いているのかを示す表記がなされるようになりました。病院で「7対1」や「10対1」という数字を見かけることがあると思います。これらの意味は1日のうち平均して、「7対1」であれば、患者7名に対して看護師が1名担当していることを意味しています。

◆過程(process)
 過程とは実際に行われた治療や看護、リハビリ、栄養管理、在宅復帰や在宅療養の支援、心理的支援や社会復帰の支援や患者・家族の相談や苦情の受け入れや意見の尊重などです。言い換えると医療者の態度や行動です。診療のガイドラインや治療内容や今後のスケジュールがわかるようにしているクリニカルパスの実施、看護師による看護の目標と実施の計である看護計画の立案、疼痛(痛み)管理、退院計画、安全に関するルールの遵守、カルテ開示の実施の有無、外来機能(通院回数、通院期間)、救急患者対応時間などがあります。

◆結果(outcome)
 最後に結果についてです。結果とは、受けた治療や看護の結果としての患者の健康状態のことです。主な結果に関する指標は、再入院率、平均在院日数、感染症率、合併症率、術後合併症率、死亡率、褥創発生率、転倒・転落率、糖尿病患者の血糖コントロールの状態、患者満足度や医療者の満足度などです。

 このような3つで医療の質を考えることができますが、さらに、その医療の質に関する情報を把握したり、分析したり、報告・発信しているかも大切な要素です。患者満足度調査を行い評価、分析して、公開してまた意見を募集するという改善のしくみがあることです。日本医療機能評価機構の評価項目にはこれらも含まれています。

 つぎに実際に、日本医療機能評価機構から順番に医療の質を評価するための機関を紹介していきましょう。

(3)専門機関が公開している情報
 日本医療機能評価機構(JCQHC)は、医療システムを量的・質的に整備し、国民に対して医療提供状況に関する正しい情報を提供していくこと、そして、良質な医療提供を推進し確保していくために、医療機関に対して第三者評価を行い、医療機関が質の高い医療サービスを提供していくための支援を行うことの2つを目的として設立されました。

 評価項目が公開されていますので、内容を確認できます。認定病院の検索と評価結果も見ることができます。ただし、課題も残されていて、一部の病院は公開をしていませんし、構造と過程の評価が中心で、実際の結果の評価について十分でないことが指摘されています。

 国際標準化機構(ISO)は、1947年に電気分野を除くあらゆる分野において、国際的に通用させる規格や標準類を制定するための国際機関として発足しました。医療機関においては、環境に対するマネジメント規格(ISO14000シリーズ)や品質マネジメントシステム規格(ISO9000シリーズ)などの認定を受けている病院があり、その基準において一定の評価を得ているということになります。これは、組織経営の結果を重視し、病院に限らず、その改善を顧客(患者)の満足度から行うしくみを求めているといった特徴があります。

 また、すでに述べたように、医療機能情報提供制度によって、都道府県のサイトから病院の情報を探すこともできるようになっています。基本的な情報のみならず、病院によっては、治療結果などを公表している場合もあります。

(4)マスメディアの調査や報道
 日本経済新聞社社会部医療担当部は、2003~2004年にかけて多面的評価で病院の総合力を測定するために、「全国主要病院長調査」を4回実施しています。この4回の各テーマは、「患者満足度を高める取り組み」「医療の安全性を高める取り組み」「医療の質を高める取り組み」「経営」の充実度でした。

 その後、2004年に、がんの治療を行う全国の主要病院773施設を対象に、がんの成績に踏み込んだ郵送調査「がん治療の実力全国病院調査」が日経リサーチの協力で実施されました。

 調査項目は(1)チーム医療など組織運営の充実度 (2)設備や医療スタッフの充実度 (3)生存率や死亡率、平均在院日数、症例数などの成果(治療成績)となっています。この調査によると、病院間で実力差があること、症例数と治療成績は比例しないこと、病院の知名度と治療成績も比例しないことなどが述べられています。

 これらの調査は書籍となって販売されています。(ただ、当時のデータが現在を反映するとはいえません)

 日本経済新聞社 (編集), 日経メディカル企画 (編集):日経病院ランキング がん治療の実力病院ランキング、日本経済新聞社 (2005/4/21).

 日本経済新聞社 (編集), 日経 (編集), 日本経済新聞 (編集):日経 病院ランキング、日本経済新聞社 (2004/06).

 また、NHKが放映した 「クローズアップ現代 全国 病院 の実力・公開の波紋」は、平成20年 5月9日に行われた平成20年度 第1回 診療報酬調査専門組織・DPC評価分科会の資料等をもとにし作成されています。これは、各病院の、特定の病気の治療の内容や、かかった在院日数、再入院率(予期できたものとできなかったもの)が公表されて、病院が比較されるようになったことについての放送です。その資料の1部はここにあります。なお、NHKオンデマンドを視聴するには、会員登録が必要です(有料)。

(5)各病院の公開情報
 各病院が都道府県への報告を含めて、自ら公開している情報の中からも、その病院についておおよその機能を推測することは可能です。例えば、医療スタッフの質を評価する基準として、医師には、専門医や認定医などの有無とその区別があります。この専門医や認定医にはそれぞれ基準があり、一定基準を満たすと判断された場合(多くは各学会が判断している)、その資格が得られます。例えば外科専門医の定義と基準はこちらを参照してください。また看護師の場合も認定看護師や専門看護師(詳しくは日本看護協会の資格認定制度こちらを参照)という資格があります。

 また、医師や看護師の量的な充実度から病院を選ぶということも可能です。もともと医師や看護師の人員配置基準(患者数に対する医師や看護師数)は、医療法によってその最低基準が定められています。医師や看護師の人員配置基準がどうであるかも病院を選ぶ指標の1つにはなるでしょう。

 さらに、病院が独自に、術後5年生存率や術後合併症率など診療成績を公開しているところもあります。ただ、病院は、医療法によって一般病院、地域医療支援病院、特定機能病院の3つに大きく分けられています。地域医療支援病院は、地域の中小の病院や診療所を後方から支援し、救急医療も可能な、地域での中核的な病院です。特定機能病院は、高度な先端医療を行う病院で、ほとんどが全国の大学病院です。最初に受診するというよりは、より高度な医療を受けるために紹介状をもらって行くというところになっています。紹介状がないと高い初診料がとられることになっています。一般病院とは、これら2つ以外ということです。

