毎日新聞コラム「健康を決める力」

第30回 自分にとって何が重要か

毎日新聞コラム「健康を決める力」

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毎日新聞 2020年2月26日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 分断が進む世界各国で格差社会を描く映画が作られています。その中で韓国の「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞作品賞を受賞しました。失業中の家族が社長一家の大豪邸に巧みに「寄生」していく様子が面白いのですが、金持ちも家庭教師、家政婦、運転手などの労働に「寄生」しているという問題提起でもあります。

 新型コロナウイルスも人間に寄生し始めました。分断や格差のない対応が求められますが、国や地域などによって異なるようです。今こそ、日本人は正しい情報を入手して意思決定ができるヘルスリテラシーを身に付けるべきだという意見が増えています。

 自分で判断して意思決定できる力を指す「ヘルスリテラシー」を身に付けるには、選択肢と長所・短所の情報を得る必要があります。しかしいくら情報があっても、それを使った決め方がわからないと選べません。そこで欧米では、1990年代からパンフレットやウェブで意思決定を支援する「ディシジョンエイド」が開発されています。日本では「意思決定ガイド」と呼んでいます。

 検査や予防接種、治療やケアを選ぶために、数多くのガイドが作成されています。ウイルス関連では、インフルエンザ、HPV(子宮頸(けい)がんと関連)の予防接種などがあります。選択肢と長所・短所(例えば、効果や副作用の確率)を一覧表にして比較し、自分にとって何が重要かを考える決め方になっています。

 それを利用する目的は、十分に情報を得た上で自分の価値観と一致したものを選ぶことです。利用する情報源や担当した専門家によって、知らぬ間に選ぶものに偏りが出ていたら困ります。選んだ結果に不満があれば後悔したりするものですが、決め方を知らずに後悔すると二重の後悔になってしまいます。

 日本で利用できるガイドは極めて少ない状況です。そのため、選択肢や長所・短所が空欄で、何にでも使える「オタワ意思決定ガイド」が役立ちます。すべてを埋めて、何を重視するのか星を付けます。全部五つ星だと選べませんが、価値観を「見える化」する作業なので、納得しやすくなります。これは情報に基づく決め方を学ぶツールでもあると思います。

 残る課題は、空欄を埋められるための支援で、信頼できてわかりやすい、「迷ったらここ」という情報源が求められます。情報でも分断が進めば、ヘルスリテラシーの格差は拡大します。

オタワ意思決定ガイド

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