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4.コミュニケーションと意思決定 アーカイブ

2013年11月27日

誰がどのように意思決定するのか

1. 意思決定の形

1)保健医療における意思決定の担い手

 健康のためによりよい意思決定をするためには、医療者が情報をわかりやすく提供し、それを有効に活用できることが必要です。では、実際に、保健医療のさまざまな場面ではどうなっているのでしょうか。そこでは、従来の医療者中心の意思決定から、より患者や市民中心の意思決定にしようという変化が生じてきています。マスメディアやインターネットが発達して、情報が多く提供されることで、よりよい意思決定がしたいと思い始めた人たちが増えていることや、提供できるエビデンスもますます増加していることが要因として挙げられるでしょう。

 そのことによって、手に入れられる情報はさらに増えるばかりです。そのため、医療者と患者や市民が考える適切な選択肢に違いが生じてきやすくなっている可能性があります。その場合は、意見の相違で何らかの問題が生じて、患者や市民の納得、安心、満足が損なわれてしまうかもしれません。

 例えば、ある母親が、友達から子供の風邪には抗生物質を飲ませるのが最も良い方法だという情報を得たとします。その親子が受診した病院の医師が、症状から抗生物質は必要ないと判断して、ゆっくり休ませて下さいと言った場合、どうなるでしょう。他の病院に行き、必要のない抗生物質を服用してしまうかもしれません。このような母親と医師との間で得ている情報や考えていることを確認しない状態、すなわちコミュニケーションがとれていないことで、適切な選択肢が選ばれない可能性があるわけです。そもそも選択肢として何があり、どれを選ぶべきなのかという考えを共有して、一緒に納得して決めるという方法が大切だと思われるようになってきているわけです。

2)意思決定の3つのパターン

 保健医療において意思決定を考える場合、医師などの専門家が決定する従来型の方法や、患者や市民が決定する方法など、意思決定のパターンは、大きく3つのタイプに分けられるとされています。それは、パターナリズムモデル(父権主義モデル、Paternalism model)、シェアードディシジョンモデル(協働的意思決定モデルShared decision model)、インフォームドディシジョンモデル(情報を得た意思決定モデルInformed decision model)の3つです。

 これらの3つは、どこが違うのでしょうか。1つ目は意思決定のために医師から患者に提供される知識や情報の量で、2つ目は意思決定を行う人(主体)は誰かです。

 パターナリズムモデルは、従来型の父権主義的な方法です。これは、父親が小さな子供のためによかれと思って子供の意向をあまり聞かずに意思決定することから来ています。医師が提供する情報は少なく、医師が意思決定の中心となります。例え複数の選択肢が想定されても、医師が望ましいと判断した結果を話すだけで、患者に選択肢を選ぶ能力がないという想定で、患者にはその機会を与えないものです。

 これに対して、シェアードディシジョンモデルでは、医師は提供する情報を制限することはなく、患者の意思決定に必要な情報を提供しようというものです。提供する情報は、例えば複数の選択肢であり、それぞれの利点や起こり得るリスクについてもです。そして、医師と患者が話し合いを重ねて、医師と患者で意思決定が行われます。

 さらに、インフォームドディシジョンモデルでは、医師から提供される情報量が多いのは同じですが、医師と患者で一緒に決めるのではなく、患者は幅広く医師以外からも積極的に情報を収集し、自分で意思決定を行うというものです。

 これらの方法のうち、どれが望ましいのでしょうか。それは最初から決まっているものではないようです。患者や市民の立場からすると、意思決定の仕方にも、これらの選択肢があることを知り、自分にとってどれなら一番納得がいき、安心で満足のいく方法なのかを選べるというのがよいのかもしれません。確かに、とても信頼できる医療者にめぐりあえれば、パターナリズムでいいのではないかと考えるかもしれません。しかし、そこで信頼できる医療者とは、コミュニケーションをよく取る医療者であるということが多いのではないでしょうか。従来は、医師が患者によかれと思って決めるパターナリズムモデルが多くとられていました。しかし、最近では、医師が多くの情報を患者に提供し、医師と患者が多くコミュニケーションをとって一緒に決めて行くというシェアードディシジョンモデルへと移行してきているのです。

2. 人々の意思決定を支えるものとは?

医療サービス現場の意志決定

1) 患者の意思決定を支援する方法

 パターナリズムモデルからシェアードディシジョンモデルへの移行に伴い、情報提供や意思決定の支援のための取り組みが盛んになってきています。例えば、患者の自己学習を支援する「病院図書室」や「患者情報室」の設置、そこで情報検索を支援する専門員の配置があります。それらを推進して、患者が学べる場所の一覧を作っているサイトとして患者図書室プロジェクトや「いいなステーション」の全国の患者情報室一覧などがあります。

 また、患者が自分で診療の記録を見られるような電子カルテや、自分で持ち運べる「私のカルテ」のような医療者と同じ情報をいつでも見られるようにする方法もあります。日本医療機能評価機構による病院機能の評価項目でも、診療に関する情報が患者と共有されていることが入っています。通常の時間外の医療者と患者の情報収集・交換・共有の場としての「患者会」も次第に活発になってきています。「医療の質が高い病院」あるいは「いい病院」というのは、患者が自分の体や病気、日常生活上の注意などについて、自分で考えて意思決定することを支援する病院ということがいえるでしょう

2) 個人にカスタマイズされた健康情報と意思決定

 専門的な知識がなかったり、医療を受けた経験の少ない人々にとって、収集した情報や医療者から提供される多くの情報から適切なものを選んだり整理したりするのは難しい場合もあると思います。医療者が患者に提供する情報のあり方の一つとして、各患者の健康維持・促進により効果的な情報が、その人専用にカスタマイズされた状態で提供されるテーラリング(Tailoring)があります。その様な情報を受けることで人々は意思決定に迷うことなく、自分にぴったりの治療やサービスを受けることができると期待されています。

 テーラリングとは、元は英語で洋服を仕立てること、と言う意味ですが、健康・医療の世界では、個別に調整し対応する、という意味で用いられるようになってきています。以前からテーラリングが行われてきたのはその人だけが持つ遺伝子を対象とした遺伝子治療があります。それが次第に、健康・医療サービス全体を通じて、個人に向けてカスタマイズされ提供されるという意味へと広がってきています。特に、サービスの提供側(専門家や情報を発信する人)と受け取る側(患者や市民)の相互作用、交流のありかたにおいてカスタマイズされることが必要と言われています。コンピュータの普及によって、ソフトウェアやウェブによるコミュニケーションが行われるときに、多様な個人特性の組み合わせと、その組み合わせに対応した健康・医療に関する情報のやり取りがプログラム化されることで、特にカスタマイズされたコミュニケーションが実現しやすくなる、とも言われています。

 各個人に合わせてカスタマイズされた情報を提供するテーラリングは、個人の意思決定を容易にするのに必要な情報を揃えて患者に提示すること、つまり、膨大な情報の中から意思決定に必要な情報を与え、それを支援するものであるといえます。

3)システムによって支援される意思決定

 これまで、患者や市民が治療や健康法について情報を収集し意思決定を行うプロセスやそのための支援などについて述べてきました。ここで紹介するのは、医療従事者による意思決定を支え、医療の質の向上させるための意思決定システムというものです。コンピュータプログラムなので、人々の考えや意思とは独立した意思決定が可能です。

 簡易な意思決定支援システムの利用数とその精度は年々増加しています。それらは例えば、投薬量の算定やICUでの静脈点滴量の制御、電子心拍計の読み取りや不整脈患者のモニタリング、また医学文献から関連記事を検索することなどに役立っています。すでにいくつかのアプリケーションは診断を下したり、治療法を決めたりすることもできるようになっており、改良を加えることで将来にはさらに頻繁に用いられるようになると思われます。管理経営による医療の効率化の拡大(ことに北米で)に伴って、意思決定支援システムや電子カルテを含めた他のプログラムや装置・器具の利用は、その重要性を増しつつあります。

