毎日新聞コラム「健康を決める力」

第8回 統計理解しリスク回避

毎日新聞コラム「健康を決める力」

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毎日新聞 2017年12月24日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 看護学生に統計を教えて30年になります。数字が苦手な人でも、どうすると理解しやすいかを考えてきました。今月、円の重なりの図で説明する「看護学のための多変量解析入門」(医学書院)という本を出版しました。看護で有名なナイチンゲールは、死亡率を比較してその原因を究明するなど、統計の先駆者として広く知られています。

 もちろん、統計に触れるのは医療者だけではありません。一般向けの健康情報でも、その元ネタは研究論文で、ほとんどで統計、しかも多変量解析が使われています。多変量解析とは、物事の要因が複数ある時に効果を発揮する手法です。

 私の本では、女性の髪の長さと彼氏の有無の関係を例に説明しました。「髪の短い人ほど彼氏がいる」という結果があった場合、一見、髪の短さが彼氏ができる要因のように見えます。しかし実は背後には髪の短い人ほど活動的で、活動的であることが彼氏がいる真の要因だったという事実が隠されていたりします(看護と関係ないですが)。生活習慣病のように、年齢、喫煙、運動、食事など要因が多い場合は不可欠な方法です。

 多くの健康情報では「運動すると病気のリスクが20%減る」などと統計的な数値が紹介されます。しかし、どれくらい正確に理解されているでしょうか。基本的な数値を理解できる能力のことをニュメラシー(numeracy)といいます。英語のナンバー(number)と読み書き能力のリテラシー(literacy)からできた造語です。

 では、日本人のニュメラシーはどのくらいでしょう。私たちの調査を含め、ニュメラシーの測定の問題3問にすべて正解した人は5~6割でした。これらは、確率や%の理解なので、健康情報でよく登場しますが、理解が難しい方が少なくないかもしれません。このような中、日本の小中学校、高等学校の学習指導要領が新しくなって、ようやく統計教育が2011(平成23)年から段階的に取り入れられましたが、どうなるでしょうか。

 すでに海外では、ニュメラシーが低いとリスク情報の理解が難しいと報告され、図を使うなど伝わりやすい方法の研究が積み重ねられてきています。心臓病のリスクは、死亡率よりも心臓年齢で伝えた方が強く感じやすいが、その後の行動の変化には差がないという研究も目にしたことがあります。このような研究が進まないと効果的な方法がわからず、うまく伝えようがありません。

 誰もが健康情報を理解できるよう支援するためにも、医療者が統計をよく理解していないと困るので、少しでも役に立てればと願って本を書きました。もし、お知り合いに統計が苦手という方がいらっしゃれば、冬のギフトに......。

(次回は2月4日掲載)


ニュメラシーの測定 Schwartz尺度日本語版(Okamoto et al.,2012)
●問1 1~6のいずれの目も同じ確率で出る6面サイコロがあります。これを1000回振った場合、偶数(2、4、6)の目は何回出るでしょうか。
●問2 ある宝くじでは、1%の確率で1000円が当たります。1000人がそれぞれ1枚ずつ宝くじを購入した場合、1000円が当たるのは全部で何人でしょうか。
●問3 ある宝くじでは、1000分の1の確率で車が当たります。このくじ券のうち、何%に車が当たりますか。


正解:問1 500回 問2 10人 問3 0.1%

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