毎日新聞コラム「健康を決める力」

第9回 医学用語は「難しい」

毎日新聞コラム「健康を決める力」

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毎日新聞 2018年2月4日 東京朝刊掲載

聖路加国際大教授 中山和弘 著


 昨年12月に出版された五木寛之さんの「健康という病」を読むと、前々回(11月掲載)のこのコラムを読んでヘルスリテラシーという言葉を知ったことが書かれていました。そして、次々と新語が登場して、ついていくのが一苦労だが、その力を養えという意見に全面的に賛成だとあり、とてもうれしい思いをしました。

 新語といえば、先月10年ぶりに改訂された「広辞苑」の第7版が話題になりました。今回は、医学用語が重点分野とされ、これまでで最大規模の400語が追加されたそうです。医療の進歩は速く、私も新しい言葉についていくのは大変です。早速、「ヘルスリテラシー」を探しましたが、やはり追加されていませんでした。がんばって10年後に期待です。

 ヘルスリテラシーとは、健康情報を入手して、内容を理解した上で、評価して適切に決められる力ですから、正しく理解できないとどうしようもありません。専門家が次々と新しい医学用語を使って情報提供すれば理解できないのは当然です。実際、日本では、健康情報が手に入っても理解するのはやや難しいようです。私たちの調査では、医師から言われたことなどを理解するのが「難しい」と回答した割合は、2~5割ありました(表)。ヘルスリテラシーが欧州8カ国の調査で最も高かったオランダと比較すると、差がありました。

 理解が難しい理由には、子供の頃からの健康教育の不十分さもあるでしょうが、専門用語の使用も考えられます。私の周りの医療者でも、自分が使っている言葉が専門用語だと気がつかなくなっているとよく聞きます。学生が作る調査の質問項目にも、一般の人は理解できないような専門用語が使われていることがよくあります。「その言葉って高校生の時には知らなかったのでは」と聞くと、「知らなかったかどうか、もうわからなくなっている」と言われました。米国では医師会が作成したヘルスリテラシーに関するマニュアルがあり、専門用語は使わず、お茶の間や家族の間で話されている言葉を使うようにと書かれています。

 専門家というのは専門以外のことには詳しくないわけですから、ある意味では「おたく」です。それは「広辞苑」の第6版では「特定の分野・物事にしか関心がなく、その事には異常なほどくわしいが、社会的な常識には欠ける人」で、第7版では「特定の分野・物事には異常なほど熱中するが、他への関心が薄く世間との付き合いに疎い人」となっています。医療関係者はもっと世間と茶飲み話をしたほうがよいようです。

次回は3月11日掲載


健康情報を理解するのが「難しい」と回答した割合の比較
●心の健康を維持する方法に関する情報を理解するのは
日本:49.3%
オランダ:17.3%

●医師から言われたことを理解するのは
日本:44.0%
オランダ:8.9%

●薬についている説明書を理解するのは
日本:40.8%
オランダ:13.1%

●健康になるためのメディア(インターネット、新聞、雑誌)情報を理解するのは
日本:33.6%
オランダ:13.6%

●処方された薬の服用方法について、医師や薬剤師の指示を理解するのは
日本:25.6%
オランダ:2.1%

●予防接種が必要な理由を理解するのは
日本:21.7%
オランダ:4.8%

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