 つまり、病院の機能によって通院・入院している患者さんの重症度や治療の目的が異なるわけですから、治療成績そのものが異なる条件下の数値であることに配慮が必要です。比較するならば、同じ特定機能病院であるとか、一般病院であるというようにみていく必要性があるでしょう。そもそも、重症あるいは難しい病態である場合、同じ治療をしても結果が異なることは十分にあるのです。

(6)看護に関する情報
 他方、少し異なる視点から、よりよい病院を選ぶポイントを紹介している大学があります。今までは、病院全体のことや自分の疾患を治療するにはどの病院がよりよいのかという視点でした。ここで紹介する聖路加看護大学の市民と看護職を結ぶコミュニティサイトの看護ネットでは、いい看護を受けるための豆知識と題して情報提供しています。ここでは「看護師」の役割や機能を視点として、よりよい病院の情報を提供しています。いろいろ病院を選ぶ基準がありますが、看護師そのものに着目しているという点が特徴です。

2)利用者の経験からみた評価からみる視点

 次に、利用者の経験からみた評価、ナラティブな評価について見てみます。いわゆる口コミといってもよいでしょう。口コミ(英語ではword of mouth)は国の内外を問わず、信頼を寄せる人が多いとされている情報です。ここでは、おもにインターネット上での情報提供・収集の場を紹介します。
(1)実際に入院や外来通院を経験した患者・家族からの情報
 今まで紹介してきた病院を評価する取り組みは、あくまでも一方向的な情報提供となっていますが、口コミつまり患者・家族の声をフィードバックする双方向性の情報収集と発信を試みるものもあります。

 病院の通信簿は、インターネット上で実際に医療機関を受診しその受けたサービスについて得点をつけ、その得点を集計し発表するものです。これはまた、医療機関には 患者の声(「お勧めする理由・お勧めできない理由」「病院に対する意見 (要望・希望・感想等)」「先生に対する意見(要望・希望・感想等)」)を、より良い医療サービスを提供できるように、改善情報としてフィードバックしています。「病院の通信簿」を通じて伝える事によって患者の匿名性は守られた形で、不満や要望・感謝の声を伝える事ができるというのが特徴です。

 また、QLifeも口コミ病院検索機能を有しているサイトの1つです。そしてQLifeは、みんなで作る家庭の医学は、「Wikiという、一つのテーマを大勢で加筆、編集が行えるシステムを用いた、日本初のユーザー参加型病名事典編纂プロジェクトであり、自身や家族が体験した病気について調べたり、知りえたさまざまな情報を集積し、同じ病で悩む多くの方々の支援を行う」とその目的を述べています。

 そして、闘病記を集めたサイトTOBYOでは、特定の病院を選ぶというよりは、病院の選び方を学ぶことができたり、自分が求めている病院はどのようなところなのかを考える材料になると思います。OkwaveなどのQ&Aサイトもそうです。

 以上、私たちが病院を選ぶ際に、どのような手立てがあるのかという視点を述べてきました。自分にとって何が必要であるのか、どういう病院で医療を受けたいのかは私たち自身が決めることです。病院の機能や役割も考慮して、より自分にあった医療が受けられるように自分自身で判断することが望まれます。

3)アメリカにおける病院や医師を選ぶ先進的な事例

 最後に、医療の質の測定や公開では、先進的な取り組みをしているアメリカの例をみながら、今後日本でどのようになっていけばいいか考える材料にしてみましょう。皆さんもどんな情報があればいいか考えてみてください。

(1)専門機関等が公開している情報
 アメリカでは、非営利団体 医療施設認定合同審査会(JCAHO)の厳格な基準による評価・認定が、全米の病院の質を担保していると言えます。日本医療機能評価機構がそのモデルとした組織です。全米の8割を超す病院が受けていて、1985年からは地域住民の声も審査項目に入りました。通っている病院がJCAHOによる認定を得られていない場合、加入している保険会社から医療費が支払われないため、日本医療機能評価機構とはその影響力は大きく異なります。

(2)患者中心の医療に向けた患者による評価の重視
 また、アメリカでは、1980年代後半から患者の視点に立った医療すなわち「患者中心の医療」の評価が提唱されています。1993年にできたピッカー研究所の「患者経験調査」は、患者の主観的な評価を客観的に測定するものです。これらは、上のJCAHOにも取り入れられてきているものです。日本の医療機能評価機構も次第に患者中心の医療の評価が提唱されてきています。そこでの大事な指標は、さまざまな病院の設備やケアに対する患者満足度で、次にあげる7つです。

  • 1.患者の価値観・意向・ニーズの尊重
  • 2.ケアの連携と統合
  • 3.情報、コミュニケーション、患者教育
  • 4.身体の苦痛の解消
  • 5.心理的な支援と、恐怖、不安の緩和
  • 6.家族と友人の関与
  • 7.転院、退院とケアの継続性
 例えば「医師はどれくらいあなたの話を聴いてくれましたか」という質問をするもので、その頻度を得点にしていきます。これらは、患者が求めるものを具体化したもので、重要な評価だと思います。

(3)専門医や看護師による評価
 また、専門家による専門的な評価を重視するものも進んできています。週刊の時事解説誌である「U.S. News & WORLD REPORT」が毎年公表するAMERICA'S BEST HOSPITALSが有名です。がん、心疾患、消化器系疾患など16の指標で全米の主要病院を評価、疾患ごとにランキングしています。評価指標は、全米への専門医への調査を基にした評判、患者の死亡率、患者1人あたりの看護師数、退院患者数、特定専門技術の導入などとなっています。全米のトップの病院を決めようというもので、受診することもあるでしょうが、それよりは目標となる病院を明らかにしようという意味が大きいとも言えます。

 ベストドクターズ社は、Best Doctors, Inc. 1989年ハーバード大学医学部所属の著名な医師2名により、通常では得られにくい医療情報を提供することを目的に設立されました。専門医同士の相互評価で上位のポイントを得ている「名医」を案内するサイトとなっています。会員になると、自分に最も合った専門家が薦める一番の医者を紹介してくれるわけです。

 選出方法は40以上の専門分野、400以上の副専門分野に対象医師を分類して、「もし、あなたやあなたのご家族が、あなたの専門分野の病気にかかった場合、どの医師に治療をお願いしますか」と問い、評価上位者を名医と認定しています。現在では米国ボストンを拠点に世界30カ国においてサービスを提供しています。

 確かに、日本でも、このような動きは以前からあります。よい医師とはどのような医師なのかという問いに、医師らがこたえようとしている書籍の発行などです。以下の書籍がその例です。

●日経メディカル (編集):全国優良病院ランキング―医師1万5000人に聞いた、ISBN-13: 978-4822203887、日経BP社 (2004/10)

●吉原 清児 (著):医師がすすめる最高の名医+治る病院 決定版、ISBN-13: 978-4062146357、講談社 (2008/3/24)


(宇城 令、中山 和弘)

文献
[1]岩崎榮:医を測る 医療サービスの品質管理とは何か、厚生科学研究所、東京2001.
[2]飯田修平:病院早わかり読本第3版、医学書院、東京2007.