 意思決定支援システムは、患者の健康やQOLに影響を及ぼすため、その利用に関しては、「なぜ」また「いつ」利用されるべきか、「どのような利用法」で、また「誰によって」利用されるべきか、といった倫理的問題を配慮する必要があると思われます。

3. 意思決定が難しい場合の倫理的判断

 このように、意思決定の方法として何を選ぶのかが難しい場合には、倫理的判断が必要になります。倫理的判断に対するものとして臨床的判断がありますが、これらは意思決定を行う際に何を判断の軸とするのか、道徳性や臨床的な優先事項のうち何を重要視するかによって異なるものです。

 これまでお話してきた意思決定は、患者自身によって行われるもの、医療の質向上につながる医療者によるもので、判断する主体の存在がはっきりとしていました。しかし、意思決定が行われる場合には、患者本人や当事者が意思決定を行えず医療者にも決めることができない状況もあります。それは本人が自己決定を行えない状況、例えば子供が自律して決定を行えず、親など周囲の人による代理の意思決定が行われる場合などには、多くの人が考えて本人に良いと思われる判断のために、社会的な道徳に基づいて意思決定が行われることが望まれます。

 人々が他者に関する意思決定に関わる際、例えば本人が自己決定できない場合に代わって行う決定には、その決定が道徳性に沿ったものであるかの判断が重要です。医療における重要な倫理的決定の多くは、人間の出生や終末期に関わるものです。例えば、重症障害新生児を例に挙げると、極端な早産や先天性異常によって、生き延びる可能性がごくわずかしかない新生児の延命を試みるか、死んでいくに任せるかについて、他者である周囲の人々は、どのような治療を施すかという臨床的な決定に加え、どうすることが本人の望みにかなうのかということを含めた倫理的な決定を行う必要があるのです。社会の一員として、これらに関する倫理的判断について日頃から、あなたはどのような判断が望ましいかを考え、それらの考えが倫理的判断に反映されていくことが必要でしょう。

(吉川真祐子、瀬戸山陽子、戸ヶ里泰典、中山和弘)

2013年12月 1日

健康情報とコミュニケーション

1. 健康情報のコミュニケーションの難しさ

コミュニケーションと健康

 

 あらゆる情報のやりとりは、さまざまなコミュニケーションの方法をとおして行われます。健康情報についての身近な例として、「家族や知人が病気になる」「健康食品に関心を持つ」「病院に通院する」などの場合を想像してみて下さい。このような時、私たちはそれらの情報を得るために、市民、患者、医療者などの立場から、友人や医療者にたずねたり、ネットで情報を探すなどのコミュニケーションを行うはずです。

 そこで、コミュニケーションがうまくとれれば、適切な情報の受け取りや行動につながる可能性が認められています。しかし、健康・医療情報はふだん聞き慣れない専門用語を含むなど特有の難しさがあります。さらに、それらをやりとりするコミュニケーション場面の影響を受けて、特徴ある問題が生じうることが知られています。以下にご紹介します。

1)健康・医療情報の特徴

 まず、健康・医療情報自体が持つ特徴について考えてみましょう。健康・医療情報は、マスメディアやインターネットの発達により、誰でも容易に入手できるようになりました。しかし、様々な媒体や方法によって提供される医療情報は、医療の専門用語や統計用語(割合による表現など)を含み正確に理解することが難しいため、一方的な情報提供になる恐れがあります。

 健康・医療情報は、①文章が長く複雑である、②用語が難しい、③受動態・能動態の使い分けが必要になる、④リスクやリスクファクターの基礎知識や数学の基礎知識が必要になる、などの特徴があります。さらに、話し言葉と書き言葉では、文章の構造や機能が違うため、それぞれの特徴を踏まえて、使い分けて使用する必要があります。また、印刷された文章では、文と文のつながりや関連性が複雑になることにより、さらに解釈が難しくなる場合があることが知られています。

 

2)コミュニケーションとは?

 そこで、わかりやすさに配慮したコミュニケーションを検討することが重要になってきますが、そもそもコミュニケーションとは何か考えてみます[1,2]。
 すでに、「1.健康のためには情報に基づく意思決定を」のところで、「情報」は「データ」+「価値」であるという話をしました。データと価値を他者に伝達する、すなわちコミュニケーションをとるにはどのようにすればよいでしょうか。データは、直接口頭で伝えたり、インターネットなど様々なメディアを通したりして伝えることができます。そのとき問題になるのは、それに対する価値づけ、意味づけです。人はそれぞれ、過去の経験や歴史といったその人が育った社会や文化に強く影響を受けて生きています。データをどう価値づけるかは、過去の経験に基づいて行われるため、それらが異なれば価値づけも異なるはずです。
 したがって、コミュニケーションは、情報の送り手と受け手で、それまでの経験に共通点がなければ成立しません。コミュニケーションという英語の本来の意味は、お互いの「共通項」をつくること、情報を伝えたり交換したりして「共有」することです。それができるためには、コミュニケーションのための「前提」が必要だということです。
 コミュケーションの前提として、共通言語、社会的ルール、知識、コミュニケーションの目的などがあげられます。

コミュニケーションとは?

(1)共通言語

  そもそもコミュニケーションは、共通の言語がなければ難しいですし、身振り手振りでも、同じ意味をあらわすとは限りません。例えば、首を横に傾げるしぐさは、日本では、否定や疑問の意味に使われますが、インドでは「Yes」という意味になります。
同じ日本語であっても、地域や年代によって異なり、また、職業や職場によってもそうです。医療関係者を長く続けている人にとって、当たり前になっている専門用語も、そうでない人には全くわからないものも多くあります。このような専門家以外の人には通じない言葉は、「ジャーゴンjargon」と呼ばれます。問題は、習慣化してしまうと、そうだと気が付かなくなることです。

(2)社会的なルール

  また、前提には、人間関係における役割や立場などに応じた社会的なルールや規範などがあります。教員と学生、上司と部下、親と子、先輩と後輩など、その関係に合わせて行動や態度が決められています。敬語を使わなくてはならない場面、気配りをしなくてはならない場面、その場に合った服装や態度などです。医療者と患者も例外ではありません。まだまだ、患者が医者に従わなければならないという場面も見られるかもしれません(詳しくは、4)情報と権力のところでお話します)。お互いがそこで、どのような役割を果たすのかについての共通の認識が求められるところです。これが食い違っていれば、コミュニケーションはうまくいかないでしょう。

(3)知識

  さらに、コミュニケーションに必要な「知識」があります。お互いが「常識」と思っていたことの違いによってコミュニケーションがうまくいかないことは、よく経験することです。専門家は知識が豊富ですが、そうでない人が知識に乏しいのは当然で、知識に差があることを前提として対処しないと理解しあうことはできないでしょう。また、専門家であれば何でも知っているというわけではなく、むしろ専門のこと以外はほかの人よりも知識が少ないということも多いので注意が必要でしょう。

(4)コミュニケーションの目的

 そもそも、コミュニケーションの目的が違う場合も、通じ合うことができません。たいていの目的は、知識や情報の共有そのものです。しかし、それだけではないのです。
 例えば、自分の意図通りに相手に影響を与えることです。相手の考え方や行動、感情などに変化を与えるもの、そのように働きかけたり、促したりするものです。説得や交渉、命令や強制などが含まれます。ただの情報共有だと思っていることが、説得になっていないか注意が必要です。知らぬ間に、説得している立場になっていたり、説得されている立場になっていることもあります。
 また、お互いを理解したり、仲良くなったり、関係をつくるために行われるもので、コミュニケーションそのものを、目的としている場合です。これは、お互いの前提を知ることでもあります。それを確認することで互いの育った社会や文化を知りあい共有するのです。そうすれば、そのあと、情報を手に入った時に、伝えられる相手かどうか、伝えた方がいい相手かがわかります。これは、互いに自分自身の情報を伝えあうことでもあります。

