5.患者中心の意思決定支援

質の高い意思決定ガイドのための国際基準

5.患者中心の意思決定支援

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意思決定ガイドの国際基準IPDAS

 欧米では意思決定ガイド(ディシジョンエイド Decision Aids)の研究が1990年代から盛んになりました。意思決定ガイドの研究が盛んになるにつれ、意思決定ガイドの質が問われるようになりました。質の低い意思決定ガイドが普及しても患者の納得のいく意思決定にはつながらないからです。そのため、意思決定ガイドに含まれる情報は、どちらかの選択肢について情報の偏りがないように作る必要があります。

 そこで、2003年に世界の意思決定支援の研究者らが、意思決定ガイドの国際基準IPDAS(International Patients Decision Aids Standard)を作成するための組織IPDAS collaborationを設立して、開発しました[1]。この基準は、人が何かを決める時、人間だからこそ持つ考え方の癖や傾向(認知のゆがみ)についての研究を基に、各選択肢に対して中立的に支援できるよう作られています。

 この基準によって、利用しようとする意思決定ガイドの質の高さを確かめることができます。さらに、意思決定ガイドを開発する際、基準を踏まえることで、質の高い意思決定ガイドを開発することもできます。

 基準は常に洗練されていてバージョンが上がってきています。最新版は44項目から構成されるIPDASi (version 4.0) [2]です。IPDASのあとに「i」が付いているのは、instrumentの頭文字です。

 日本でも、納得のいく意思決定を支援するためには、質の高い意思決定ガイドを開発する必要があると考え、「健康を決める力」に関わる研究メンバー、意思決定支援研究を行うメンバーで、この国際基準の日本語版を開発することにしました。

 日本語版の開発作業は、Beatonらのガイドライン[3]に基づき、2名による和訳後に1つの和訳に統合、2名による逆翻訳、メンバーによる和訳の検討と修正を行いました。そして、開発した日本語版は、2017年12月にIPDAS collaborationから承認を受けて、そのサイトではJapanese version of IPDASとして紹介されています。

以下のリンク(PDFファイル)からご覧ください。

IPDASi(Version 4.0)日本語版

質の高い意思決定ガイドを見つけるには?

 欧米では、たくさんの意思決定ガイドの開発と評価の研究がすでに行われていますが、日本ではまだ取り組みが始まったばかりです。出生前診断に関する意思決定支援にオタワ個人意思決定ガイドを活用し効果を検証する研究[4]、胃ろう(胃に管を入れて栄養を注入する方法)に関する意思決定ガイド活用の効果についての研究[5]が行われています。
 また、乳がんの手術で、がんの部分だけを取り除く乳房部分切除術がよいか、がんと乳腺を取り除く乳房切除術がよいか、乳房切除術をする場合には乳房再建術(乳がんの手術によって失った胸のふくらみを新たに作り直す方法)を受けるかどうかという意思決定ガイドの効果を検証するランダム化比較試験[6](乳がんの術式選択意思決定ガイドについて知りたい方はこちら)が行われました。しかし、医療の現場で、意思決定ガイドを活用できる体制はまだ整っていません。

 しかし、欧米では意思決定ガイドを紹介し活用できるようにしています。Ottawa decision aidsのウェブサイトの中には、A to Z Inventoryというコンテンツがあり、意思決定ガイドを検索できるようになっています[7] 。
https://decisionaid.ohri.ca/AZinvent.php

 他にも、AHRQ(Agency for Health Research and Quality)やNIH(National Institutes of Health)など、意思決定ガイドを公開しているホームページがあります。Ottawa decision aidsのA to Z Inventoryの特徴は、1つ1つ紹介している意思決定ガイドについて、IPDASのチェックリストを用いて、どのぐらい基準を満たしているか評価している点です。医療者が患者に提供する際、患者が自分で使用する際に、このチェックリストを見てどのぐらい基準が満たされているのかを確認して活用できるようになっています。


2016年12月6日公開 2018年2月6日更新 (大坂和可子、中山和弘)


引用文献
[1] G. Elwyn, A. O'Connor, D. Stacey, R. Volk, A. Edwards, A. Coulter, R. Thomson, A. Barratt, M. Barry, S. Bernstein, P. Butow, A. Clarke, V. Entwistle, D. Feldman-Stewart, M. Holmes-Rovner, H. Llewellyn-Thomas, N. Moumjid, A. Mulley, C. Ruland, K. N. Sepucha, A. Sykes, T. Whelan; International Patient Decision Aids Standards (IPDAS) Collaboration, Developing a quality criteria framework for patient decision aids: online international Delphi consensus process, B.M.J. 333 (2006) 1-6.
[2] Toward Minimum Standards for Certifying Patient Decision Aids: A Modified Delphi Consensus Process. Joseph-Williams N, Newcombe R, Politi M, Durand MA, Sivell S, Stacey D, O'Connor A, Volk RJ, Edwards A, Bennett C, Pignone M, Thomson R, Elwyn G. Medical Decision Making. 2014 34(6):699-710.
[3] Beaton et al(2000).Guidelines for the process of cross-cultural adaptation of self-report measures. Spine,25(24):3186-91.
[4] N. Arimori; Randomized controlled trial of decision aids for women considering prenatal testing: The effect of the Ottawa Personal Decision Guide on decisional conflict. Japan Journal of Nursing Science, 3(2) (2006) 119-130.
[5] Y. Kuraoka, K. Nakayama; A decision aid regarding long-term tube feeding targeting substitute decision makers for cognitively impaired older persons in Japan: A small-scale before-and-after study. BMC Geriatr, 5 (2014)14-16.doi: 10.1186/1471-2318-14-16
[6] W. Osaka, K. Nakayama; Effect of a decision aid with patient narratives in reducing decisional conflict in choice for surgery among early-stage breast cancer patients: A three-arm randomized controlled trial. Patient Education and Counseling, Available online 20 September 2016, http://dx.doi.org/10.1016/j.pec.2016.09.011
[7] Ottawa Hospital Research Institute, A to Z Inventory of Decision Aids, h ttps://decisionaid.ohri.ca/AZinvent.php, 2014 (accessed 24.10.13)

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