■地域の保健福祉の施設・サービス
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ナラティブ(物語、語り)

1. ナラティブが注目されている

語り
 これまで医療の世界では、患者や家族がその経験について語ること(ナラティブ)は、そのように扱われてきたでしょうか。それは、変わりやすくもあり、場合によっては治療を混乱させる可能性があるもの、という考え方がありました。ところが、最近になって、ナラティブに関する関心は非常に高くなってきました。それはなぜでしょうか。

 科学的根拠(エビデンス)に基づく医療・医学は1990年ごろから提唱されるようになりました。これらは迷信や科学的根拠のない医療行為をできるかぎり少なくし、より合理的で科学的な、多くの人にとって役に立つ医療を目指す目的をもっていました。このような考えのもと、医療者は自分の専門性を基盤として、聞くべきことを自分の枠組みで聞き、診断をし、最善の方法を考えて治療していました。しかし、良かれと思う治療であっても患者の満足度が低く、コミュニケーションがスムーズに行われないことがあります。ナラティブはそうした状況を改善するカギになる可能性があって、注目されはじめました。

2. ナラティブに基づいた医療とは

 ナラティブに基づいた医療NBM(Narrative Based Medicine)とは次のようなものをさします。つまり、医療機関を受診する患者は、痛みなど具体的な症状のほかに、受診したほうが良いと考えるにいたった気持ちや、治療への期待といったものがあるはずです。こうした気持ちや期待は、患者自身の、これまでの人生や考え方、信条が関係しています。検査データや診察結果だけでなく、こういった患者の心の奥深くからの語りを医療者側は真剣に受け止め、対話をして、それを深めることによって問題の解決を図ろうとする医療、これがNBMです。

3. NBMはどうして大事なのか

 NBMがどうして重要といわれているのか、いくつか理由があるといわれています。

 ひとつには、NBMを行うことによって、患者の思い、考え方、物語を理解しようとした結果、劇的にコミュニケーションが改善されて、信頼・満足・質の高い医療に結びついているということが報告されています。人には個別の歴史があり、価値観があります。医師は個別の人生を尊重して治療の枠組みを考え、患者は語りに耳を傾けてもらうことで医療者に信頼を寄せる。結果として、より良い医療につながります。

 ふたつめは、患者は「語り」を聞き届けてくれる相手を得て、その人に語ることによって、その経験に新たな意味づけをし、価値を見出すことができるということです。こうした結果は医療者と患者の共同作業によって起こることになります。

 病むということは、「世界の崩壊」に等しい経験であるとも言われています。しかしながら、人生の基盤を揺るがす「病む」という経験を、自分にとって必要で、有意義な経験であると位置づけることもできます。たとえば、病いを得たからこそ、知り合えた人がいるかもしれませんし、残された時間の価値を知ることができるかもしれません。また、改めて周囲の人々の愛を知ることになるかもしれません。このように、NBMによって、病いの経験を受け止めて、自分の人生に明確に位置付けられることで、治療、療養を生活の中に組み込んで前向きに生きることができます。

 三つ目には、医療者と患者の関係性についてです。医療者も患者も、たとえば診察室での関係だけでなく、それぞれがもっと広い世界を生きています。しかし、医療者の世界と、患者の日常生活の世界は別々で、同じ時間に同じ場で共に語り合うことはまずありませんでした。その両者が共に関わることができる「ことば」が今求められています。ナラティブは、その役割を果たす可能性があります。

4. ナラティブのありか

 他の患者や家族がどのような状況になっているのか、つまり他の人のナラティブを知ることもできます。そして、それが少しでも自分が陥っている状況に近ければ参考にすることもできます。こうしたことからナラティブの蓄積が期待されています。

 ナラティブは最近になって注目され始めたことですので、十分ではありませんが、一部で患者のナラティブを少しずつデータベース化しようとする動きも見られています。英国のヘルストークオンライン(Health talk online)というサイトでは、2000人近くの患者や介護者、スクリーニング検査体験者たちの語りが、映像あるいは音声、テキストの形式で公開されています。

 また、その日本版として、ディペックス・ジャパンという団体がデータベース化に取り組んでおり、インターネット上でこうした患者のナラティブに関する情報をいつでも見ることができるようにしています。感心がある方はご覧になるとよいでしょう。(ディペックス・ジャパン(DIPEx-Japan)「がん患者の語り」データベース作成プロジェクト

 こうしたナラティブは、実際には、古くから「闘病記」という形で出版されてきています。オンライン古書店パラメディカでは闘病記を収集して販売しています。また、公共の図書館に闘病記を集めて、ネットで探せるようにしようという試みが闘病記ライブラリーです。そこで見られる本は、聖路加国際大学(旧聖路加看護大学)の市民向け健康情報サービス「聖路加健康ナビスポット(るかなび)」の図書室にある「闘病記文庫」(1400冊以上)と連動しています。こうした闘病記を見ることで、病いを抱え、受容し、克服していった人たちのナラティブを知ることもできます。

 また、闘病している人のブログや個人サイトも数多く見られるようになってきました。今や誰でも簡単にブログを書くことができます。いろいろなリンク集もありますが、闘病体験情報を共有するサイトTOBYOでは、2万以上の闘病サイトが集められています。ここでは、闘病図書館に入り闘病記を探したり、闘病情報を調べたりすることなどができます。患者や家族のナラティブの宝庫と言えるでしょう。

 さらに、ネット上には、患者や家族が集まる患者会のコミュニティサイトや、健康や病気のことが相談できるサイトも多くあります。患者会のサイトでは、掲示板が用意されていることが多く、そこで多くの患者さんの語りを読むことができます。患者会を探すサイトがいくつかありますが、楽患ネットがその一つです。また、Q&Aサイトでの健康や病気の質問と回答のやりとりからも、貴重な情報が得られます。OKWave教えて!gooMSN相談箱と同内容)では、30万件以上の質問が検索して見られます。このような相談や回答の内容から、相談者のニーズが明らかになるプロセスを見ることができて、自分が知りたいことに気づいたり回答を得ることができるかもしれません。また、身の回りの困っている人をどのように助けてあげたらよいのかのヒントも得られると思います。

(大宮朋子、瀬戸山陽子、中山和弘)

文献

江口 重幸; 野村 直樹; 斎藤 清二:ナラティブと医療.金剛出版.2006 .