 ただし、コミュニケーションにおいては、目的と違って、意図せずに伝わることも多くあります。講義中や会議中での私語、部屋を出たあとの廊下での噂話など、本人が意図しないものが周囲に伝わっています。したがって、自分の情報提供が、目的以外の伝わり方をしていないかにも配慮が必要でしょう。
 このように、コミュニケーションとは情報を一方的に伝えることではなく、共有することであり、それが成り立つためには、その目的が何かを確認し、知識の差を確認しつつ、ともに理解しあえる言葉を用いることが必要だということです。

3)情報の二面性

 次は、健康情報は、その受け手がそれをどのように受け入れたかによって、行動に違いが生じるという話です。健康情報は、行動を促すことと、行動を妨げることの両方向に作用する可能性があります[2]。

 健康教育の領域では、健康に不適切な行動を避けるために、以前から、病気に対する恐怖感を生じさせるメッセージを提供して適応的な対処行動を促すことが行われてきました。それは、言い換えれば、おどしです。

 例として、ある病気につながるような問題のある健康行動を回避させるために、その病気に対する恐怖感を生じさせるポスターを提示したとしましょう。そのポスターを見た人たちは、その病気の深刻さや早期に予防することの重要性について理解できたとしても、必ずしも適応的な行動(予防行動など)をとるとは限りません。

 例えば、「たばこをやめないと肺がんにかかって苦しい思いをしますよ」というように、キャンペーンなどによって勧められた行動(禁煙)をとらなかった場合に生じる好ましくない健康への影響(肺がんになる)について、自分自身のこととして恐怖感を持つようなメッセージが送られるとします。その結果、以下の2つの行動に結びつく可能性があります。

(1) リスクを避けるために勧められた行動をとる(脅威のコントロール)
(2) 恐怖感に圧倒されて、そのことについて考えることをやめてしまって勧められた行動をとらない(恐怖感のコントロール)。

 前者はメッセージが受け入れられた適応的な行動、後者はメッセージが拒絶されて不適応な行動だと考えられています[3]。

 適応的な行動が選択されるためには、キャンペーンのメッセージとして、そのキャンペーンを見た人が恐怖感を持つような内容とともに、その人がリスクを減らすために勧められた対処方法が利用でき、その方法がリスクを減らすために有効であるという内容を含めることが重要であると考えられています。

 このように、情報提供者が情報の伝達手段や言葉づかいに十分配慮して情報提供を行っても、それを受け取る側においては期待と反対の行動(不健康な行動)につながる可能性があることが知られています。

4)情報と権力

 さらに次は、コミュニケーションを行う当事者間の関係性が、情報伝達に影響を及ぼすことがあるという話です。特に、健康・医療の専門家、例えば医師と、情報を持たない一般人の患者との間で行われるコミュニケーションは、両者の力関係の不均衡から、健康・医療情報が医師から患者への一方向性の伝達になりうることが知られてきました。ここでのキーワードは「権力」です。

 権力(power)とは一般には、他人を支配し従わせる力を意味します。医療者と患者間の関係性について、その力関係が医師側に偏っているとコミュニケーションがうまく成立しないことが知られてきました。

 かつて、医療者と患者の関係は、医師が治療を決めて患者は医師の決定に従う関係性でした。このような関係性は「父親が自分の子どもに対してとる行動のように、権威ある立場の者がその善意に基づいて他方を一方的に保護・指導するという考え方」(パターナリズム、あるいは父権主義)によって説明されます。

   患者の意思決定能力が不十分である場合には、代理決定を適用するしかない場合もあると思われます。しかしそれ以外の場合には、医療の知識や技術を持った医師が患者の治療の意思決定の主導権を持つことは、結果的に、医師と患者間の対等でない力関係につながりました。そして、場合によって患者が知りたいと思う自分自身の病状や予後についてさえ尋ねられない・決められないという状況を生んできました。

 その後、自己決定権を尊重するインフォームド・コンセントの考え方や、費用を支払ってサービスを購入している消費者の権利を尊重する消費者運動が高まり、次第に患者の権利が尊重されてきました。また、根本的なこととして、医師と患者の関係は知識や立場の違いはあるにせよ、人として対等でなくてはならない、という考え方も強まってきました。このように、医療者と患者の関係は医療者主導の関係から、医療者と患者が対等な関係へと変化しつつあります。

 しかしその一方で、医療者と患者が対等な関係に変化しつつあっても、患者にとって医療機関で医療者から受ける指摘は、強制力を伴っているようにとられる場合があることも知られています。医療者のアドバイスは、患者にとっては「従わなくてはならないこと」ととられたり、その結果、「言われた通りにできなくてつらい」という感情を引き起こすことがあります。

 医療者はまず、自分たち言動が、意図せず患者に及ぼす影響をについて知り、注意する必要があるでしょう。

 では、患者として、治療の意思決定場面などで医療者と対等な関係を築くためには何ができるでしょうか。まず、対等なコミュニケーションをするための力をつけることが重要です。そのような力を高めるためには、基本的な医療情報やエビデンスを入手し理解するとともに、そのような情報を活用するスキルや能力を向上させることが必要だと考えられます。

2. ヘルスコミュニケーションとは?

ヘルスコミュニケーションへの着目

 これまで、健康情報の持つ特有の難しさや、それらの情報を使ってコミュニケーションする時に問題になることなどをご紹介しました。ここで見られたように、情報を伝える時には、情報を出す側、受け取る側の前提や立場の違いがあり、情報を出す側が意図するように、情報を受け取る側に伝えることは意外に難しい問題があります。健康情報をわかりやすく共有するためには、それなりの工夫や方法が必要だと考えられます。

 こうした背景から、最近は、健康情報のコミュニケーションとしての「ヘルスコミュニケーション」に注目が集まっています。ヘルスコミュニケーションとは、意思決定に役立つ健康情報をわかりやすく伝える方法ということができるでしょう。

 ヘルスコミュニケーションの定義として注目するものの1つに、米国保健社会福祉省(日本の厚生労働省に相当)によるものがあります。
 「個人やコミュニティが健康のために意思決定できるよう、情報を提供したり影響を与えるコミュニケーション方法の研究とその活用」とあります。
 米国では健康格差が存在し、その格差が解消しない理由の1つとして、健康情報が伝わらない人々がいることが指摘されてきました。一方、健康情報が適切に伝わることは、病気の予防や日常的な健康の維持、病気の効率的な改善をもたらすことが期待されます。
 そこで、米国における健康格差を解消するためには、健康状態の悪い人達にいかに健康情報を効果的に伝えるかが鍵であると考えられてきました。米国は、国として達成すべき健康水準の目標を立て、そのために必要な手段の検討や評価を行っています。それが、国民の健康に関する指針である「ヘルシーピープル2020」[4]です。この中では、ヘルスコミュニケーションはIT技術の活用とセットで目標が立てられています

 そこでは、次のような内容があげられています。

(1) 医療従事者と患者のシェアードディシジョンメイキングのサポート
(2) 個人に合わせたセルフマネジメントツールと資源の提供
(3) ソーシャルサポートのネットワークをつくる
(4) 対象に合わせてつくられた(tailored)、正確で、アクセスしやすく、行動に移しやすい健康情報の提供
(5) 医療や公衆衛生の専門家によるIt技術の有意義な活用と健康情報の交換の促進
(6) 健康リスクや国民の健康の緊急事態に対して迅速に情報を得た活動ができるようにする
(7) ヘルスリテラシーの向上
(8) 文化的な多様で手が届きにくい人々につながるための新しい機会を提供する
(9) 健康な行動をもたらすことができるプログラムや介入のデザインにおけるしっかりした原則を提供する
(10) インターネットとモバイルによるアクセスを増加させる

