4.コミュニケーションと意思決定

医療者と患者が一緒に決める方法

4.コミュニケーションと意思決定

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情報チェックの「かちもない」と自分らしく決める「おちたか」の動画を公開しました
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 病気や治療のことを医師から告げられた時、驚きや不安でいっぱいになるかもしれません。自分の身に何が起こっているのか、これから何が起こるのかよくわからず予測もたたないと感じるかもしれません。もし、そのような状況で治療や検査について複数の選択肢の中から選ばなければならないとしたら、自分らしい選択ができるでしょうか?

シェアードディシジョンモデルを保健医療の現場で活用するためのステップ

自分らしく納得のいく選択のためには、正しく医療情報を理解しどちらを選んだらどのような結果になるかを理解すると共に、自分が何を大事にしたいかという価値観や好み(プリファレンス)(「どれがよいと思うかについての気持ちや考え」のこと)をはっきりとさせることも必要でしょう。
 治療や検査に選択肢がある場合に、患者の好み(プリファレンス)を踏まえることが大切なのはなぜでしょうか?花子さんの例を見てみましょう。

 花子さん(78歳の女性)は、心臓の病気を抱えて暮らしていました。ある日、乳がんと診断され手術に対する恐怖感を感じていましたが、医師が最もよい方法だと薦める手術に同意し手術を受けました。手術は無事に成功しましたが、手術の後も花子さんは不安と悲しみをずっと抱えていました。  ある日、友達で80歳のみどりさんと話したのをきっかけに、悲しい気持ちがより大きくなりました。みどりさんは、初期の乳がんと診断されたのですが手術を受けていなかったのです。そしてこう言いました。「私は、がんの進行を遅らせるためにホルモン療法を受けているの。もうだいぶ歳だし、がんが全身に広がってひどい状況になるよりも前に、何か別のことが原因で死が訪れると思ったから、手術はしなかったの。」  その話を聞いて、花子さんは、「もっとほかの治療方法についてもきちんと考えていたら、私も手術をしなかったかもしれない」と、とても後悔しました。もう手術をする前の過去には戻れないのです。(Mulley, et al., 2012より改変)

 手術の前に、花子さんが医師からほかに考えられる治療の選択肢についてメリットやデメリットについての説明を受けたり、花子さんが何を大事にして過ごしているかを医師が知り、話し合った上で治療を決定していたら、後悔する日々を過ごさずにすんだかもしれません。

(この例は、手術をしないことを勧めるものではなく、手術を受けるかどうかについて、きちんと情報を得てそれぞれの選択のメリットやデメリットなどを十分に考えることの大切さを理解するための例です。)

 意思決定の3つのパターンのうち医療者と患者が情報を共有して決めるシェアードディシジョンモデルは、意思決定にいたるまでの歩み(プロセス)を含みます。シェアドディシジョンモデルを診察などの医療現場で現実のものとするには、実施しやすい方法を知ることが手助けとなるでしょう。

 3ステップモデル(Elwyn, et al.,2012 )は、チョイストークChoice Talk、オプショントークOption Talk、ディシジョントークDecision Talkという3つのステップを踏む方法です。相互にコミュニケーションを取りながら、患者が正しく医学的情報を理解し、自分は何を大事にして決めたいかをよく考えて、自分らしい決定ができるようにつくられたものです。
 このステップの間、医師または看護師などの医療者が、情報を提供したり、質問に答えたり、患者さんが意思決定に参加できるように励ましたり、希望を聞くなど意思決定のサポートを行います(図1)。

シェアードディシジョンメイキング 3ステップモデル

図1 シェアードディシジョンメイキング 3ステップモデル ( Elwyn, et al., 2012より改変)

 では、どのようにステップを踏むのか、3ステップモデルのそれぞれの内容について見てみましょう。このステップは、医師などの医療者がどう行動するかを示しています。

チョイストーク(選択の必要性についての話し合い)