武藤正樹.活動報告 寄稿 明るいところでしか鍵を探さない愚.医療と法律研究協会.(オンライン,http://www.m-l.or.jp/report/contribution.htm,(参照2008年3月11日)

芳賀浩昭:ナラティブに基づいたデンタルコミュニケーション.クインテッセンス出版.2006.

蘭由岐子:「病いの経験」を聞き取る.皓星社.2004.

アーサークラインマン(江口重幸・五木田紳・上野豪志訳):病いの語りー慢性の病いをめぐる臨床人類学.誠信書房.1996.

2008年4月11日

エビデンス:根拠に基づいた保健医療

1. エビデンスとはなにか

健康情報はエビデンスを確認
 「エビデンス」は日本語にすると「証拠」「根拠」という意味になります。保健医療で用いる場合には、よく「根拠」という言葉が使われます。それは、科学的根拠、つまり実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」があることを指します。
「できるだけ健康に良いことをしたい」「効果のある治療や投薬を受けたい」という思いは、多くの人々に共通の願いだと思います。その願いに応えるために、多くの研究による検証が行なわれ、その結果に基づいて、多くの健康法や薬が開発され、病院で治療が行われています。

 近年では、市民の健康意識が高まっています。みなさんはテレビや本、インターネットなどで、健康・医療に関する数多くの情報を入手することができます。しかし、必ずしも全ての情報が、「正しい」「効果がある」と言い切れないのも事実です。例えば、TV番組で紹介された健康法に十分な「エビデンス」がなかったり、「減量できる」「ガンに効く」といって売られていた商品に十分な「エビデンス」がなかったりということは、少なくありません。「エビデンス」を伴わない不確実な情報にもかかわらず、誇大に宣伝されることで消費者である市民が殺到し、混乱することも近年よくマスコミを騒がせている現象のひとつになっています。

 だれかに薦められたり、大きく宣伝されたりしているというだけで、健康法や薬や治療法を選ぶのは危険です。その方法が「エビデンス」に裏付けられたものであることを知った上で選ぶことの大切さは、それがその人の生命にかかわる問題である以上、いくら強調しても、強調しすぎることはありません。健康・医療情報の選択をするときには、インターネットをはじめとしたさまざまな情報源から得られる健康情報の背後にある「エビデンス」を知り、健康・医療情報の正しさについて判断することが、これから大切になってくると思われます。

 エビデンスに基づいた治療・ケア・健康教育といった保健医療活動は、EBM(Evidence Based Medicine;エビデンスに基づいた医療)、EBN(Evidence Based Nursing; エビデンスに基づいた看護)、EBHC(Evidence Based Health Care; エビデンスに基づいた保健活動)といった略語で呼ばれます。歴史的には医師や看護師などの保健や医療に携わる専門家は、ある一定のエビデンスを除いては、それまで伝えられてきた伝統や習慣、それぞれの個人的な経験と勘に頼った治療やケアを行っていました。しかし、患者からは、そうした経験や勘だけではなく、より確実なエビデンスに基づいた治療、ケアが行なわれ、効果のある治療を期待する声が広まってきました。

 こうした「エビデンス」は科学的根拠というその名の通り、科学的に作られるものです。科学的というのは、基本的には客観的であるという意味であり、これは誰の目で見ても明らかということです。そうして今、このエビデンスは治療を受ける患者も知ることができるようになってきました。では、そのエビデンスというものはどこで見ることができるのでしょうか。

2. エビデンスのありか

 一般的に、エビデンスは研究者の手による研究論文という形にまとめられ、学会が刊行している学術雑誌に投稿されます。学会がその論文を掲載するかどうかを判断し、定期的に出版されるものが学術雑誌です。つまり、エビデンスは学術雑誌にまとめて掲載されていることになります。

 これらの学術雑誌に載っている論文は、その雑誌を購読すると読めます。しかし、雑誌の数は膨大で、日本の医学系の雑誌は、医学中央雑誌(医中誌Web)という論文の情報を集めたデータベースにあるものだけで5000誌ほどあります。したがって、多くの人は、このデータベースで探したいキーワードで検索をして論文を探しています(個人で使う場合は残念ながら有料になります)。病気の名前などで検索することができます。また、海外のさらに膨大な医学系の雑誌では、アメリカ国立医学図書館の論文データベースPubMedがよく使われています。これもキーワードで検索できますが、英語が基本です。

 これらのデータベースで探した雑誌や論文は、大学の医学部や薬学部、看護学部、歯学部等に併設されている図書館やその他の国公立の図書館などで閲覧することができます。ただし、利用資格は図書館によって異なりますのでホームページなどで調べてから行く必要があります。図書館でお目当ての論文が載った雑誌を探すには、所蔵している文献の情報(書誌情報)がたいていは電子化されていますので、検索用の端末に自分でキーワードを入れるとその内容を扱っている雑誌記事を検索することができます。その図書館では所蔵されていない雑誌の場合は、窓口で相談すれば他の図書館の紹介や取り寄せる方法などを教えてくれるでしょう。

 実際、発行される論文の数は実に膨大で、医師でも最新知識を保つのには1日に19本の論文を読む必要があると言われます[1]。それは医師でも不可能です。しかし、患者なら多くは1つの病気についてだけなので可能で、これがEBM時代の患者像なのかも知れません。しかし、必ずしも論文を一本一本読まなくても、あるテーマにそって論文をまとめたものが存在します。専門家が集まって作成する一般的な治療の基準を示した指針である「診療ガイドライン」が1つです。それらを集めた医療情報サービスMinds東邦大学医学メディアセンター診療ガイドライン情報などがあります。海外では、アメリカのNational Guideline Clearinghouse (NGC)があります。

 また、同じように世界中の論文を要約した、いわば世界のエビデンスを集積したデータベースとして、コクランライブラリーがあります。国の医療政策の決定や実際の医療現場での治療指針をつくるために、これまでの研究成果をまとめて、全体として1つの結論を得ようとするものです。本当に有用な治療効果や予防効果などがあるのかどうかを判断しています。詳細は契約が必要ですが、要約は無料で読めます(ただし英語が基本です)。