 なかには、このサイトでも取り上げているシェアードディシジョンメイキング、ソーシャルサポート、ヘルスリテラシーなどが登場します。日本でもヘルスコミュニケーションの研究とその活用が進められる必要を感じると思います。




[1] 池田謙一:コミュニケーション 社会科学の理論とモデル5.東京大学出版会,2000.
[2]:深田博己:インターパーソナルコミュニケーション-対人コミュニケーションの心理学-.北大路書房、1998.
[3] Witte, K. : Putting the fear back in fear appeals: The extended parallel process model. Communication Monographs, 59, 329-349, 1992.
[4] U.S. Department of Health and Human Services: Health Communication and Health Information Technology. Healthy People 2020. http://www.healthypeople.gov/2020/topicsobjectives2020/overview.aspx?topicid=18



                                                      (中山和弘、田口良子)

2013年11月29日

保健医療の専門家に求められること

 ヘルスリテラシーが低いことは、健康のためによりよい意思決定ができなくして、よりリスクの高い行動を選ぶことに結びつきます。そのため、健康を損なったり、健康管理ができなかったり、入院が増えたりします。しかし、この現代社会において、健康でいるためになぜヘルスリテラシーが必要になってきたのでしょう。喫煙、運動不足、お酒の飲み過ぎ、ファストフード、ストレスなどは、この現代が生み出してきたもので、このようなリスクファクターが増えたことで、行動を変える必要が出てきたわけです。また、医療が高度化して、1人ひとりにあわせた治療やケアの選択肢が増えることで、それはますます複雑で簡単には理解しにくいものとなっています。
 つまり、保健医療から、健康のために1人ひとりに必要なものを選ぶように要求されるようになったことで、1人ひとりがそれを選ぶためのスキルや能力が必要になり、求められるヘルスリテラシーはますます拡大するということが起こっているのです。言い換えればヘルスリテラシーは、個人と保健医療との相互作用によって必要になってきています(図)。

ヘルスリテラシーの向上

 図1. 個人と保健医療の相互作用でヘルスリテラシーが求められるように

 したがって、保健医療の側から、わかりやすく情報が提供されて、自分のあった意思決定の支援がされれば、求められるヘルスリテラシーも少なくなるわけです。もちろん、1人ひとりが健康のためのスキルや能力を身に付けておけば、健康のリスクに直面してから急にヘルスリテラシーを求められることもありません。どちらのアプローチも必要です。
 このようにみると、ヘルスリテラシーは、市民や患者にだけあてはまるものではありません。いかに相手に会ったわかりやすい情報が提供できて、うまく意思決定の支援ができるかの能力は、保健医療の専門家としてのコミュニケーション能力であり、ヘルスリテラシーと呼ぶことができるでしょう。実際、ヘルスリテラシーの定義には、保健医療を提供する人の能力として、患者や市民とわかりやすくコミュケーションができて、健康について学んでもらい、自分で問題を解決できるように支援する能力を入れるようになってきています。
 ヘルスリテラシーの向上のためには、市民や患者が自ら学ぶこと、互いに学びあうことも可能でしょうが、その支援を含めて保健医療の専門家がすべきことは多くあると思われます。ヘルスリテラシーへの取り組みを早くから始めているアメリカの例を見てみましょう。



アメリカのヘルスリテラシー向上のための取り組み

 2010年にはアメリカの保健福祉省が"National Action Plan to Improve Health Literacy"を発表しました。
 そこでは、次の2つの原則があげられています。

すべての人が、情報を得た意思決定(informed decisions)ができるための健康情報を得る権利を持つ

保健医療サービスは、わかりやすく、健康、長寿、QOLのためになる方法で提供されなければならない



そして、次の7つのゴールを提示しています。

1.正確で、アクセス可能で、行動に移せるような健康と安全についての情報をつくって広める
2.健康情報、コミュニケーション、情報を得た意思決定(informed decision- making)、ヘルスサービスへのアクセスの向上に向けて、ヘルスケアシステムの変化を推進する
3.正確な、基準に基づいた、発達上適切な健康と科学の情報を、育児期から大学レベルの教育までを通したカリキュラムに組み入れる
4.コミュニティにおける、成人教育や英語教育と文化的にも言語学的にも適切な健康情報サービスを提供する地域の努力をサポートし拡大する
5.パートナーシップを築き、指針をつくり、政策を変化させる
6.ヘルスリテラシーを向上させるため、基礎研究と実践や介入の開発、実施、評価を増加させる
7.エビデンスに基づいたヘルスリテラシーの実践や介入の普及と利用を増加させる

 そして、それぞれのゴールの達成のために、実際に何をするのか、行動の戦略が多く上げてあります。ゴールの2番目にある保健医療の専門職向けの戦略では、様々なコミュニケーションを使うことを推奨し、患者が健康情報と治療や検査などに関連するリスクとベネフィットのトレードオフ(何かを選ぶことは何かを捨てることになること)を理解しているかを確認することがあげられています。
 また、患者が治療のプロセスのあらゆる段階で、情報に基づいた意思決定ができるように患者中心のテクノロジーを使うこと、それにはソーシャルメディアを含めて、医療チームと情報へのアクセスを拡大するとしています。アメリカでソーシャルメディアといえば、facebook、Twitter、ブログ、YouTubeなどを指しますが、これは24時間いつでもつながっていて、点で関わりがちな保健医療の専門家を線で結ぶことが可能になっています。アメリカではメイヨークリニックがリードする形で多くの有名病院がソーシャルメディアを活用しているのが現状です。



保健医療の専門家によるわかりやすいコミュニケーション

 アメリカ医師会のヘルスリテラシーについての医師向けマニュアルがあります[3]。ヘルスリテラシーが低と考えられる人に対するコミュニケーションの方法として、次の6つのステップをあげています。それぞれの内容について簡単に紹介したいと思います。

1ゆっくりと時間をかけること

 コミュニケーションはゆっくり話したり、もう少しだけ時間をかけることで改善するといいます。アメリカのいわゆる「かかりつけ医」(primary care physician)のデータでは、医療ミスで訴えられたことのある医師が患者との平均の会話時間は15分なのに対して、訴えられたことのない医師では18分だそうです。たった3分しか変わらないのに大きな違いです。
 患者が気になっていることがわかるまで十分に時間をかけることは、患者中心のアプローチだといえるでしょう。しかし、患者さんにあまりたくさん話してもらうと、診療時間が延びてしようがないと思う医師もいるようです。そこで、それを確かめるためのアメリカの研究があって、患者さんに自由に話してもらったときにかかった時間は、平均で1分半程度だったそうです。それほど長くはかからないことがわかります。
 日本でも、まったく同じ数値があてはまるかはわかりませんが、自分の気がかりなことについて全部説明するのに3分あれば足りるような気がします。

2わかりやすい言葉、専門用語以外を使う

 医師が日常的に同僚と話している言葉は、医学教育を受けていない人には理解できないでしょう。お茶の間や家族の間で話されるような言葉を使うということです。例えば次のようなものです。
 「良性」→「がんではない」、「肥大」→「大きくなっている」、「脂質」→「血液の中の脂肪」、「経口」→「口から」
 日本でも、このような病院で使われる言葉をわかりやすくするための提案は、国立国語研究所「病院の言葉」委員会が行っています。代表的な57の言葉について、分かりやすく伝える例を,詳しく示してあります。
 例えば、つぎのものです。