 チョイストークは3ステップの最初のステップです。具体的には次のような内容を含みます。

選択が必要であるということ、話し合いをして決めるということを患者に伝える。

一番ふさわしい選択のためには、患者の好み(プリファレンス)も考慮するべきだということを伝える。

患者の反応を確認する(関心を持って聞いているか、動揺しているかなど)。

すぐに結論を出さない(患者から医師の薦める方法を尋ねられる場合には、決めるプロセスをサポートすることや、医師が自分の意見ももちろん一緒に共有するけれど、その前にもう少し詳しく選択肢の説明をすることなどを伝える。)

 患者中心の医療を考える場合、医学的診断に加えて、患者の好み(プリファレンス)を治療法の決定に加味することがとても重要です(Mulley,et al, 2012)。Mulleyらの提示する3ステップでは、医師が医学の専門家であるのと同じように、患者には「自分の人生において何を大事にして生きるかを知る専門家である」ということ、チームの一員として決める際に積極的に参加してもらう役割があるということを患者に知ってもらうことを含むので、最初のステップをチームトークTeam talkと表現しています(Mulley,et al, 2012)。

オプショントーク(選択肢についての話し合い)

 オプショントークは3ステップの2番目のステップです。選択肢それぞれの内容を詳しく伝え患者の理解を深める段階にあたります。具体的には次のような内容を含みます。

選択する内容について誤解がないか、患者の理解を確認する。

あてはまる選択肢をリストにして提示する。(場合によっては、積極的な経過観察といった選択肢も含まれる)

選択肢それぞれの医学的方法の違いを説明し、対話の中から好み(プリファレンス)を探る。(特にそれぞれの選択肢のメリットとデメリット、からだ・心理面・人間関係や役割などの社会的な面に起こる影響を伝える。その違いがどう受け止められるかは患者によって違うということも話し合う。)

意思決定の支援ツールを提供する。

まとめと振り返りを行い、理解の確認をする(ティーチバックも活用できる)

ディシジョントーク(決定についての話し合い)

 3ステップモデルの最後のステップが、ディシジョントークです。具体的には次のような内容を含みます。

好み(プリファレンス)に焦点をあて、何が大事だと思うかを尋ねる。

希望があれば、もう少し決めるまでに時間をかけてもよいこと(治療上どのぐらい待てるか可能な範囲による)を伝え、好み(プリファレンス)を引き出す。

決定を先に延ばしたほうがよいか、決定へ移ってよいかを確認する。

決定を振り返ることが、決めるまでのプロセスを終結するのによい方法である。

 ここでは、患者にとって何が重要かを尋ねたり、はっきりと好み(プリファレンス)を引き出すことに焦点をあて、そのうえで決定に移ります。

 中には自信を持って決められる人もいるでしょう。自分の力で情報を得てそれが自分の人生で大事にしたいことと一致していれば、医師による好み(プリファレンス)の確認は必要ありません。しかし、中には患者自身が何を大事にしたいかはっきりできずにいる場合もあるでしょう。そういう場合には、医療者も、患者が何を大事にしたいと考えているのかを聞き理解することが大切です。患者の好み(プリファレンス)を理解できれば、患者の好み(プリファレンス)を踏まえてベストな方法をアドバイスすることができるでしょう。

引用文献
Elwyn, G., Frosch, D., Thomson, R., et al. (2012). Shared decision making: A model for clinical practice. Journal of General Internal Medicine, 27(10), 1361-1367.

Mulley, A. G., Trimble C., Elwyn, G. (2012). Stop the silent misdiagnosis: patients' preferences matter. British Medical Journal, 345, 1-6.

(大坂和可子、中山和弘)

コメント

素晴らしい内容ですね。早速購入しました。勉強させて頂きます。

鳥山 和宏 2022年12月30日17:29

中山和弘です。うれしいコメントありがとうございます。そして、本も購入していただき感謝します。

nakayamakazhiro 2022年12月30日22:15

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