 たとえば、トップページで「lung cancer」(肺がん)と入力して検索すると、予防効果のある薬品、緑茶の予防効果など結果の一覧が出てきて、前者を選んでさらにPlain language summary(わかりやすい言葉での要約)をクリックすると、一言「健康な人に肺がんの予防のためにビタミンを処方するべきではない」と書かれています。最初から無料の要約目当ての場合はこちらからアクセスすると早いです。このように、ほぼ最新の世界の研究の結果のまとめを英語(ドイツ語、スペイン語も)で読めるようになっています。

 学術雑誌やその要約以外のエビデンスについては、文部科学省や厚生労働省が研究助成金で行われた成果の報告書やその概要を公開しています。日本の多くの研究がこのような公的な助成金を中心に、その他民間の助成金などで実施されています。文部科学省については、科学研究費補助金データベース、厚生労働省については、厚生労働科学研究成果データベースで検索することができます。

 そのほか、市民のみなさんがわかりやすいように、専門家がエビデンスをかみくだいて説明した本やインターネットのサイトもあります。ただし、こうしたものの中で紹介されている情報は、大変に優れたものもある一方で、エビデンスに基づいているものなのか不明瞭なものも見受けられます。手元にある情報が信頼できるものなのかどうかを見極めるときに役に立つのが、どの程度のエビデンスなのか、言いかえるとエビデンスのレベルと呼ばれる目安です。このエビデンスのレベルがどのようなものかを確認すると、その情報の信頼性がみえてきます。

3. エビデンスの信頼性を左右するバイアスの種類

バイアスを排除
 エビデンスのレベルは何によって決まるのでしょうか。エビデンスを作るための実験や調査では、「誤ったエビデンスを導きやすい要素」をできるだけ排除する方法を採るように工夫していますが、100%排除しきれないのが現状です。こうした、誤ったエビデンスを導きやすい要素のことを「バイアス」と呼びます。

 バイアスとは、本来測れるはずだった正しい「真の値」から、ある方向へずれさせてしまう要因があって、それによって全体の結果に「ずれ」が生じることを指します。言いかえれば、ある一定の方向への「偏り」があるということです。実験や調査は世間の全ての人を対象に行っているわけではなく、そこから必要な人数を選んで行われていますので、偏りが全くない研究というものは存在しません。もちろん、研究を行う際には、必ず、この偏りが少ないように研究方法を工夫しなければならないのは言うまでもありません。したがって、エビデンスを利用する際には、バイアスをきちんと排除できているかをチェックすることが大事になってきます。

 そのカギとなるのが、バイアスの種類についての知識です。バイアスには、研究対象者を選ぶときに生じる「選択バイアス」、測定方法などによって観測値に生じる「情報バイアス」、本当は関係がないのにそう見えてしまう見せかけの関係が生じる「交絡バイアス」と、主に3種類があります。そして、それぞれの予防策や対処方法があります。その研究ではどんなバイアスの種類があるのかを見きわめると、どのように対処すべきなのかがおのずと見えてきます。代表的なバイアスについては、エビデンスの見方【資料編】に示しましたので参考にしてください。

4. エビデンスの「レベル」とは

 本や雑誌、インターネットなどで専門家が示している情報がどの程度信頼できるものなのかをチェックするときには、その情報のエビデンスの「レベル」をみるとよいことが多くあります。このエビデンスの「レベル」は、できる限りバイアスを排除する努力の程度ともいえるでしょう。つまり、バイアスの排除の仕方、言い換えれば、エビデンスの「作られ方」によって決まってきます。

 エビデンスは主に「実験」と呼ばれる研究方法で作られます。実験というと、理科を思い出す人も多いかと思いますが、健康に関連した科学の分野では「物質」ではなくて「ヒト」を対象とした実験が行なわれます。「ヒトを対象に」といっても、人権を尊重し、研究参加者と研究者との厳密な契約のもとで行われています(日本医師会:ヘルシンキ宣言日本語版】参照)。

 こうした、新しい健康法や治療法、新薬の開発などを目的として「ヒト」にたいして行われる実験のことを、「臨床試験」あるいは「治験」とも呼ばれています。

 また、エビデンスを求める手法として実験以外の方法もあり、重要な役割を担っています。薬や健康法、治療方法といった新たな方法の効果を見るためには、実験が欠かせません。しかし、ある病気(例えば、心筋梗塞など)の発生につながりそうな「生活習慣」や「生活状況」を突き止めるときには、実験ではなく、多くの患者のデータを集める「調査」を行います。この実験と調査の違いは、対象者に何らかの介入があるかどうか、例えば薬や食品を食べてもらったり運動してもらうなど、何かをしてもらうかどうかです。実験は介入研究とも呼ばれ、調査は介入はしないで観察しているだけなので観察研究とも呼ばれます。

 こうした調査には、主に2種類の調査があります。1つはコホート研究で、もう1つが症例対照研究です。コホート研究は、まず対象者に調査をして現在の健康や生活の状況(例えば喫煙など)を調べて、その後、健康状態を観察し続けて、どのような人に健康の変化(例えば、がんの発見)があったかを明らかにします。時間的に見ると前向きな研究ともいわれます。症例対照研究は、その逆ともいえます。現在、健康状態の違う2つのグループ、例えばある高血圧の人とそうでない人を比較して、過去にどのような生活をしていたか振り返って聞くものです。後ろ向き研究といわれます。これらのどちらにも3種類のバイアスの入り込む可能性があります。

 一般に、エビデンスのレベルでは、このような調査よりも、実験のほうが高いとされます。実験のほうが、バイアスを排除するように計画して研究ができるからです。観察する場合、コホート研究では、どうしても途中で何かが変化してしまったり(例えば喫煙者が一時期禁煙してしまうとか)、症例対照研究では、どうしても過去のことは記憶が確かでないなどのバイアスが入ります。実験であれば、対象者に確実にある状況の違いをつくり出すことができる点で優れています。

 ただし、実験研究の場合も、対象者の研究協力への同意をとって、いつやめても問題ないようにすることが大前提ですが、研究に参加しなければ起こらないことをするわけです。どんな予想もしない影響が出ないとも限らず、リスクはまったく0だとは言い切れません。したがって、すでに先に行われた観察研究などで、十分に効果が期待できるものでないと実験することは望ましくありません。実験にいたる手前の調査もレベルが低いからといって意味がないわけではなく、対象者になるべく負担をかけない範囲で一定のレベルのエビデンスをつくる上では大切なものです。

