毎日新聞コラム「健康を決める力」

第33回 「医療化」のリスク

毎日新聞コラム「健康を決める力」

毎日新聞 2020年6月18日 東京朝刊

聖路加国際大教授 中山和弘


 新型コロナウイルスの影響で、いわゆる「コロナうつ」が懸念されています。私も経験した、重い気分が続くようなら、治療を要する病気だと判明した方がよい半面、リスクもあります。

 身の回りの問題で、医学の対象でなかったものが、診断・治療されるようになることを「医療化」と呼びます。歴史的にその範囲は広がり、人の誕生から死までが対象になり、行動や言動、態度や振る舞いもそうなりました。職場や学校に行けなくなったり、人付き合いがうまくいかなくなったりした場合、病気となれば休んだり治療の対象になったりします。これは「社会生活」が医療の対象になったとも言えます。

 もちろん診断されれば、助けが必要な人に手が差し伸べられます。しかし、人は問題に直面して解決できなくなると、落ち込んで人付き合いがしにくくなり、孤立しがちです。そうなるとますます助けを呼べない、そんな自分が嫌になり生きる希望さえ持てないという悪循環に陥ります。そうして狭められた選択肢から抜け出せないのが病気だとされれば、それを巻き戻していくための支援が必要であると気づけます。

 他方、世界的にうつ病の患者数は、若年層の自殺増とも関係しながら増加していて、それが一般的になるほど「自分はうつ病ではないか」と思う人が増えます。正しい理解がなければ、ネット上にあふれるチェックリストの結果をうのみにし、偏見を持つ人もいるでしょう。偏見が広がれば、診断によって特別扱いされて周囲から孤立することを恐れ、受診の必要な人がちゅうちょしてしまうかもしれません。むしろ逆に、特別扱いされて休みたい、解放されたいという人には診断書は立派な証明書です。

 診断を受ければ、周囲の人もどう接したらよいか考える必要が出てきます。自分より医療者とのつながりの方が優先だから「専門家に任せるべき」となり、腫れ物に触るようになるかもしれません。医療に任せてしまうと、周囲で解決すべき問題が見逃されるリスクがあります。

 結局改善しないと不安やストレスが募る上に、本人に原因があるとされたらどうでしょう。「医療化」は一人一人に求められる判断や意思決定をよく考えて行われるべきで、ヘルスリテラシーとセットだと思います。=次回は8月13日掲載

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