1.イレウス 2.エビデンス 3.寛解 4.誤嚥 5.重篤 6.浸潤 7.生検 8.せん妄 9.耐性 10.予後 11.ADL 12.COPD 13.MRSA

このサイトでも紹介している「エビデンス」については、次のように書いてあります。

まずこれだけは

証拠
この治療法がよいといえる証拠

少し詳しく

 「この治療法がよいといえる証拠です。薬や治療方法,検査方法など,医療の内容全般について,それがよいと判断できる証拠のことです」

時間をかけてじっくりと

 「この治療法がよいといえる証拠です。医療の分野では,たくさんの患者に実際に使って試す調査研究をして,薬や治療方法がどれぐらい効き目があるかを確かめています。その調査研究によって,薬や治療方法,検査方法などがよいと判断できる証拠のことです」

57の言葉について見てみてはいかがでしょう。

3絵を見せたり描いたりする

 「百聞は一見にしかず」の言葉通りで、文字や言葉よりも視覚的なイメージは、わかりやすいだけでなく記憶に残りやすいことがわかっています。人の顔を覚えていても、名前がわからないことがあるのが、その例です。しかし、絵や写真を見せれば、書いたり話したりしなくていいというわけではありません。

41回の情報量を制限して、繰り返す

 一番重要ないくつかの情報に絞り込んでコミュニケーションを取ることです。その方が記憶に残りやすく、患者もそれに基づいて行動できます。例えば、2型糖尿病の診断について伝える時は、まず、血液中の糖のレベルが高いので、それを下げるために薬を飲み始めましょうという話が最も重要なことです。生理学的な話や自己管理ができるかどうか、合併症などについての話は大事ですが、まず何より治療を始めることがメインです。
 また、情報は繰り返すと記憶に残りやすいものです。できれば、医師、看護師、薬剤師、栄養士など、複数の職種で行うのがよいでしょう。
 資料やプリントを使えば、情報を繰り返して提供することになります。情報の大切さを伝えるためにそれを読み上げるのもよいでしょう。資料もなるべくシンプルなものを作りましょう。

5「ティーチバック(teach back)」

 保健医療の専門家が話したことを、患者が理解できたかを確認する方法として、「ティーチバック(teach back)」というテクニックを使います。患者に話したことを、患者に説明をしてもらって、うまくできなければもう一度、別の方法で説明するというものです。よく使われる「わかりましたか」という質問はしてはいけないそうです。わかっていない場合でも「はい」と答える場合があることがわかっています。
 例えば、「お薬をどのように飲んだらよいか説明してもらえますか。私がちゃんと説明できたかを確認したいのです」「喘息の吸入器の使い方を見せてもらえますか。私がきちんと教えられたか確認したいのです」「帰ったら、奥さん(ご主人)に、病院で何と言われたと話しますか」と質問します。
 「ティーチバック」は、研究で効果が認められていて、患者が理解できるようになるだけでなく、患者によい結果(糖尿病患者が血糖値をうまくコントロールできるなど)をもたらします。
 図にするとつぎのようなもので、患者の理解が確認できるまで患者に合った新たな説明を繰り返すということです。

ヘルスリテラシーの向上

6質問しても恥ずかしくない環境をつくる

 わからないことについて気軽に質問できる雰囲気が大事です。そうでないと、多くの患者が、"ばか"だと思われないようにとか、医師などに迷惑をかけないようにと、わかったふりをします。例えば、「医学的なことは難しくてわからないことが多いので、わからないことがあれば何でも気軽に聞いてください」と話すことです。それから、患者が思っていそうな質問について聞いてみます。
 また、家族や友人に同席してもらいたいかを聞くという方法もあります。ヘルスリテラシーの低い人は、医師が言ったことについて、あとで家族や友人に聞くことが多いという研究もあります。

患者が何を質問すればいいかわかりやすいように、重要な3つの質問に絞り込んだ「Ask Me 3(アスク・ミー・3)」というものがあります。これをポスターやパンフレットで紹介するのです。それは次の3つの質問です。

1.私の一番の問題はなんですか? (What is my main problem?)
2.私は何をする必要がありますか? (What do I need to do?)
3.それをすることが私にとってなぜ重要なのですか? (Why is it important for me to do this?)

ヘルスリテラシーの向上



 以上が6つのステップですが、その前提ともいえるものとして、つぎのものが必要であると考えられます。

すべての患者や市民が理解できない状況にあると想定する標準予防策

 標準予防策(スタンダードプリコーション)の考え方、それは、すべての患者に接するとき、感染している事実の有無にかかわらず、感染を想定して行動するものです。これと同様に、すべての患者や市民は、健康情報を得たり、理解することが難しいと想定するということです。どんな人でも、病気のときや、痛みなどの症状があるときには、しっかり考えられないですし、それは家族でも同様です。人の話をゆっくりと聞いて理解できる状況かどうかを常に考えておく必要があるということです。


学歴があればヘルスリテラシーがあるという思い込みを捨てる

高い学歴があるとしても、保健医療の専門家が使うなじみのない言葉をすべて理解することは難しいものです。また、たとえ理解できたとしても、とくにはじめての経験であれば、自分にとって一番適切な方法を選んだり、すばやく行動に移すことは決して簡単なことではないでしょう。


ヘルスリテラシーが低い人は簡単に見分けられないことを知る

ヘルスリテラシーが低い人でも、多くの人は、話もしますし、印刷物にも目は通しますし、わかりましたということもあります。それは、職業にもよらず、医療関係者のなかにもそのような人はいてもおかしくないのです。



わかりやすい健康情報サイト

 専門家からの情報提供は、今やWebが中心的な役割を占めるようになり、アメリカではとくに、多くの情報が国の専門機関から提供されています。日本のように、Webで検索すると怪しげなサイトに誘導されることが多くなく、国立衛生研究所(NIH)や国立医学図書館(NLM)など政府系の研究機関のサイトが確実に上位にヒットするようになっています。市民に正しくわかりやすい情報を提供するための努力を続けているからです。
例えば、アメリカ厚生省(HHS)は、わかりやすい市民向け健康情報サイトHealthfinder.govを開発、公開しています。そして、このサイトを開発していく過程で、ヘルスリテラシーが低い人でも理解できるように、利用者を対象とした評価研究を重ね、わかりやすい健康情報サイトの作り方のガイドライン"Health Literacy Online"
を作成して、公開しています。そこで紹介されていることは次のようなことです。

リテラシーの低い人達は、3行以上にわたる段落の文章は読み飛ばす、キーワード検索はしない

開発からのあらゆる段階でユーザを巻き込むことで、繰り返しテストし、修正すること

否定的な表現、Don't, Unless, Not, Shouldなどは使わず、具体的にどうするとよいのか、すぐに行動に移せるコンテンツを作成すること

情報の正確さを保証するために、すべてのコンテンツにはレビューワー、誰が査読したのかがわかるようにすること

 そこでは、情報を受け取る人たちを対象とした調査の必要性が強調されています。対象へのインタビューやグループで話し合ってもらったりすることで、対象のニーズやメンタルモデル(頭の中にある「こういうものだ」というものの見方や考え方)を知り、それにあわせることが必要です。健康情報については、健康問題についての情報を探しているのか、それを抱えているかどうかを知りたいのか、それを予防したいと思っているのかでは大きな違いです。なるべく、1人ひとりに合った個別性の高い情報で、インタラクティブ(対話形式でできるもの)なものがよいといいます。
 まず、試作品を作って、使ってもらって、ユーザビリティ(使いやすさ)をチェックします。「それは何?」「必要なの?」「私は何をすれば?」という流れだと理解しやすいようです。「わかりやすさ」「興味が持てること」「すぐに行動に移せること」の3つが大切で、これがそろっていると自信を持って行動に移せるといいます。