 また、研究結果が偶然である確率は対象者が少ないとかなり高くなります。例えば、日本人女性から無作為に選んで5人ずつの2つのグループをつくります。この2グループの平均体重で、偶然に差が起こる確率をおおよそで計算してみると、4kg以上の差が出る確率は2分の1近くあります。これが20人ずつなら、4kg以上の差は4分の1ぐらいの確率に減りますが、2kgの差の確率は2分の1近くあります。偶然で4kgの差が出る確率を考えるとかなり人数が必要なことがわかります。

 このようにして、偶然の結果ではないと判断できるために必要な対象者数は、事前にある程度予想することができます。したがって、研究において一定数の対象人数は重要です。数名程度での実験などはあまり意味をなさないことがわかるでしょう。

また、少ない人数では、偶然を否定できないだけでなく、それらの人が、誰を代表していると言えるかが問題です。人類の代表と言えるでしょうか。日本人の代表、少なくともその性別のその年代の日本人を代表していると言えるかが問題になります。例えば、テレビや雑誌での実験に出てくるタレントや、応募で参加しているアルバイトの若者などは、誰を代表しているのでしょうか。

 このように、エビデンスや研究を見る目ができてくると、論文もさることながら、テレビや雑誌で行われている簡単な実験の持つ意味について考えられるようになってきます。ものごとの因果関係を証明することの難しさと同時にその大切さもわかってくると思います。日常生活でも、何かすすめられた食品などで自分や家族・友人に効果があったという場合にも、どのようなバイアスなどがあるか考えてみるといいかもしれません。

 これらのエビデンスの見方については、エビデンスの見方【資料編】で、より詳細な内容についてまとめました。代表的なバイアスに加えて、代表的な研究方法とエビデンスレベル結果の偶然と対象者数母集団とサンプルの代表性の解説がありますのでご覧ください。

(戸ヶ里泰典、中山和弘)


文献
[1]J.A.ミュア・グレイ:患者は何でも知っている-EBM時代の医師と患者.中山書店、2004

2008年4月12日

信頼できる情報とは

1. 科学的根拠に基づいた情報「エビデンス」

エビデンス
 健康を維持するために、あるいは、より良い医療を受けていくためには多くの情報を収集し、それに基づいて意思決定をすることが大切であることがわかりました。よりよい意思決定のためには、信頼できる情報が欠かせません。では、「信頼できる情報」とは、一体どのようなものでしょうか。健康や医療に関係する場面で人が満足度の高いよりよい意思決定をするために必要な信頼できる情報とは何かについて考えて行きます。

 現在、人々が入手できる健康に関する情報は、実にさまざまで、その信頼性についても同様です。特にインターネットでは、誰でも簡単に情報を発信できるようになっていますので、「好きなだけ食べて痩せる」「がんが治る」といった怪しげな商業目的の情報や悪意が感じられる情報も混在しています。 こうした玉石混交の情報が、信頼のおけるものなのか、情報の発信者だけではなく、誰にでも当てはまる情報なのかを判断するには、その情報が、科学的根拠、つまり「科学により実証されている根拠」、に基づいた情報であるかという観点から捉える必要があります。例えば、ある健康法や治療法について、100人の人が同じ状況にあった時に、何人の人に当てはまる情報なのかということです。

 健康や医療において信頼できる情報として、このような科学的根拠のある情報を「エビデンス」と呼ぶようになっています。もとは証拠という意味の英語ですが、それが科学的根拠という意味で使われています。

2.経験に基づく人生における物語 「ナラティブ」

 とはいうものの、信頼できると判断する情報は、必ずしも、科学的根拠に基づいた情報ではない場合もあります。例えば、ほかの患者の病気の体験談があります。これらは必ずしも科学的根拠に基づいた情報だけではありません。しかし、それを見た患者は同じ体験を共有できて、孤独感が解消できたりして、その情報に信頼を寄せるのです。

 患者やその家族を対象とした調査では、インターネットの情報を信頼できると回答した人1,000名に、どのようなウェブサイトが提供する情報が信頼できるかと上位5つをあげてもらったところ、「大学病院、国立病院」45.2%、「公的な研究機関」42.4%に次いで「患者(個人または団体)」36.6 %が挙げられていました[1]。患者の提供する情報は実際の体験者として信頼を集めていますが、これはなぜでしょうか。エビデンスの多くは、ある方法に何らかの効果があるかどうかの情報であるのに対して、患者の情報は、それらについてどのように考えたり感じたりしたのかという情報です。そして、実際に行ってみて起こったことと、それについてまたどのように思ったり対処したりしたのかです。まさに起こった出来事をどのように受け止めていくかの、患者の体験記であり、いわばそのストーリー、物語です。

 このような、個人の「物語」「体験談」や「語り」を表す「ナラティブ(narrative)」という言葉が医療の世界でも注目されるようになってきました。意味としてはナレーション(narration)という「語ること」に対して、「語ったもの」であり物語となるわけです。それは、その人のそれまでの人生の歴史を背景にして、その新しい経験を過去の自分と照らしてどのように受け止めていくかという方法でもあります。実際に、例えば、タバコを吸うとがんになりやすいと、エビデンスだけを紹介されても、吸っている人はまだたくさんいます。手術をしたほうがよいと勧められても、生活や生きがいを優先してしないという人もいます。人それぞれの受け止め方や価値観がありますから、エビデンスの確率だけが判断材料ではないのです。その時、自分はこうしたい、とくにエビデンス通りにする場合も違うことをする場合も、ほかの人は一体どうしているのかを知りたいものです。このときに、ほかの人の体験談は役にたちます。

 また、体験談をヒントに、自分に何が起こったことがわかることがあります。例えば、いきなりがんと宣告されてどのように受け止めていいのかもわからない、何をすればいいのか何もわからないときにはどうでしょう。治療方法に関するエビデンスが必要でしょうか。そうではありません。必要なのは、いったい何が起こったのかを自分の言葉で表現できることです。医学的にはがんという状況かもしれませんが、それがいったい自分にとって何なのか、それを明らかにするためにも、自分で他者に語ってみるということが大切になってきます。つらいと思った出来事を友人に話しているうちに、思っていたこととは違った実はいい経験だったということに変わってしまったことはありませんか。また、話していくうちに自分ってそんな風に思っていたんだと気がつくこともあります。なかなか言葉にならないときは、体験談が助けてくれるかもしれません。