信頼できる健康情報サイト

 また、アメリカの国立医学図書館(NLM)は、市民向けの健康情報を豊富に収集したサイトMedlinePlusを作成、公開しています。わかりやすく整理されたリンク集が中心の内容で、信頼できる研究機関などのコンテンツが紹介されています。アメリカの生徒を対象として研究では、このサイトの利用が、ヘルスリテラシーの高さと関連していたというものがあります[5]。ヘルスリテラシーが低い人でも、活用可能になっていて、医学用語の理解のしかた、健康情報の評価のしかた、健康アプリの検索、自分が欲しい健康情報メール配信の登録など充実したサイトとなっています。
 日本には、国立医学図書館もなく、症状や病気で検索すると、営利目的のアフィリエイトのサイトが多くヒットするのが現状です。わかりやすいが信頼性はなく結局は商品を販売するサイトにつながってしまいます。日本のインターネット上のがん情報は,半分以上が,信頼できないという報告もあります[6]。アメリカでは、このようなサイトを駆逐するために、政府が優れたサイトを作成しているわけです。日本にも、各大学や研究機関などでわかりやすいサイトが作成されていたりしますが、そこにナビゲートしてくれるわかりやすく統合的なサイトがないことが問題です。このままでは、英語の勉強をしっかりしたほうが早いということになってしまうかもしれません。日本にも、日本版MedlinePlusが欲しいものです。

 また、日本全国の保健所のサイトを分析した研究では、情報発信内容、ユーザビリティ(使いやすさ)、アクセシビリティ(障害のある人が情報を入手できること)は一定していなくて、情報発信者である保健所によってサイトの改善余地があることが指摘されています。保健所のサイトを含めて、一般市民向けのサイト活用へ配慮し、ガイドラインの作成、探しやすさの工夫、利用者のニーズ調査と評価が求められています。

文献
1)Parker R. Measuring health literacy: what? So what? Now what? In Hernandez L, ed. Measures of health literacy: workshop summary, Roundtable on Health Literacy. Washington, DC, National Academies Press, 2009:91-98.

2)U.S. Department of Health and Human Services, Office of Disease Prevention and Health Promotion. (2010). National Action Plan to Improve Health Literacy. Washington, DC: Author. http://www.health.gov/communication/hlactionplan/

3)Barry D. Weiss:Health Literacy and Patient Safety: Help Patients Understand. AMA, 2007. http://www.ama-assn.org/ama1/pub/upload/mm/367/healthlitclinicians.pdf

4)Kentucky Hospital Association: Health Literacy; How to communicate so your patients understand. http://healthliteracyky.org/resources/hlk-how-to-communicate-flier.pdf

5)Ghaddar SF, Valerio MA, Garcia CM, Hansen L. Adolescent health literacy: the importance of credible sources for online health information. J Sch Health. 82(1):28-36,2012. 6)Goto Y, Sekine I, Sekiguchi H, Yamada K, Nokihara H, Yamamoto N, Kunitoh H,Ohe Y, Tamura T. Differences in the quality of information on the internet about lung cancer between the United States and Japan. J Thorac Oncol. 2009;4(7):829-33. 7)瀬戸山 陽子、中山和弘:全国保健所ウェブサイトの情報発信内容とユーザビリティ、アクセシビリティ評価. 日本公衆衛生雑誌、55巻2号、93-100、2008.                                                          (中山和弘)

2013年11月28日

市民や患者ができること

 市民にとって「賢い患者」になることが、医療事故を予防し、質の高い患者中心の医療を実現することにつながります。「賢い患者」になるための重要な要素として、市民と医療者とのコミュニケーションを向上させることが欠かせません。ここでは、日本とアメリカで推奨されている市民向けコミュニケーション向上のための方法をいくつか紹介します。まず、日本で普及が推進されている心構えとして『新・医者にかかる10箇条』を紹介します。

1)新・医者にかかる10箇条

 『新・医者にかかる10箇条』はインフォームドコンセント(医師による説明と、患者の理解・選択に基づく同意)を患者の側から普及することを願ってつくられたものです。これは、NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLによって普及が推進され、医師会、保健所など自治体のホームページなどでもしばしば紹介されています。
 市民が、自分の望む医療を選択して治療を受けるためには、まずは「いのちの主人公・からだの責任者」としての自覚が大切です。そのために、どのような心構えで医療を受ければよいのかを10項目にまとめています。ここでは、医療者とのコミュニケーションにおいて、患者が必要な心構えには、「記録すること」、「伝達すること」、「質問すること」、「責任をもつこと」いう4つの要素が必要であると示しています。

市民や患者ができること

『新・医者にかかる10箇条』

1.伝えたいことはメモして準備
2.対話の始まりはあいさつから
3.よりよい関係づくりはあなたにも責任が
4.自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報
5.これからの見通しを聞きましょう
6.その後の変化も伝える努力を
7.大事なことはメモをとって確認
8.納得できないときは何度でも質問を
9.医療にも不確実なことや限界がある
10.治療方法を決めるのはあなたです

出典 ささえあい医療人権センターCOML(コムル)より

2)患者からの質問の具体例

 質問は実際にはどのようにすればいいのでしょう。
COML(コムル)の『新・医者にかかる10箇条』では、実践編として、検査、治療、くすり、入院、その他の場面で計33の質問を示しています。同様に、アメリカにおいても、医療の質、安全、効率性、有効性の改善に取り組むAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality、米国医療研究・品質調査機構)が『医師にする質問Question To Ask Your Doctor』として具体的な質問を40項目について紹介しています。
これは患者が診療などを受ける場合、場面を選んで事前に質問リストを作成できる機能です。ここでは、健康問題、薬、検査、手術の4つの場面について、それぞれ紹介しています。そこから質問を選んだあとに印刷して、質問用紙として使用できる『Question Builder(クエスチョン・ビルダー)』というコーナーも用意されています。

『新・医者にかかる10箇条』実践編([1]が付いているもの)と 『医師にする質問Question To Ask Your Doctor』([2]が付いているもの、和訳は中山と谷口による)で紹介されている質問例を場面ごとに紹介します。

【健康問題について】
診断は何ですか。[2]
これ以上の検査が必要になりますか。[2]
治療の選択肢には何がありますか。[2]
どれくらいすぐ治療についての意思決定をしないといけませんか。[2]
いくら治療費がかかりますか。[2]
副作用はありますか。[2]
その治療をしないとどうなりますか。[2]
予後の見通しはどうですか。[2]
自宅で特別な助けが必要となりますか。[2]
【検査】
何のための検査ですか。[2]
どこを調べる検査ですか。[1]
検査はどのような方法でおこなわれるのですか。[1][2]
検査はどのていど正確ですか。 [2]
その情報を知るには、この検査しかないのですか。[2]
検査に備えてしなければならないことは何でしょうか。[2]
検査はどのようなスケジュールでおこなわれるのですか。[1]
この検査にかかる時間はどのくらいですか。[1]
その検査はどのような苦痛を伴いますか。[1]
どのような危険がありますか。[1]
検査結果はいつわかりますか。[2]
検査で何がわかりますか。 [1][2]
検査でわかった私の病気はどんな具合ですか。[1]
検査の次のステップは何ですか。[2]
【治療】
治療期間中はどのようなスケジュールですか。[1]
どのような治療ですか。[1]
治療中に何か制約されることはありますか。[1]
どのような変化が期待できますか。[1]
どのような危険がありますか。[1]
その治療を受けないとどうなりますか。[1]
治療後、日常生活に変化が起きる可能性はありますか。[1]
治療後の回復にどのくらいかかりますか。[1]
ほかにどんな治療法がありますか。[1]
【くすり】
何という名前のくすりですか。[1][2]
何に効くくすりですか。[1][2]
ジェネリックにできますか。[2]
このくすりより安くて良いものはありませんか。[1]
安いくすりと比べてどのように効果が異なるのですか。[1]
いつ飲めばいいですか。[2]
どのくらいの量を飲めばいいですか。[2]
いつまで飲む予定ですか。[1][2]
副作用はありますか。[1][2]
避けなければならない食べもの、飲みもの、活動はありますか。[2]
薬を飲むのを忘れた場合はどうしたらよいですか。[2]
このくすりを飲んでいて気をつける症状(副作用)は何ですか。[1]
変わった症状が出たときはどうすればいいですか。[1]
間違って決められた用量以上を飲んでしまったらどうすればよいですか。[2]
再処方が必要ですか。[2]
他の薬やビタミン剤は飲むのをやめるべきでしょうか。[2]
説明書はもらえますか。[2]
【入院】
入院が必要な理由と目的を教えてください。[1]
入院中におこなわれるのは、どのような検査や治療ですか。[1]
入院中に外出や外泊はどのくらいできますか。[1]
予想される入院期間はどのくらいですか。[1]
退院後の生活はどのようになるんですか。[1]
かかりつけ医を紹介してください。[1]
【手術】
なぜ手術が必要なのですか。[2]
ほかに治す方法はありますか。[2]
どんな手術が必要ですか。[2]
これまでこの手術をしたことがありますか。[2]
この手術をするならいちばんよい病院はどこですか。[2]
麻酔は必要ですか。[2]
いつまでに回復しますか。[2]
いつまで入院しますか。[2]
手術のあとにどんなことがおこりますか。[2]
手術を延ばしたり、しなかったりするとどうなりますか。[2]
【その他】
私の病気の原因は何ですか。[1]
日常生活で気をつけることは何でしょう。[1]
(それぞれの場面で)どのくらい費用がかかりますか。[1]