3. エビデンスとナラティブに基づいた保健医療を実現するには

 したがって、根拠に基づいた保健医療を実際にすすめるには、エビデンスナラティブが必要ということがわかります。イギリスの根拠に基づいた医療の実現に多大な貢献をしたミュア・グレイは「エビデンス」「価値観」「資源とニーズ」の3つの要素が重要だと言っています[2]。

 「価値観」とは、人々が健康や病気に関する問題を解決するための治療方法やケアなどの選択肢の持つ特徴のどれに価値を置くかです。例えば、家族、仕事や職場、長生き、自分の外観、副作用の有無、お金などのいくつもの価値の中で、どれに重きを置くのかです。「価値観」の元の英語は「Values」で、Value(価値)の複数形です。それは1つの価値だけではなくて、いくつもの価値があるときにどれに優先順位をつけるかという意味です。ここでは、自分の価値観を確認して治療を選ぶが参考になるでしょう。

 では、人々の持つ価値観はどうしたらわかるでしょうか。自分の持つ価値観について、それまでの人生や経験をもとに語ること、すなわちナラティブによって表現することです。価値観を確認するには、自分が大切にしたいと思っていること、なかでも何が最も大切なのかを語ることが必要だということです。

 また、「資源とニーズ」での資源とは、いくらよいエビデンスがあっても、それを実行できる施設や人材と技術、お金や時間などの実現のための条件が伴わなければいけないということです。また、エビデンスだけでなく、自分の希望で受けたい治療やケアの方法があっても、資源が整わないと無理だということです。健康のために運動したいと思ってもその場所や施設がないとか、新しい手術や薬を試したいと思っても、日本では難しいというような場合もあります。

 また、ニーズとはその資源が不足していて社会的にそれが必要とされている程度です。例えば、高度な専門病院や医師や看護師をたくさん増やすことが本当に必要とされているのかという問題です。ほかにも高価な先端技術医療やもっと心のケアをする専門家などへのニーズなど社会的に議論しなくてはならない話です。

 この3つで考えますと、エビデンス、ナラティブに続いて、それらに基づいて健康を実現していくための資源についての情報も必要であることがわかります。エビデンスやナラティブを追い求めても、実現しなくては困ります。もちろん専門病院が近くにないなど資源の限られた環境におかれている人にとっては、その範囲のなかでそれらの実現をはかることになります。実際に、がんの患者さんで高い医療費を払える見込みがなくなって、退院を希望する人がいます。しかし、高額でない治療もエビデンスやナラティブをもとに新たに考えることは可能なのです。また、一定額以上は払った治療費が戻ってくる高額医療費の制度もありますので、公的な資源も幅広く知っていたほうがよい情報です。

 このように、これら3つの情報について信頼できるものが求められています。また、これら3つは常にセットで考える必要があるということがわかります。そして、図で示されているように、それぞれはまったく重なり合わないものではないことにも注意が必要です。

4. 情報を収集する行動の動機づけとしての人間関係

 これらの情報があることが望ましいわけですが、実際にそれを収集する人はどのような人でしょうか。自分で主体的に情報を集める人は、保健医療を利用する場合も受け身ではなく、積極的に参加して専門家と一緒に考えたいという人が多いと思います。そして、実際に医療における意思決定に参加する人が増えると、ますます患者のニーズが明らかになって、医療の質を向上させることができるかもしれません。そうすれば患者の満足度はさらに高くなるはずです。

 しかし、少なくとも健康情報を収集しようという動機付けがなくては始まりません。まず、そこで考えられることは、情報を探さなければならない状態にあることです。家族や知人が病気になったり、健康診断で何かを指摘されたり、実際に自覚症状があったり、病院を受診してよくわからない病名を診断されたり、いろいろな機会に情報が欲しくなります。それでも、これらは、実際に何らかの健康に関する問題が生じているという要因であって、それらがないときはどうなのでしょう。また、仮に問題があっても自分では探さずに医師に相談するという人もいるでしょう。自分は健康であると思っているときには、病気の予防はしたいと思っても、ほとんどの人はそのために病院には行かないでしょう。医師に聞かずに自分で情報を収集したいという人はいったいどのような人なのでしょう。

 アメリカのデュッタ・バーグマンという研究者は、そのような医師以外から主体的に健康情報を収集する人の特徴を探しました[3]。特に注目したのは、人々の日々のコミュニケーション活動と、健康への関心の高さです。マスメディアの研究では、人々は様々なメディアに触れることによって、いろいろな事実を知るだけでなく、そこでより多く出ている話題をより重要だと判断することが指摘されています。したがって、どのような人々やメディアと触れているかは個人の判断に影響を与えるということであり、そこで健康の話題が多ければ、ますます健康が重要と考えてそこから情報を収集するようになると考えたわけです。

 結果としては、健康意識を高めることで情報収集行動に結びついていたもので最も重要なものは人対人の直接のコミュニケーションでした。多くの人との交流が、そこで交わされる健康についての会話から健康への関心を高め、情報収集を盛んにしていました。次いで関連が見られたのは、地域活動への参加、新聞を読むこと、雑誌を読むことでした。テレビを見ることはほとんど関連が見られず、インターネットは健康への関心とは関連が見られなかったものの、情報収集行動とは関連していました。テレビは、基本的にエンターテインメントであり、その情報の信頼性の問題(日本でも捏造が問題になりました)や喫煙や飲酒などのシーンに寛容であることなどが背景にあると思われます。この研究では特に、日常的に地域でもどこでも健康に関心のある人がコミュニケーションを活発にとっていて、そこでまた情報を交換することがさらに健康に関心を持って情報を探すことに結びつくという相乗効果が見られるということです。このような人間関係の持つ力をソーシャルキャピタル(社会関係資本)と呼びます。信頼できる人々が集まると、健康をいたわり合うなかで情報が交換され、そこがあたかも健康情報の宝庫となっているということです。

5. 健康を決めているのは自分か自分以外か

 また、ウォールストンらは人の健康にかかわる行動に影響を与えるものとして、「健康や病気の原因をどこに求めるかという考え方」(ヘルス・ローカス・オブ・コントロール)に注目しました。そして、その原因をどこに求めるかについての傾向として、「自分自身」「家族や友人、医療者などの他者」「運や偶然」の3つがあるとしました [4]。