3)これだけは聞きたい質問

 ずいぶんとたくさんの数の質問が考えられるものです。実際には、これほどたくさんの質問はできないかもしれません。これは聞いてみたいというものだけを自分で選ぶのもいいでしょう。しかし、厳選して、これだけは聞きましょうと推奨されている質問も紹介しましょう。
 アメリカのAHRQは、上にあげた質問のコーナーで、つぎにあげる「知っておくべき10の質問」を推奨しています。

1.その検査は何のためにするのですか?
2.あなたはこの治療を何回したことがありますか?
3.結果はいつわかりますか?
4.なぜこの治療が必要なのですか?
5.ほかの選択肢はありますか?
6.どんな合併症が起こる可能性がありますか?
7.私に一番合っている病院はどこですか?
8.何という名前のくすりですか?
9.副作用はありますか?
10.この薬は今飲んでいる薬と併用しても大丈夫ですか?

 さらに要点を絞ったものが次の3つの質問で、これも、アメリカでつくられた「Ask Me 3(アスク・ミー・3)」というものです。

1.私の一番の問題はなんですか? (What is my main problem?)
2.私は何をする必要がありますか? (What do I need to do?)
3.それをすることが私にとってなぜ重要なのですか? (Why is it important for me to do this?)

市民や患者ができること
 患者に提供されるケアの安全性の向上をはかる活動を行うNPSF(National Patient Safety Foundation、国立患者安全財団)が作成したものです。Ask Me 3は医師・看護師・薬剤師といった医療者とのコミュニケーションの際に、患者がこれらの3つの質問に対する答えを理解することを奨励しています。



                          (中山和弘、谷口絵里奈)

2013年11月25日

医療者と患者が一緒に決める方法

 病気や治療のことを医師から告げられた時、驚きや不安でいっぱいになるかもしれません。自分の身に何が起こっているのか、これから何が起こるのかよくわからず予測もたたないと感じるかもしれません。もし、そのような状況で治療や検査について複数の選択肢の中から選ばなければならないとしたら、自分らしい選択ができるでしょうか?

シェアードディシジョンモデルを保健医療の現場で活用するためのステップ

自分らしく納得のいく選択のためには、正しく医療情報を理解しどちらを選んだらどのような結果になるかを理解すると共に、自分が何を大事にしたいかという価値観や好み(プリファレンス)(「どれがよいと思うかについての気持ちや考え」のこと)をはっきりとさせることも必要でしょう。
 治療や検査に選択肢がある場合に、患者の好み(プリファレンス)を踏まえることが大切なのはなぜでしょうか?花子さんの例を見てみましょう。

 花子さん(78歳の女性)は、心臓の病気を抱えて暮らしていました。ある日、乳がんと診断され手術に対する恐怖感を感じていましたが、医師が最もよい方法だと薦める手術に同意し手術を受けました。手術は無事に成功しましたが、手術の後も花子さんは不安と悲しみをずっと抱えていました。  ある日、友達で80歳のみどりさんと話したのをきっかけに、悲しい気持ちがより大きくなりました。みどりさんは、初期の乳がんと診断されたのですが手術を受けていなかったのです。そしてこう言いました。「私は、がんの進行を遅らせるためにホルモン療法を受けているの。もうだいぶ歳だし、がんが全身に広がってひどい状況になるよりも前に、何か別のことが原因で死が訪れると思ったから、手術はしなかったの。」  その話を聞いて、花子さんは、「もっとほかの治療方法についてもきちんと考えていたら、私も手術をしなかったかもしれない」と、とても後悔しました。もう手術をする前の過去には戻れないのです。(Mulley, et al., 2012より改変)

 手術の前に、花子さんが医師からほかに考えられる治療の選択肢についてメリットやデメリットについての説明を受けたり、花子さんが何を大事にして過ごしているかを医師が知り、話し合った上で治療を決定していたら、後悔する日々を過ごさずにすんだかもしれません。

(この例は、手術をしないことを勧めるものではなく、手術を受けるかどうかについて、きちんと情報を得てそれぞれの選択のメリットやデメリットなどを十分に考えることの大切さを理解するための例です。)

 意思決定の3つのパターンのうち医療者と患者が情報を共有して決めるシェアードディシジョンモデルは、意思決定にいたるまでの歩み(プロセス)を含みます。シェアドディシジョンモデルを診察などの医療現場で現実のものとするには、実施しやすい方法を知ることが手助けとなるでしょう。

 3ステップモデル(Elwyn, et al.,2012 )は、チョイストークChoice Talk、オプショントークOption Talk、ディシジョントークDecision Talkという3つのステップを踏む方法です。相互にコミュニケーションを取りながら、患者が正しく医学的情報を理解し、自分は何を大事にして決めたいかをよく考えて、自分らしい決定ができるようにつくられたものです。
 このステップの間、医師または看護師などの医療者が、情報を提供したり、質問に答えたり、患者さんが意思決定に参加できるように励ましたり、希望を聞くなど意思決定のサポートを行います(図1)。

シェアードディシジョンメイキング 3ステップモデル

図1 シェアードディシジョンメイキング 3ステップモデル ( Elwyn, et al., 2012より改変)

 では、どのようにステップを踏むのか、3ステップモデルのそれぞれの内容について見てみましょう。このステップは、医師などの医療者がどう行動するかを示しています。

チョイストーク(選択の必要性についての話し合い)

 チョイストークは3ステップの最初のステップです。具体的には次のような内容を含みます。

選択が必要であるということ、話し合いをして決めるということを患者に伝える。

一番ふさわしい選択のためには、患者の好み(プリファレンス)も考慮するべきだということを伝える。

患者の反応を確認する(関心を持って聞いているか、動揺しているかなど)。

すぐに結論を出さない(患者から医師の薦める方法を尋ねられる場合には、決めるプロセスをサポートすることや、医師が自分の意見ももちろん一緒に共有するけれど、その前にもう少し詳しく選択肢の説明をすることなどを伝える。)

 患者中心の医療を考える場合、医学的診断に加えて、患者の好み(プリファレンス)を治療法の決定に加味することがとても重要です(Mulley,et al, 2012)。Mulleyらの提示する3ステップでは、医師が医学の専門家であるのと同じように、患者には「自分の人生において何を大事にして生きるかを知る専門家である」ということ、チームの一員として決める際に積極的に参加してもらう役割があるということを患者に知ってもらうことを含むので、最初のステップをチームトークTeam talkと表現しています(Mulley,et al, 2012)。

オプショントーク(選択肢についての話し合い)

 オプショントークは3ステップの2番目のステップです。選択肢それぞれの内容を詳しく伝え患者の理解を深める段階にあたります。具体的には次のような内容を含みます。

選択する内容について誤解がないか、患者の理解を確認する。

あてはまる選択肢をリストにして提示する。(場合によっては、積極的な経過観察といった選択肢も含まれる)

選択肢それぞれの医学的方法の違いを説明し、対話の中から好み(プリファレンス)を探る。(特にそれぞれの選択肢のメリットとデメリット、からだ・心理面・人間関係や役割などの社会的な面に起こる影響を伝える。その違いがどう受け止められるかは患者によって違うということも話し合う。)

意思決定の支援ツールを提供する。

まとめと振り返りを行い、理解の確認をする(ティーチバックも活用できる)

ディシジョントーク(決定についての話し合い)

 3ステップモデルの最後のステップが、ディシジョントークです。具体的には次のような内容を含みます。

好み(プリファレンス)に焦点をあて、何が大事だと思うかを尋ねる。

希望があれば、もう少し決めるまでに時間をかけてもよいこと(治療上どのぐらい待てるか可能な範囲による)を伝え、好み(プリファレンス)を引き出す。

決定を先に延ばしたほうがよいか、決定へ移ってよいかを確認する。

決定を振り返ることが、決めるまでのプロセスを終結するのによい方法である。

 ここでは、患者にとって何が重要かを尋ねたり、はっきりと好み(プリファレンス)を引き出すことに焦点をあて、そのうえで決定に移ります。

 中には自信を持って決められる人もいるでしょう。自分の力で情報を得てそれが自分の人生で大事にしたいことと一致していれば、医師による好み(プリファレンス)の確認は必要ありません。しかし、中には患者自身が何を大事にしたいかはっきりできずにいる場合もあるでしょう。そういう場合には、医療者も、患者が何を大事にしたいと考えているのかを聞き理解することが大切です。患者の好み(プリファレンス)を理解できれば、患者の好み(プリファレンス)を踏まえてベストな方法をアドバイスすることができるでしょう。

引用文献
Elwyn, G., Frosch, D., Thomson, R., et al. (2012). Shared decision making: A model for clinical practice. Journal of General Internal Medicine, 27(10), 1361-1367.

Mulley, A. G., Trimble C., Elwyn, G. (2012). Stop the silent misdiagnosis: patients' preferences matter. British Medical Journal, 345, 1-6.

(大坂和可子、中山和弘)

2013年2月24日

自分の価値観を確認して治療を選ぶ

治療や検査の選択肢を知ることがなぜ大切なのでしょう?

 病気の時や検査の時、心配事を抱えて受診するのがストレスになる人がいます。あなたは、医師の説明を黙って聞くことだけで「良い」患者になろうとしていませんか?

 黙ったままでいることが本当に「良い」のでしょうか?
 医師に質問して、選択肢をきちんと理解できれば、自分にとって納得のいく医療が受けられます。

 治療や検査の選択肢をきちんと網羅するためには、「病気について主治医に質問すること」「考えられる治療の選択肢についてしっかり話し合うこと」が大切です。

治療や検査の選択肢の中から1つを選ぶ時、生活の中で大事にしたいことを伝える方法

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 医療はとても複雑です。自力で選択肢を網羅することのできる人もいるかもしれませんが、専門家(医師、看護師、他の医療者)とコミュニケーションを取ることで、一番良い選択肢を見失わずに済むでしょう。
 治療や検査において、それぞれの選択肢にメリットやデメリットがあり、決めるのが難しいと感じる場合、副作用の少なさ、費用、あなたの生活(食べる、眠る、仕事、子育て、趣味など)への影響度なども含めて検討することで、よりよい決定が可能になります。

 生活の中で大事にしたいことを整理できれば、選択肢のいずれかを選んだ結果、あなたが大事にしたいことにどれほど影響があるのかがわかります。これらを、専門家に質問することで、大事にしたいことが損なわれない選択肢はどれなのか、すすめやすくなり、一緒に相談して決めることができます。

生活や人生において重要なこと、自分の価値観の確認の仕方

 生活や人生において重要なこと、自分の価値観は、どのように確認したらよいでしょう?

 ここでは、アメリカの厚生省の機関であるAgency for Health Care Research and Quality; AHRQで紹介されているYour Health Priorities Tool(健康での優先順位を決めるツール)の内容を紹介します。

健康での優先順位を決めるツール

(1)職場や家庭での活動
以下のそれぞれのことを職場や家庭で行うことは、あなたにとってどのぐらい大切なことですか?評価してみましょう。それぞれを「とても重要である」、「重要である」、「どちらかといえば重要である」、「あまり重要ではない」、「まったく重要ではない」の5段階で評価します。
  • 車などを運転すること
  • 集中力
  • 記憶力
  • 家の中を歩き回るより、遠い距離を歩くこと
  • 食器を洗う時間より長く立っていられること
  • メモを取る、PCなどに文字を入力すること
  • 軽い家事(食器洗い、食事の用意、ベッドメイキング)
  • 家事(重労働)(洗濯、庭仕事、風呂洗い)
  • 読むこと(本、論文、記事など)
  • 子どもや親などの家族の世話をすること

(2)避けたい副作用
 治療の中には、あなたが避けたいと思う副作用を生じるかもしれません。以下にあげた一般的に起こりうる副作用を避けることは、あなたにとってどのぐらい大切ですか?それぞれを「とても重要である」、「重要である」、「どちらかといえば重要である」、「あまり重要ではない」、「まったく重要ではない」の5段階で評価します。
  • 気分の落ち込み
  • 体重増加または体重減少
  • 吐き気
  • 頭痛
  • 頭痛以外の痛みや苦痛
  • よく眠れないこと
  • 性的な問題
  • 疲れやすいと感じること
  • 排尿の問題(失禁、頻尿)
  • 排便の問題(下痢、便秘)
 このサイトでは挙げられていませんが、この他にも、治療内容によりある特殊な副作用が生じる場合があります。例えば、以下のようなことが起こる可能性があります。
  • おいしく食べられないこと
  • 自分の外観が変わること(髪の毛、皮膚や爪、体の一部)
自分がこれから受けるかどうか考えている(またはどの治療または検査を受けるか考えている)場合、治療や検査に伴う副作用にはどのようなものがあるのかを列挙して、評価してもよいでしょう。

(3)時間、労力、費用
 治療によって、かかる時間、労力、費用が違います。あなたにとって以下のことはどのぐらい関心がありますか?それぞれを「とても重要である」、「重要である」、「どちらかといえば重要である」、「あまり重要ではない」、「まったく重要ではない」の5段階で評価します。
  • 費用
  • 治療に必要な時間(1回の治療あたり)
  • 治療の技術的な難しさ
  • 治療に必要な日数・期間(開始から終了まで)
  • 治療を始める時や支払の返還に必要な事務処理や書類

(4)友達や家族の助け
  治療中、友達や家族からどんな助けが得られそうですか?(あてはまるものすべてにチェックしましょう。)
  • 友達や家族は、受診の行き返りを助けてくれる。
  • 友達や家族は、私の薬を把握するのを助けてくれる。
  • 友達や家族は、治療中私の心の支えになってくれる。
  • 自分ですべてできると思う。

(1)~(4)の1つ1つを評価することで、生活や人生において重要なこと、自分の価値観の確認しやすくなります。もしここに掲載されている以外に考えたいことがあれば、それも合わせて考えてみましょう。

(大坂和可子、中山和弘)

文献
AHRQ EXPRORE YOUR TREATMENT OPTIONS  It's Your Health http://effectivehealthcare.ahrq.gov/index.cfm/options/

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