 これらは日本の研究者の調査によると、5つあるとされています。ほとんど同じなのですが、「自分自身」「家族」「医師など医療の専門家」「運や偶然」の4つに加えて「超自然(先祖や神仏など)」があるといわれています [5]。ここで大切なことは、「自分自身」かそうでないかということです。すなわち、自分の健康は自分の行動によって決まるとか、健康のためには自分の心がけが大事であると思っているかどうかです。そうでない場合は、医者など自分以外の人次第ということになります。そもそも自分の行動が大事だと思わなければ情報を収集するでしょうか。

 これらの5つについて、日本における29歳から45歳の女性を対象とした調査があります[6]。これらが新聞、テレビ、雑誌などからの健康情報の収集行動にどう影響するかが報告されています。結果としては、健康や病気の原因が「自分自身」「家族」にあると考える人が多く情報を収集していました。同時に、多く情報を収集している人は、その行動が「自分の健康に関連がある」と考えていました。この調査では対象者が小学生を持つ母親であったこともあって子供の健康を考えると「家族」が重要と考えられ、そのために情報を収集しているというものでした。この研究に限らず、国内外で、「自分自身」と考える人が情報を収集しやすいという結果があります。

 このように一人ひとりが持つ考え方によって、健康・医療情報の捉え方や情報を収集することへの考えが異なる傾向にあります。また、これ以外にも、年齢や社会経済的状態と言ったその人の持つ特性によって、どのように情報収集を行うかは異なると言われています。実際のところ、人々の健康や病気は、自分自身や家族などの周囲の人々、保健医療の専門家のすべてから影響を受けています。そのため、その考え方を問わず信頼できる情報を得て、自分自身のためだったり、家族や友人のためにもよりよい意思決定をしたいものです。運の良し悪しのせいにしたり、神仏の力に頼ることも人間には必要なことです。いくら信頼できる情報をもとに意思決定をしても、そのあとどのような結果になるかは、結局は運にまかせるか神のみぞ知るです。ただ、情報を得ないままに運や神仏だけにたよるのはどうなのでしょうか。人事を尽くして天命を待つという言葉もあります。

6. 健康情報の活用におけるリスクを回避するには

情報の活用におけるリスク
 またたくさんの情報のうち、よりよいものをタイムリーに手に入れて活用できることに越したことがありません。しかし、裏を返せば、そうはいかない状況に陥ることも考えられます。問題がその後の生命や生活の基盤を揺るがす大きな問題における意思決定の場面であれば、「リスク」になることも考えられます。ここには大きくふたつのリスクがありそうです。

 ひとつめのリスクは、必要な時に情報を手に入れることができない、ということです。つまり、情報がどこにあるのか、どうやって探せばよいのかわからないという事態になります。健康のために一つの行動を起こす(例えば、一つの治療法を選ぶ)時、私たちは、医療者や家族、友人・知人、本、インターネットなど様々な情報源から多くの情報を得て、その情報をもとに選択を行なうことになります。しかし、今挙げたいくつもの情報源を完全に活用している人は多くないかもしれません。つまり、こうした情報源への接近のしかたが大事で、接近方法がわからないと、情報を取り出すことができません。

 もうひとつのリスクは、情報を手に入れたとしてもそれが本当に良いものかどうか、信頼できるものなのか、自分にとって必要な情報なのか、よくわからない、あるいは間違って判断してしまう、という事態です。

 各種マスメディアの発達や、携帯電話、インターネットの普及により、情報はあふれかえっています。これらから入手できる健康に関する情報はじつにさまざまで、それらの情報が持つ信頼性についても同様です。なかでも、今や身近な情報検索の道具として広く利用されているインターネットの影響は大きいものです。今は、インターネットを使えばほしいと思った情報を手に入れることができます。特にインターネットでは、誰でも簡単に情報を発信できます。したがって、このような玉石混交ともいえる情報の中から得ようとしている情報が信頼のおけるものなのかについて細心の注意が必要です。

 では、医療専門職者等の健康情報・サービスの提供者が示す情報が、必ずしも科学的根拠に基づいた情報であるかというと、その確証もありません。医師個人の好みや慣習から情報提供がされる場合も考えられるからです。大学や公的機関の情報であれば、大丈夫でしょうか。難しい専門用語があってわからなかったり、自分にあてはまらない部分を誤解して自分のことと受け取ったりすることもありえます。

 また、個人の患者や患者会のつくるサイトや闘病記のなかにも、最新のすぐれたエビデンスの紹介や貴重なナラティブを提供しているものもあります。他方で、商品を売るためだけに、巧妙に利用者の体験談を利用しているものもあります。それらの情報のなかから信頼できる情報を集めていかなくてはならないわけです。

 したがって、その情報が信頼できる情報かどうかを解釈する能力や知識がないと、その情報を理解して自分自身の意思決定のための判断材料に使うのは難しいです。情報を得たことでかえって混乱したり、 誤った解釈をして間違った行動を起こしてしまうこともあるかもしれません。

 エビデンスをチェックする必要がありますし、ナラティブは、体験談として、とても参考になる部分がある一方で、自分も必ずその体験者と同じ体験をするかというと必ずしもそのようなことは言えません。こうしたリスクを最小限に抑えるためには、情報を出す側も、受け取る側も、健康情報を適切に活用して意思決定できる能力である「ヘルスリテラシー」を高めるということが大事になります。つぎから、根拠に基づいたエビデンス、価値観、資源とニーズに合わせて、エビデンスの見かた、価値観としてのナラティブ、保健医療の資源の探し方、そして、ヘルスリテラシーの話にすすみましょう。

文献
[1] 辰巳治之ら:「患者・家族におけるインターネット上の医療(健康)情報の利用状況と意識に関する調査」2001.http://www.jima.or.jp/JISSEKI/kousei2001.html
[2]Muir Gray:Evidence-Based Health Care and Public Health: How to Make Decisions About Health Services and Public Health. Churchill Livingstone, 2008.
[3] Dutta-Bergman, M J., (2005) Developing a Profile of Consumer Intention to Seek Out Additional Information Beyond a Doctor: The Role of Communicative and Motivation Variables., Health Communication, 17 (1), 1-16
[4]Wallston, B, S., Wallston, K.A., Kaplan, G. D., Maides, S.A.: Development and validation of the Health Locus of Control (HLC) Scales. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 44, 580-585.
[5]堀毛裕子:日本版Health Locus of Control Scales尺度の作成.健康心理学研究、4、1-7、1991.
[6]吉田由美、他:健康情報の収集行動とHealth Locus of Controlとの関連.日本公衆衛生雑誌、42(2)、69-77、1995.

(中山、吉川、瀬戸山、戸ヶ里)(更新日2017年2月4日)

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